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    あんちょ@supe3kaeshi

    たまに短文

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    POIPOI 24

    【うさぎ①】コンセプトバーで働くウサギ藍良に恋する眼鏡一彩のパロディ小説。二人とも大学生で成人済。飲酒描写あります(書きたいシーンのみ・全年齢)
    ※2月のひいあいWebオンリー用の展示でした

    #ひいあい
    hiiro x aira

    ◇◆今夜もうさぎの夢をみる◇◆Scene1.出会い ◆◇◆◇

     視覚から惑わせてくる紫色。漂う酒の香りに思わず顔をしかめる。少し大きめの音量でかかっている店内BGMが僕の洞察を鈍らせた。ジャズをこんなにうるさいと思ったのは初めてだ。
     上機嫌な兄さんに、肩を組むようにして半ば強引に連れてこられた場所は、繁華街のコンセプトバー。表の看板には『妖艶なウサギたちと運試しはいかが?』なんて信じられないくらいにセンスのない謳い文句がつづられていた。
    「シケた面してねェで楽しんでこいよ」
     ぐいと兄に肩ごと引き寄せられ、そのまま背中を押されてよろめいた。少しずれた眼鏡を直して顔をあげると、目の前には店のボーイが立っていた。
    「あ、あの」
     なんて言うのが正解なのかを知らない僕は、ただ格好悪く狼狽えるしかなかった。
    「こいつ初めてだから案内してやってくれ」
     そう言って兄さんはカウンター席の方へと向かって行った。カウンター内にはウサギの耳をつけた黒い衣装の青年たちがいる。兄さんは、その中にいた水色の髪の男の人に声をかけていた。ああなっては僕が文句を言いに行くことはできない。店員さんや他のお客さんに迷惑だろうし、何より兄さんの楽しみに水を差したいわけではない。
     僕は仕方なく、笑顔のボーイさんに連れられて店の奥へと向かった。

     たまには遊びを覚えろと、兄さんに言われたのがきっかけだった。
     せっかくお酒を飲めるのだからと色んなお店を教えてもらった。兄さんが飲みたいだけなんだとは分かっていたけれど、兄さんが構ってくれる時間は悪くなかったし、僕自身もお酒に興味がないわけではなかった。一口に居酒屋やバーと言っても色んなお店があって面白かったし。……とはいえ、コンセプトバーという形態のお店に興味を持ったわけでも、知りたいと思ったわけでもない。
     こうして知った今も、知れて良かったとは少しも思わない。今日みたいに兄さんに連れてこられなかったら、絶対に縁のない店だろう。
     よくもまあ、こんなにもジャズを下品にできたものだと思う。
     僕が案内されたのは、半個室と言っても差し支えない、背もたれの高い半円型のソファ席。テーブルの真ん中にはトランプとダイスが置いてある。
    「当店は初めてとのことですので、簡単に説明いたします」
     そう言って店員がタブレットを取り出した。この店はワンドリンク制で、この時点でチャージ料金が発生していること。キャストと呼ばれる店員のうち一名が側に座って接客を行うこと。接客内容は話し相手、飲み相手になること、テーブルの上にあるトランプ等を使ってレクリエーションをすること。軽いスキンシップは構わないが、無暗に触れてはならないこと。などなどが説明された。
    「気になるウサギさんがいたら呼びますので、良かったらプロフィールを見てみてくださね」
    「あ、いや……」
     この店の世界観に順応できない僕にとっては、この空間はずっと居心地が悪い。誰でもいい、と答えたいところだがウサギの格好をした誰かが隣に座ってお話をしてくれるという接客スタイルも求めていない。助けてくれ、兄さん。
     兄さんのいるカウンター席へ行きたい。そう口にしようとしたその時だった。
     トレーに飲み物を乗せて慌ただしく通り過ぎる店員が目についた。僕と年が近そうだったのと、何故か放っておけない雰囲気を感じて、目で追ってしまう。
    「今の人は?」
    「あのウサギさんは、『あいら』くんですよ。すみません、彼はまだ入店したばかりでプロフィールカードが間に合っていなくて……」
     そう言いながら、ボーイがタブレットの画面を手繰る。そこに表示されている人たちには、僕はもう興味はない。
    「あの人がいい。あの人を呼んでくれないだろうか」
     僕はとにかくこの場をやり過ごそうという思いでいっぱいだった。そして話し相手を選べるなら、あの子がいいと思ったのだ。
    「かしこまりました。では最初のお飲み物を……」
     僕は最初の注文をして、彼が来てくれるのを待った。

