宿伏ワンライ つまらん時代になったものだ。
宿儺は内心で独りごちる。
女も子供も蛆のように湧いてはいるが、それを取って食うにも鏖殺するにも、千年前とは比較にならない面倒が伴う。小僧を模した肉体を得た事で、高専の監視下とは言え行動の自由は手に入れたものの、未だ指三本の現状ではあの厄介な無下限の術師を抑えるには尚早だ。
それ以前に、非術師たちによって隅々まで法や共同体で切り分け、整地された世界の狭隘な事よ。陰陽の境が混沌としていた平安の世の闇の深さは現代の比ではなかった。
「つまらん」
宿儺は今度は口に出していた。
「なら帰れよ、そもそも付いて来てくれとは頼んでねぇ」
寄り合いで自らの価値を計る矮小な存在になった呪術師どもの中で、宿儺が唯一の存在価値を認める若き術師、伏黒恵は宿儺を一瞥し、つれない言葉を投げてくる。
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