密室 レオ司 今、私たちは密室に閉じ込められている。
遅くまで練習をしていたところ、鍵を閉められてしまったのだ。
「誰も出ませんね…。」
「ん〜こっちもダメみたい。」
「皆さん今日は仕事か既に就寝されているようです。」
「そっかぁ〜!じゃあ、おれは朝まで作曲してようかな〜?」
そう言いながらレオは床に広げられた紙に音符を書いている。
「まったく…危機感がありませんね。」
閉じ込められているというのに、顔色一つ変えずにいられるのはどういう神経をしているんだと思う反面、レオのいつもと変わらないその姿に安心している自分がいるのも事実だ。先程までの焦りはいつの間にか無くなっていた。
幸いなことに、設備がバッチリなこのレッスンルームには、シャワールームの他にトイレや簡易的なベッドに小さな冷蔵庫も備えてある。冷蔵庫の中には、持ってきたおやつや軽食のサンドイッチもあるし、朝までならなんとかなりそうだ。
「私は汗を流しにshowerroomに行ってまいりますので、連絡が来たら代わりに出てもらえますか?」
「あぁ、わかった!いってらっしゃ〜い!」
隣に続く部屋を抜けると脱衣場がある。練習着を脱いで畳んで置いてからシャワールームに入る。上からあたたかいお湯で体を洗い流していく。練習の後のシャワーはいつも気持ちがいい。普段つかっているものより泡立ちの悪いシャンプーとボディーソープは汗を流すには十分だった。
「ふぅ…。」
着替えを済ませてレオのいるレッスンルームへと戻る。
「寝てますねぇ。」
レオは散らばった紙の上にそのまま突っ伏してスースーと眠っている。どうやら疲れていつの間にか寝てしまったのだろう。起こさないように楽譜を片付けてから、そぉ〜っとベッドに下ろしてブランケットをかける。丸くなって気持ちよさそうに眠るレオを眺めていると、なんだかいたずら心が疼いてしまい、普段はあまり触れることのないほっぺたをつんつんとつついてみる。予想以上にすべすべモチモチで癖になりそう…。しばらくつついていると、レオが寝返りを打つ。
「危ないところでした…。」
反射的に手を引っ込めるが、疲れているのか起きる気配のない様子に安堵する。サラサラのオレンジ色の髪を優しく梳いていると、同じシャンプーの匂いがしてきて、なんだか変な気持ちになってくる。そのままレオの隣に寝転び、手を繋いで睫毛の先を見つめる。
「レオさん…好きです。」
いつの間にか口に出ていた言葉にハッとして反対を向くようにして体を捻る。私は今、何を…。一気に顔が熱くなり、起き上がろうとしたところで後ろからすっぽりと収まるように抱きしめられた。
「今の、ほんと?」
耳元で囁かれ、肩が跳ねる。聞かれてしまった。まさか本人に聞かれてしまうなんて。
「いつから起きて…っ!」
「ん〜起きようと思ったんだけど、あんまり可愛いことしてくるから。タイミング逃しちゃった。」
「〜ッ!」
「ほらっ、そんなに顔真っ赤にするとタコになっちゃうぞ〜?」
「なりませんっ!それからっ、ほんと、です…。」
「良かった。おれも好き。」
「え…?」
「ねぇ、こっち向いて?」
ゆっくりとまたレオさんの方を向くと、真っ直ぐに目が合う。
「おれも、好きだよ。」
そう言って抱きしめるレオさんは同じように頬を紅く染めている。あぁ、本当に好いてくれているのだと実感する。
「私も、レオさんが好きです。」
「つかさ、おれと付き合ってくれる?」
控えめに、少し困ったようなそれでいてノーとは言わせない。そんな顔で見つめられて胸の辺りがキュッとなった。
「はい、もちろんです。」
そう応えると、レオは嬉しそうに抱き寄せる。こんな風に好きな人に抱きしめられることはないと思っていた。それに、同じく好きでいてくれていることに嬉しさが込み上げてくる。
「あのさ、今日はこのまま抱きしめて寝たいんだけど。」
「私もっ、このままがいいです。」
チュッと小さなキスをしたレオのあたたかな体温と愛を感じながらゆっくりと眠りについた。