12/16:久しぶり 王都フェードラッヘの復興が進み、人々の日常が戻り始めた頃のある日の話。物資の運搬を依頼されたと言って王都を訪れた騎空艇にはよく見知った人物達が乗っていた。そう、お前もよく知ってる人達だよ。
「お久しぶりです!ランスロットさん!」
元気に挨拶をするルリアに続き、ビィとグランも艇から降りて駆け寄ってくる。なんとなく、初めて会った頃よりも少し頼もしい顔つきになったように思えた。
「久しぶりだな。まさか君達が依頼を受けてくれるとは」
グランが言うには、行きつけの店の商人から持ち掛けられた依頼がたまたま王都からのものだったらしく、内容を知った時は驚いたそうだ。
再会を喜び合うのも程々に、早速物資を運ぶ準備をした。港から城までは荷馬車で運び、着いた後は分担して其々の場所に置いていく。案内と指示を出す立場上、運ぶ手伝いがあまりできないことに歯痒さを感じてさ。その時はとにかく自分のやるべきことを全うしようと言い聞かせて作業をしていたんだ。
「備蓄食料はどこに?」
一度目の荷馬車では運びきれなかった残りの物資を、後から別の団員が持ってくると言う話は事前に聞いていた。
「ああ、すまない。それは一旦奥の角に頼……」
置き場所を伝えながら声の方を振り向いた時、なぜ始めから彼の方を向いて話さなかったのかと後悔をした。麦の入った袋を抱える彼の、その秀麗な顔に気付かないはずがなかった。
「ジ、ジークフリート……さん!?」
黒い鎧と兜を身につけ、そして真紅の刃を持つ大剣を携えているのが普段の彼の姿だ。しかし、あの時の姿はどうだっただろうか。白を基調とした軽そうな素材の緩やかなシャツを纏い、彼の特徴とも言える長い焦茶色の髪は粗野に結われて右側の肩へと流れていた。
「あんた、どうして……」
混乱を避けるためにと王都を離れていたあの人が目の前にいる。その事実を受け入れるのに少し時間がかかったよ。でも、呆然としてる俺にジークフリートさんは説明してくれた。
「目立つ訳にはいかないが、このくらいなら力になれるかと思ってな」
説明になってない?わかりやすい方だったと思うけどな。とにかく、その後はお礼も兼ねて立食の場を設けてみんなで少し早めの夕食を取ったんだ。その時にさ、何となく俺はジークフリートさんのことが気になって、気が付けばずっと目で追ってしまっていた。ルリアを見守る瞳、グランと話す時の声色、ビィから揶揄われて困った様に微かに下がる眉。あの人から流れる穏やかな雰囲気を俺は今まで見たことがなかった、そして知らなかった。
空になったグラスに注ぐワインを選ぼうと、賑やかな場所からジークフリートさんが離れた時、胸の中が急にそして、追いついた瞬間俺はあの、と声をかけてすぐにあの人にありったけの感情を込めて言ったんだ。
「俺と稽古して頂けませんか!」
ジークフリートさんは快く付き合ってくれたけど、俺はそれから、何故唐突に、突拍子もなく、あんなことを言ってしまったのかと暫く頭を悩ませたよ。でも、今ならわかる気がするんだ。
俺はあの時、自分の知らないジークフリートさんを、これ以上増やしてしまうのが嫌だったんだろうなって。
ん?もう寝るのか。そうか、聞いてくれてありがとうな。え?胸焼け?お前さっきから酒だけで何も食べてないじゃないか。