お人形遊びしのぶは時折義勇を「お茶会」に招くことがある。
蝶屋敷の奥の奥、増築されたそこは洋風な造りになっていて、ドアを開けると桃色を基調とした壁紙や絨毯にテーブルクロスと、極端過ぎる少女趣味の部屋が広がっていた。
椅子を引いて義勇に座るよう促す。西洋では「れでぃーふぁーすと」なるものがあるそうだ。義勇は何が何だか分からず首を傾げるだけだったが。
暫くしてしのぶが配膳用の木製の台車を引いて戻ってきた。直ぐに壊れてしまいそうな見た目のティーセットが乗っている。段になったプレートには洋菓子が沢山飾られていた。
「アフタヌーンティーですよ」
しのぶは義勇の前にカップを置いて紅茶を注いだ。
義勇は不思議な味がして放って置くと苦みが増すこのお茶のことをあまり好きでは無かった。洋菓子は様々な食感があり面白くて好ましいと思うのだが。どちらかと言うと菓子で茶を飲み込んでいた。玉露が良い、とは言えない。そのような我儘を気軽に言える間柄でも無かった。
「そうそう、町に新しいお洋服屋さんが出来たんですって」
普段の落ち着いた声音とは違い、町娘のような明るさでしのぶが話し始める。
「先週の女性誌はご覧になったかしら」
「このお菓子、海の向こうでは主食みたいなものらしいですよ」
見慣れない様子ではあるが、この「お茶会」では当たり前になっている底抜けに明るいしのぶを上目で見ながら茶を啜る。
返事くらいしても良いと思うのだが「喋る必要は無い」と言われているし、頷きながら義勇はもくもくと菓子を食べ続けた。美味しい。
「そう言えばこの前うちの子が結婚して隊を抜けました。すごく嬉しいです」
義勇は返事をしなかったが、なんとも素敵な話でとても喜ばしいと感じていた。
出来るならしのぶも含めて女子達は皆、危険の無い所へ嫁いで幸せになって欲しい。心からそう思っている。
頷いて菓子を食べた。やっぱり美味しい。
このお茶と菓子が無くなると、お茶会は終了になる。
「お口に合ったみたいで大変光栄です」
しのぶはいつも義勇を眺めるだけで菓子を口にすることは少ない。そうしてお茶会はお開きとなった。
いい加減気になって仕方の無い義勇は、去り際しのぶを振り返りようやく問い掛けた。
「俺に定期的に菓子を馳走してお前に何の得が有るんだ?」
しのぶはパチリと瞬きをして、にっこりとしかしニヤリとも表現出来そうな顔でとても愉快そうに微笑んだ。
「私も女の子ですから、たまに御人形遊びがしたくなるんですよ。そうそう!最近は御人形の為のお家も売っているそうな」
義勇はそれを聞いて、自分の居るこの少女趣味な部屋を見上げた。
確かこの部屋は蝶屋敷を……