胃袋掴んじゃう嫁ビッグラブ何故か知らないが突然水邸が爆発して行き場を無くした義勇さん。面白がったお館様の有難いお言葉により風邸に居候することに。目の前で大人しく正座する義勇さんと向き合って、歯軋りしながらストレスに耐える不死川君。
「良いかァ、絶対この線から入ってくんなよォ」
「承知した、世話になる」
子供顔負けの幼稚な発言を聞いても顔色一つ変えず、丁寧に頭を下げる義勇さん。警戒心も露わに、怒った犬の様に唸る不死川君。
するとぐぅ~と間の抜けた音が鳴り響いた。しょんぼりしながらお腹をさする義勇さん。水邸が爆発したのは早朝だったので、朝飯を食べ損ねてしまったのだ。すっかり気の抜けた不死川君、呆れたように額を抑え項垂れた。綺麗な顔が落ち込んでいる様は見ていてなんとも言えない気持ちになる。
「不死川はもう朝飯は食べたのか」
おずおずと身を乗り出して先程の線ぎりぎりまで近付いてきた義勇さん。窺うように見上げて来るのでその顔面の破壊力に思わず息を呑んだ。心臓がドクドクと脈打ち、体から異常な発汗、顔が熱くなり赤面していることが分かる。不死川君は思わず体ごと顔を背けた。
「ててててめェに食わせるものなんか何もねーからなァ!腹減ってんなら勝手にしやがれ!」
く、口が勝手に。違うのだ、俺もまだだから家にあるもので何か食うか、と言いたかったのだ。折角自分の陣地に義勇が居るのだから、可哀想だし少しは優しくしてやろうと思ったのだ。
口元を抑えて溜息を吐く不死川君にそうかと声を掛けてサッと身を引く義勇さん。持ってきた荷物を漁りながら「丁度良かった。台所だけ借りるぞ」と言って返事も待たず鼻歌交じりに歩いて行った。
見た事がない義勇さんの様子に度肝を抜いた不死川君。
頭の上にはてなを散りばめて呆然としていると、気付いた時には目の前に様々な料理が並べられていた。
「ぇ…これ、てめェが作ったの…か?」
着ていた割烹着を脱いで丁寧にたたみながら、うんと言ってまた正座をする義勇さん。頂きますと言って手を合わせ、小さな口をもぐもぐしながら食べ進めた。
唾が出るほど美味しそうなおかずだ。それがどんどん減っていく。自分もまだ朝飯にありつけていない不死川君。腹が鳴りそうなのを気合で我慢しながら、しかし物欲しげな顔でそれを眺めていた。義勇の顔がどことなく微笑んでいる様に見える。
「不死川も食べるか?」
そう言って新しい茶碗を持ち上げた義勇さん。
「ハッ!てめェが作った何入ってっか分かんねェもの、誰が食うか馬鹿がァ!」
だ か ら !違うっつーの!日頃の癖か、体がそれを覚えていて勝手に発言する。食いたいに決まってんだろーが、可愛く割烹着着たてめェが作った激レア中のレア料理ィ!
うっすら涙目になる不死川君。どうにもコイツの顔見てると腹が減る。こっから俺の陣地ね発言をした後では素直に手料理にありつけるわけもなく、任務に行くふりして外で済ませることにした。
「そうか、不死川は好き嫌いが多いんだな」
「アア?何でも食べれますけどォ!?」
なら食べると良い、そう言った義勇に山盛りいっぱいに盛られた茶碗を渡された不死川君。
「毒は、入ってねーかァ」
まあ、飯に罪はねェし……。
「毎日食っても死にはしねェな」
「死ぬほど食うな。腹八分目が良いらしい」
噛みあっているのかいないのか。未だかつて義勇とはしたことのない心地の良い会話をしながら「陣地に入って来るのは許せねェが、台所は好きに使わせてやっても良い」と思えた不死川君だった。
義勇さんへの言葉が棘だらけになってしまう不死川君と、天然で棘以外を汲み取ってくれる義勇さん。