    「おれを選んでくれてありがとォ~!」
     あまり待たずに、その人は現れた。トレーに乗っているのは今度は僕のドリンクだ。
     同席してくれるキャストにも飲み物を奢っても良いらしいので、僕は彼の分も同じものを注文した。
    「はいこれ、ご注文のレモンサワーです」
     お酒を飲むのは久しぶりだが、なんとなくソフトドリンクを頼むのでは格好がつかないような気がした。僕の目の前にドリンクを置いた彼が僕の隣に座る。そして、お尻ひとつぶん距離を詰めてきた。大きく手を動かしたら触れてしまいそうな距離。僕は思わず、彼の格好をまじまじと見てしまった。
     穿いているパンツは短く、細い脚のラインをタイツのダイヤ柄が強調している。ウサギのしっぽを模しているらしいぽんぽんのついた大きなリボンが腰についていて、その下ではフリルのスカートの形をしたものがお尻を覆うようについている。よく見るとその生地は細かい網のようなものを使っているので透けている。過度に露出しているわけではないのに、何故か目のやり場に困る衣装だなと思った。
    「こういうお店は初めて?」
    「えっと……そうだよ」
     見栄を張ることでもないかと思い、素直に頷く。すると彼も笑った。笑顔がかわいい。不覚にもどきりとしてしまった。
    「ふふゥ、実はおれも初めてなんだ」
    「え?」
    「おれ、この店で働き始めたばっかりだから指名もらうの初めてなの。ありがとねェ」
     『あいら』が両手で名刺のようなものを差し出してきた。
    「おれは『あいら』って言います。きみは名前は何ていうの?」
     その名刺には、彼の写真とSNSのIDが書かれていた。名前を覚えてもらい、次の指名をもらうためのこの店の戦略だろう。
    「僕の名前は一彩」
     僕は彼の名刺を大事に財布に仕舞う。
    「じゃあ、ヒロくんって呼んでもいい?」
    「う、うん。君がそう呼びたいならいいよ」
     初対面の人にあだ名をつけられる経験は初めてだ。これが彼の営業トークというやつなのだろうか。
     僕の警戒心を、彼が少しずつ解いていくのが分かる。僕は油断しないように気を引き締めたが、彼のその場を楽しませようとする言動と仕草に、僕はだんだんと気を許していた。
    「ヒロくんは大学生なんだ、おれと一緒だねェ」
     『あいら』が僕の注文したレモンサワーを飲む。店員が隣に座って、その店員にも任意でドリンクを注文してあげるというこの店のシステムは、僕にとっては斬新だった。
     一時間くらい他愛のない話をして、そのあとはテーブルの上に置いてあるカードやサイコロで簡単な賭け事をして遊んだ。勝った方が負けたほうに何か質問できる、という他愛もないゲームだった。僕は気の利いた質問はできず、しどろもどろになりながら『あいら』が趣味のためにお金が必要で、そのためにこの仕事をしていることを聞き出した。
     自分の力でその資金を捻出するためにこのバイトをしているのだという。趣味がなんなのかを聞く前にゲームが終わってしまったけれど、自分に必要なお金を自分で稼いでいるのは素晴らしいなと思った。『あいら』からの質問は、かけている眼鏡は伊達なのかとか、大学では何を専攻しているのか、一緒に来ていた兄さんとは仲がいいのかとか、本当に興味があるのかそうでないのか絶妙なラインにまで及んだ。そう、僕は負け越したのだ。
     二時間ほどおしゃべりをして、僕は席を立った。カウンターにいた兄さんに声をかけると「もう帰るのか」と言われたりもしたけれど、こんなところいくらお金があっても足りない。だいたい、今日は兄さんの奢りだし延長はできないだろう。いつのまにか二時間も経っていたと思うくらい、『あいら』との時間は楽しかったけれど。
     『あいら』が店の出口まで見送りに来てくれて、兄さんに「この子にしたのかよ」とからかわれた。

