初詣 人込みの喧騒や浮かれた空気から少し離れた静かな陽だまり。
「なんだった?」
少し上にあるふわりと下ろされた茶色に透ける髪が、目を輝かせて横からひょっこりと覗いてくる。アイボリーのマフラーに小さな顔が口元まで埋もれていて、寒さで赤らんだ鼻が、整った容姿を幼く見せていた。
「吉だった」
「弱!」
「えー?じゃあリョータはなんだったの?」
チラと見上げると、何かを企むようにリョータがニンマリと笑う。そんな意地悪な顔でもかわいいなぁだなんて惚けたことを考えていると、すたすたと大足でその場から歩いて行ってしまった。
「えっ?リョータ?」
離れていく背中に思わず声をかけると「そこ居て!」と顔だけ振り向いて笑顔で言う。驚いた。笑顔はもっとかわいいな。
言われた通りにその場に立ち尽くしていると、10メートルほど離れたところで立ち止まりクルッとこちらを向いた。
「ヤス!!」
歯を見せ笑うリョータが、両腕を広げて安田の名前を呼ぶ。慣れた人にしか見せないその懐こい笑顔にどれだけの人が心を揺さぶられてきたのだろう。
つられて眉を下げ笑い、彼のもとに駆け寄るとぎゅうと抱きすくめられ、耳元で笑い声が響いた。
「ははっ!本当に来た!」
「何だよ、本当になんだったの?」
状況が把握しきれずにいるとリョータが「これ」と、指先でつまんだ一枚の紙を目の前でひらひらとさせる。
「おみくじ。書いてあったから試した」
「何て書いてあったの…?」
指さす場所を見ると、〈待人〉の文字。
「意外と当たるもんだな」
「なんだよ、今のは神様関係ないよ」
「まぁ〜…ヤスとオレの間に、入り込む隙無いもんな?」
「ふ、耳赤いよ。リョータ」
「っうっせ!」
笑みを浮かべながら軽快なテンポで言葉を交わす。今年もこの二人に多くのご加護がありますように。
一. 待人すみやかに来る。