12/17:初雪 夕食を終え、自室に戻ろうとしていたランスロットはジークフリートに声をかけられる。
「買った酒を今から飲もうと思っているんだが、お前もどうだ?」
嬉しさを隠せない様子で、ランスロットは二つ返事で誘いに乗った。2人はグラス等の必要なものを準備すると、まっすぐジークフリートの部屋へと向かう。
部屋に入ると、様々なボトルがサイドテーブルに置いてあった。ジークフリートは少しだけ悩むと、その中から赤い色をした瓶を選び、その酒をグラスに注いだ。
ランスロットが持つグラスの中で、大きめの氷がカランと小さく音を立てた。軽く乾杯をし、ランスロットはいただきますと告げ、氷を揺らす透明感のある洋紅色を口に含む。使われている木の実の甘さが広がり、後から追ってくるハーブの風味と酒精が程よく身体を温めてくれる。
「このお酒、凄く美味しいですね」
ふわりと柔らかく微笑む視線の先で、ジークフリートも自分のグラスに入っている同じ色の果実酒を揺らしていた。
「それは良かった。気に入ったか?」
その問いにランスロットが心から肯定するようにはい、と答えると、ジークフリートは満たされたような、安堵のような気持ちのまま静かに頷いた。
ゆっくりと流れていた筈の時間はいつの間にかあっけなく過ぎていて、窓から見える外の空はどっぷりと深い黒で染められていた。
「そろそろ戻るか?」
ジークフリートの言葉に対してランスロットはすぐに返事が出来ずにいる。
酒の入ったボトルはまだあるが、これ以上飲むのはリスクが高い。だが、何か言い訳をしてでも、もう少しだけ一緒に過ごしたいと望んでしまう。頼みの綱の、グラスに残された酒は溶けた氷ですっかり薄まっていた。
「ジークフリートさんは、この後どうされますか」
ジークフリートの瞳は微かに揺れていた。
自分も相手も、あとは就寝するだけだというのに、一体何を聞いているのだろうか。ランスロットは自分の発言に対して非常に客観的な感想を抱き反省する。
「……少し飲み過ぎてしまったみたいです」
すみません、と困ったように細めた瞳を見ていたジークフリートは、ふと、その視線を少しだけずらす。
「ランスロット」
ジークフリートが急に、窓の外を見るように伝えてきたので、ランスロットは言われるがまま指された方を向く。気が付けば、闇しかなかった空間に小さな白がひとつずつ、はらはらと下に流れていた。先程の発言から目を逸らすように、ランスロットは、もう本格的に冬が来たのかと痛感する。
「初雪だ……綺麗ですね、ジークフリートさ」
ん、と言葉の最後を声にする寸前のことだった。すぐ目の前まで来ていた金色の瞳は妖艶に揺れていて、そのまま唇を重ねられるかと思っていたが、閉じていた唇に悪戯をするように舌でひとつ撫でられただけで終わる。
ジークフリートさん?と尋ねる為に放った筈の言葉は声として外に出されることはなかった。
「俺も……少し酔ってしまったようだ」
ジークフリートのひと言と、何かが弾けたような音を聞いたランスロットは、名残惜しくグラスに残っていた一口分の果実酒をぐっと飲み干すとジークフリートの唇に噛み付くようにキスをする。
ふわふわとした頭の熱が一気に冷めてしまったのか、止める者がいないことをいいことに、性急な動作で次を、次をと求め合った。
外の雪は初めと変わらず、ゆったりと時間をかけるように降り続けていた。