     これが、僕と『あいら』の出会いだった。最初で最後の、この場限りの邂逅のはずだった。


    Scene2.SNS ◆◇◆◇

     どういうわけか、僕はその後も『あいら』のことを忘れられずにいた。勉強や論文に集中している時はいいのだけれど、ふと気を抜いた瞬間、脳裏に『あいら』の顔が浮かぶ。
     財布にしまっておいた、『あいら』の名刺を取り出す。かわいらしいウサギのコスプレをした写真と、SNSにアクセスするためのQRコードが載っていた。
     スマホのカメラでそれを読み取り、アクセスしてみる。一般的に広く使われているSNSのプラットフォームに、ハートマークのアイコンが現われた。
     『あいら』はそのアカウントで、お店の出勤情報やその日の衣装、日常生活についてなど色々な発信をしていた。写真は顔が写らないよううまく撮影され、写ってしまっているものには加工がされているが、それが『あいら』だとすぐに分かる。一日に最低でも三回は更新しているようだった。アカウントは開設されてから二週間程しか経っていない。店に入ったばかりというのは本当のことのようだ。
     僕が彼に初めて会った日の投稿を見る。その日の夜の投稿で「今日、初めて指名のお客さんが来てくれたよォ~! 大学生のイケメンだった!」と呟かれていた。リップサービスなのだろうけれど、悪い気はしなかった。
     しかしその日からの投稿を日付順に辿っていくと、最近はコンスタントに指名をもらえていることが分かった。初指名から勢いがついて、自信もついたようだった。
     そこまでスクロールして、ふと我に返る。
     店員と客という関係なのに、僕はたくさんいる客のうちの一人なのに。本来もう二度と会うことのない相手のはずなのに、妙に気にしてしまっていることに気づいた。
    『新しいピアスしてみたんだァ』
     彼の、こめかみと耳の写る写真にどきりとした。僕がこうしている間にも、『あいら』は次々に新しいお客さんの隣に座って、一緒にお酒を飲むのだろう。どうしようもないことなのに、嫉妬した。あぁ、僕は彼にまた会いたいと思ってしまっているのか。
     こんなはずじゃなかったのに。

     そしてその日の夜。
    「また来てくれて嬉しいよォ、ありがとねェ!」
     顔を上げると、ふわっと花の香りがした。僕を惑わす紫色の照明に浮かぶ『あいら』の笑顔。
     僕は『あいら』に会いに、一人で店を訪れていた。


    Scene3.ツーショット ◆◇◆◇

     僕は、『あいら』のいるコンセプトバーに通うようになった。大学の講義や、塾の講師のバイトが終わった夜に立ち寄った。
     好きにお金が使えるわけではないから自制しながら細々と通う。何度目かのある日、『あいら』とすっかり打ち解けて仲良くなったからか、僕は少し浮かれていた。
    「あいら、写真を送ってくれてありがとう。今日の衣装もかわいらしいね」
    「ありがとォ」
     今日の『あいら』は、いつもと雰囲気の違う色合いの衣装を着ていた。衣装の形は同じなのだけれど、生地の色が白い。照明を落としている店内では、少しの灯りをも反射してぼんやりと薄紫色に光って見えた。その存在感に、思わず見惚れる。
    「写真を見て来てくれたんでしょ? 今日は新しい衣装をおろしてもらったからねェ」
     そう言って、『あいら』が僕が注文したレモンサワーを飲む。ここに来るときは一緒にレモンサワーを飲むのが定番になっていた。
    「でもヒロくんは写真送ってくれなかったでしょォ」
    「えっ、これは僕も写真を返信するのがマナーなのかい?」
    「マナーとかじゃないけどォ、おれもヒロくんの写真欲しいなァ」
     甘えた声でねだられると弱いのは、もう見透かされていそうだ。
     僕は手元にあるスマホを起動させて、『あいら』とのメッセージ履歴を開いた。僕は来店二回目で『あいら』の名前入りのスタンプカードをもらって、三回目の来店で連絡先を交換していた。もちろん、店用のスマホでのやりとりだけれど。それ以来、店に行けない日でも『あいら』と連絡をとれるのが嬉しくてほとんど毎日連絡をとっていた。僕が遠慮して連絡をやめた日も、僕の気持ちを見透かしたように、『あいら』から連絡がくるのだ。

