ワンライ『無自覚』『少女漫画』(2022/12/14) 放課後、類のガレージにて、司と類は台本の確認と配布準備を行っていた。
別に学校で行ってもいいのだが、やはり他者の干渉の少ないこの場は作業にとても最適であった。
……はず、なのだが。
(…視線を、感じる…)
作業そのものは特に問題もなく順調なのであるが、どうにも司からの視線を感じてしまう。
普段類が何かを隠そうとすると、司は一生懸命それを見破ろうとしてくる……のだが、今日は別に夜更かしをしていなければ食を抜いていることも無い為、隠し事はしていない。
他にここまでの熱い視線を受ける理由として思い浮かぶのは……
「む、類?何か気になった箇所でもあったのか?」
「…あ、あぁ…すまないね、少しゆっくり見すぎていたみたいだ」
「いや、別に速度は気にしていないのだが…」
初めての事だったので気を取られ過ぎていたようだ、まずは台本の確認作業をしっかりと終わらせなければ。
司と類で考え、えむと寧々に共有し、4人で素敵なものへと磨き上げていくための大事な原石なのだから。
―――
「よし。これで終わりだね」
「今回も無事に作れてよかったな。お疲れ様、類」
「司くんもお疲れ様。あとはこれを鞄に入れれば忘れる心配も無い…と」
「オレも鞄に入れ……うおッ!?」
突然上がった声に慌てて振り返ると、司がこちらに倒れてきた。
急なタイミングに支えることは出来ず、そのまま後ろのソファまで共に倒れる。
自分が下敷きになったが、特に危ない場所をぶつけたりはせずに済んだ。
「す、すまん!何かに躓いてしまったようだ…怪我は無いか?」
「うん、大丈夫だよ。躓いたという事なら、原因は僕にあるだろうし気にしないで」
「これを機に少しは片付けようとしないのかお前は……」
何事も無かった事だし元の体制に戻ろう…と体を起こそうとすると目がパチリと合った。
また、見られていたのだろうか。
そして心做しか顔が赤いように見える。
「司くん?どうしたのかな?」
「い、いや!別に、決して、類を押し倒してしまったなどとは考えていないからな…!」
どうやら思いっきり考えているようだ。
どうせだから少し遊んでみようかと、悪戯心が湧いた。
「そういえば司くん、君さっきからずっと僕の事見てたでしょう」
「む?急に何を言うんだ。そんなことは無いが?」
「…え?」
先程までの慌てようはどこへ行ったのか、落ち着いた様子で返答される。
図星を突くことで更に慌てた様子を見ようと思ったのだが、真逆の反応をされ気持ちが焦り始める。
そんな様子を見たからか、司は顔を赤くさせた。
「…そん、な……つもりは……」
思考で精一杯なのだろう、もごもごと言いながらも上から退く気配はない。
釣られて此方まで顔が熱くなってくる。
あんな、あからさまな熱い視線を…無意識に……
「…………」
「…………」
目が、合わない。
いや、正確には合うのだがすぐどちらからともなく逸らしてしまう。
「…………類」
「……なんだい、司くん」
「前にも言ったが……こういうことは、高校を卒業してからだな……」
「わ、わかっているよ!!」
意味深な視線を送っていたのはそっちじゃあないか!と叫びそうになったのを堪え少し睨みつけると、気まずそうな視線が返ってくる。
「……オレは、そんなに……見ていたのか」
「う、うん。それは、もう………」
「そうか…」
再びの沈黙。
いい加減恥ずかしさが溢れてしまいそうだったので退けようとした時、司が起き上がりそのまま体を起こされる。
そのまま台本をカバンにしまいに行ったのでソファに座り一息ついていると、戻ってきて隣に座った司に抱き寄せられた。
「…っ!」
「はぁー……」
「つ、つかさくん…くるしい……っ」
「すまん……もう少し、このまま……」
胸元へ寄せられ力一杯抱きしめられる。
安心する香り、温かい体温、そして、少し早く大きい心音はとても心地がいい。
こちらからも腕を回し、目を閉じ微睡んでいると頭を撫でられる。
「……急にどうしたのさ」
「…こうでもしていないと…何をするか分からなくてな」
「僕は別に構わないって言っているだろう?」
「こればかりは、譲れないな」
目を開き下から見上げると、何度目か分からない視線が交わる。
表情は穏やかなはずなのに、瞳に宿る熱が彼の心を表しているようで。
瞳の虜になっていると、頭を撫でていた手が頬に添えられる。
どちらともなく目を閉じ、唇を重ねる。
「…んっ……ふ、ぅ…」
「…ぁ……ん、………」
腕で支えてくれているが、体を反る体制が少し苦しい。
それでも必死にしがみつく。
添えられた手も、少し苦しい体制も、体を支えてくれる腕も、すべてがきもちいい。
ボヤけてきた思考をそのままに呼吸も忘れ夢中で口付けを続けていると、優しく離された。
「…はっ……は、ぁっ……」
「…は、……ぁ……」
体制、呼吸共に解放され息を整えていると、背もたれに寄りかかるよう体が動かされる。
そのままソファの上から司が被さってきた。
「なにもしないんじゃないのかい?」
「………キスは、する」
今度は両手を頬に添えられ、唇が重ねられる。
されるがままになっていると隙間をこじ開け入ってこようとするので、ゆっくりと口を開く。
「…ん、ぁっ……はっ……ん…」
「…はーっ……ふ、ぅん………」
互いに呼吸を忘れ、只管に舌を絡ませる。
最初は歯がぶつかったり、互いに目を開き睨み合いになって雰囲気が壊れたり、色々あった。
しかし、先の行為を行わない代わりにと、気付いたら二人してのめり込んでしまっていた。
唇を重ね舌を絡み合わせるだけでこんなに気持ちがいいというのに、さらに気持ちがいいというのは一体どうなってしまうのだろうか。
「…ふ、ぁ………はぁ、ん……」
「…ん、む…ぅ……はっ、……」
ちゅ、と音を立て離れていく。
すっかり無くなってしまった酸素を取り込むために必死に呼吸していると、司が倒れ込んでくる。
「…はっ、…はっ、…つか、しゃく……くる、し…」
「…はーっ、…はーっ……る、い……すき、だ……」
「…ぁ、は…ぼくも、すき、だよ…つかさ、くん」
酸欠でボヤけながら、先程の熱い視線を思い出す。
不安になる度届けてくれた司の好きを疑うつもりは無いが、やはり無意識で思ってくれる程だったと知れたことはとても嬉しかった。
無自覚を指摘したらこんなに熱烈な口付けをしてくれるなんて。
もっと好きになってしまうじゃないか……とは、恥ずかしかったので口には出さなかった。