     『あいら』が今日、新しい衣装を着ていることは、事前に送られてきた写真で知っていた。顔を隠した写真だったけれど、直接会って衣装の全容をこの目で見たくなるような写真に焦らされた。
     メッセージに画像を添付するためのアイコンをタップすると、端末に保存されている写真が一覧で表示される。大学の情報ポータルサイトや、ニュースサイト、調べもので訪れたホームページのスクリーンショットで溢れた一覧に少し恥ずかしくなる。時々食べたものや友人の写真があるけれど、自分の写真は意外と無い。
    「うーん、でも僕は送れるような写真が無いよ」
    「じゃあおれが撮ってあげる。スマホ貸して」
    「え、いいよ……」
     『あいら』が僕の写真を本当に欲しいと思ってくれているのなら悪い気はしないのだけれど。
    「いいからァ、ほら笑って」
     いつの間にか僕からスマホを取り上げた『あいら』は、僕に向かってカメラを構えた。僕はずれた眼鏡を直して笑顔を作る。
    「撮れたよォ、それおれに送信してね」
     渡されたスマホの画面を見ると、ぎこちなく笑う僕が写っていた。こんな写真、僕だけが持っていても仕方がないので、そのまま『あいら』に送信する。
    「せっかくなら君を撮りたいよ、あいら」
     僕の端末には、『あいら』の顔が写っている写真は一枚もない。SNSにアップされている写真も顔が写らないようになっているのだから当然だけれど、『あいら』の顔を見るには店に来るしかないのだ。
     君の写真を撮りたい。ダメもとで言ったそれは案の定、すぐには肯定されなかった。
    「あ、ごめん。説明してなかったね。……写真はオプションなんだァ」
     キャストのプライバシーを守るため、顔のはっきり写った写真はSNSに載せないことを徹底的に指導されているのだと、『あいら』が説明してくれた。そして、撮影をするならオプション料金を払わなければならないことと、撮影はスマホではなくポラロイドカメラということも。いつ誰がネットに顔写真を流出させるか分からないこの時代、そのあたりは徹底しているようだ。
     しかし、キャストが配る写真入りの名刺と、客とのツーショット写真などの印刷されるものについてはキャスト自身が許容している場合もあるという。
    「……ごめん、軽率なことを言って」
    「んもォ、謝ってばっかり。一緒に撮ってくれないのォ?」
    「いいのかい?」
    「おれ、写真NGじゃないから。じゃあボーイさん呼ぶねェ」
     僕が何か言う前に、『あいら』がボーイさんを読んで何か合図をした。そしてすぐに、ボーイさんがポラロイドカメラを持ってやってくる。オプション料金とやらは写真を一枚撮るにしては高いと感じたけれど、『あいら』の写真が手に入るのなら安いものだった。
     ボーイさんが僕たちに向かってカメラを構えると、『あいら』が僕の腕をぎゅっと引き寄せてきて驚いた。その瞬間、シャッターが切られる音がする。……僕、絶対変な顔をしていたと思うのだけれど。「もう一枚撮りますよ~」と言われるまでに、気を取りなおすこともできなかった。

     写真は帰りにキャストから手渡しでもらえるらしい。写真を撮る時に強く引き寄せられてから、『あいら』の腕はずっと僕の腕に絡みついている。僕は心臓がどきどきして、どうにかなりそうだった。
    「ねェ、ヒロくん。……連絡先、交換しない?」
     いつもより近い距離で、『あいら』が見つめて来る。そのことに気を取られ、彼が何を言っているのかを理解するまでしばらくフリーズしてしまった。
    「え? それって……」
    「そう。これ、おれのスマホ」
     『あいら』が見せて来たのは、さっきの写真のやりとりの時とは違う、かわいらしくデコレーションされたスマホだった。仕事用ではない、個人用のスマホということだろう。だからつまり、交換するのはプライベートの連絡先ということになる。
    「い、いいの……?」
    「禁止はされてないけど、他の人には内緒ね?」
    「もちろん……!」
     僕は早速、もう一度自分のスマホを取り出した。QRコードを読み込むと、『あいら』のアカウントとは別に、新しいアカウントが追加される。

    『白鳥藍良』

     僕は突然画面に現れたその名前を、しばらくじっと見つめてしまった。
    「綺麗な名前だね」
     僕がやっとそれだけ言うと、藍良が少し頬を染めて、小さな声で呟いた。
    「ありがと……」
     えへへ、と笑う藍良。本人の素の表情を見ることができたような、そんな気がした。

    「じゃあお見送りしまァす」
     藍良が手を繋いで席を立ってくれて、僕の隣を歩いて店の出口まで案内してくれた。途中、ボーイさんから藍良に手渡されていた小さなカードを、出口で一緒に見た。
     それは、先ほど席で一緒に撮影したポラロイド写真だった。狼狽える僕と、僕に甘えてくれてる藍良がしっかりと写っている。二回目に撮影した写真も手渡されて、僕は首を傾げた。
    「あれ、もらえる写真は一枚じゃなかった?」
    「目を閉じちゃったときのために二回撮ることにしてるの。二回ともいい感じじゃん、ラッキーだねェ」
     これくらいで得した気分になるのは店の思惑にハマっているのだろうなと思ってしまうのだけれど、藍良にラッキーだと言われると素直にそうなんだと思ってしまう。
    「よかったら、一枚はきみが持っていて、藍良」
     言われ慣れているかもしれないけれど、僕は二枚のうちの片方を藍良に差し出した。
    「え……でも、もらったらまたヒロくんに会いたくなっちゃう」
     かわいらしく断るための常套句だろうって、後で考えればわかりそうなものなのに、藍良の思わせぶりな表情と言葉にいちいち動揺するのが僕だった。
     少し強引に写真を押し付けると、藍良は「大切にするね」と言ってその写真を胸の所で大事そうに持って手を振って見送ってくれた。
     僕は店の外でしばらく写真を眺めて、それを手帳に大切にしまった。
     今日は一緒に写真を撮って、連絡先を交換した特別な夜になった。少し浮かれた足取りで、駅まで向かう。街並みはすっかりクリスマスの装いで、ところどころイルミネーションが輝いていた。クリスマスはお店は忙しいだろうか。プライベートの連絡先を交換したということは、お店以外でも会うことができるようになるだろうか。
     そんな勝手なことを考えていたら、ポケットの中でスマホが震えた。藍良からメッセージを受信しているとの通知をみて、僕は慌ててアプリを開く。

    『連絡先交換してくれてありがとォ! これでおれたち、友達だね!』

     その言葉に僕は嬉しくなるのと同時に、今までは友達ですらなかったのだという事実を思い知らされた。
     僕は駅のホームで電車を待ちながら、メッセージアプリで『白鳥藍良』のプロフィールページを眺める。
     藍良のプロフィール画像は、どこかの建物と一緒に写った藍良のものらしき手。その手にはカラフルに光る棒が握られていて、光るブレスレットが何本も腕に飾られていた。一言コメントには『人に迷惑をかけない』という目標のようなものが綴られている。
     藍良には、僕の知らない一面がまだまだたくさんあるのだと思い知るのと、これから藍良を知っていける喜びとが同時に襲ってきた。
    『今日はありがとう。また近いうちにお店に行くからね』
     そうメッセージを返信して、僕は目の前に到着した電車に乗り込む。

     扉を開ければ、僕を夢の世界に誘う紫色。
     漂う甘い酒の香り誘われて顔上げれば、かわいらしいウサギさんが僕を出迎えてくれる。
     彼の素顔を知りたいような、もう少しだけ夢を見ていたいような。そんな複雑な感情が、僕を捕まえたまま放さない。



    おわり

    あとがき↓






    お読みいただき、ありがとうございました~!
    このあと店外デートするようになったり、藍良のプライベートを知るようになって、幻滅どころかどんどん惚れていく一彩くんを妄想してください。
    『あいら』の営業トークにまんまとハマっていく一彩くん、書いててとても楽しかったです。
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    あんちょ@supe3kaeshi

    DONE【うさぎ⑥】塾一彩とうさぎ藍良のパロディ小説。コンセプトバーで働く藍良と、彼目当てに通っちゃう学生の一彩くんのお話。今回は藍良視点。◆◇◆◇9/10追記
    ◆◇今夜もウサギの夢をみる◆◇ Scene.10Scene10. ウサギの独白 ◆◇◆◇


     おれは、アイドルが好きだ。これまでもずっと好きだった。
     小さいころ、テレビの向こうで歌って踊る彼らを見て虜になった。
     子どものおれは歌番組に登場するアイドルたちを見境なく満遍なくチェックして、ノートにびっしりそれぞれの好きなところ、良いところ、プロフィールや歌詞などを書き溜めていった。
     小学校のクラスメイトは皆、カードゲームやシールを集めて、プリントの裏にモンスターの絵を描いて喜んでいたけれど、同じようにおれは、ノートを自作の「アイドル図鑑」にしていた。
     中学生になると好みやこだわりが出てきて、好きなアイドルグループや推しができるようになった。
     高校生になってアルバイトが出来るようになると、アイドルのグッズやアルバム、ライブの円盤を購入できるようになった。アイドルのことを知るたび、お金で買えるものが増えるたび、実際に彼らをこの目で見たいと思うようになった。ライブの現場に行ってサイリウムを振りたい、そう思うようになった。
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