遠距離「つかさ。」
名前を呼ばれて振り返ると、ぎゅっと力強く愛しい人に抱きしめられた。
「レオさん?」
「おれ、明日からしばらくフィレンツェで仕事になったんだ。」
そう言った声は少し申し訳なさそうで、顔を覗き込む。
「随分と急ですね?次は半年後って言ってませんでしたっけ?」
「その予定だったんだけど、相手側がその時期忙しいみたいなんだよ。たぶん向こうに行ったら一月はいることになるだろうし…。」
初めから分かっていたことだが、こうして度々訪れる遠距離に寂しさが隠せない。
「そうなんですね…。」
「そんなに悲しい顔しないで?すぐに戻ってくるから。」
「わかっています…仕事ですし。でも、少し寂しいと思ってしまって。」
胸に顔を埋めると、優しく頭を撫でてくれる。これでは余計に寂しくなってしまうというのに、どうしても離れ難くて、撫でる手の心地良さに身を委ねてしまいそうになる。
「よしよし…おれも、つかさと離れるのは寂しいよ。」
「はやく、帰ってきてくださいね?」
「もちろん。」
この温もりを忘れないようにと大好きなレオさんにぎゅっと抱きついた。
「あの、レオさん…。」
「いいよ。」
何を言いたいのか察したレオさんがちゅっと優しいキスをくれる。夜は手を繋いで抱き合ったまま眠りについた。
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空港まで見送りに行くと、遂に行ってしまうのだと胸の奥が苦しくなった。それでも、笑って見送ろうと精一杯の笑顔を向ける。
「レオさん、大好きです。留守はつかさにお任せ下さい。」
「ありがとう♪おれも愛してるよ、つかさ。大丈夫、宇宙のどこにいたってお前のことは絶対に離さないから。」
「はいっ…♪」
「ほら、泣かないの。」
我慢していた涙がポロポロと溢れてきて止まらない。どうにか涙を止めようと必死になっていると、そっと抱きしめて涙を拭ってくれる。
「よしよし。おれの可愛いつかさ、そんなに泣いたら可愛い顔が台無しだぞ。つかさが呼んだらおれ、朝でも夜でもすぐ駆けつけるから。だから、毎日電話して。」
「うぅ…はい…っ」
「いい子♪帰ってきたら、いっぱい甘やかしてやるからな。」
「絶対ですよ…っ」
「約束!じゃあ、行ってきます♪」
「行ってらっしゃい、レオさんっ!」
最後にぎゅ〜っとハグをして、まるで映画みたいなキスをする。名残惜しそうに離れて搭乗口を抜け手を振るレオさんは、本当にかっこよく見えた。今度こそ笑顔で手を振り返すと、レオさんは安心した顔で微笑んだ後、機内へと乗り込んで行った。
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「もしもし?つかさ?」
「はい。レオさん、着いたんですね。」
「さっき着いたとこ。」
「お疲れ様でした。無事到着されたようで安心しました。」
レオさんと離れてから一日も経っていないのに、電話口から聞こえてくる声に愛しさが込み上げてくる。
「うん!つかさは何してた?」
「私は仕事が終わって家に帰ってきたところです。」
「そっかぁ〜!そっちは夜だったな!」
「はい、そちらはまだ朝ですよね?」
「そうなんだよぉ〜、ちょっと時差ボケ?で寝ようかなって思ってた!」
「夜ねむれなくなるのでは?」
「確かに!わははは☆」
「元気そうで何よりです。」
「ほら、つかさはもうおねむの時間だろ?明日も早いんだから、もうおやすみ?」
「レオさんも、おやすみなさい。」
「おやすみ、いい夢を。」
ちゅっという音が聞こえて、レオさんが向こうでおやすみのキスをしてくれたことに頬を染める。寝付けなさそうだと思っていた夜だったが目を閉じるとすんなり眠りにつくことができた。
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半月が経った頃には、だいぶこの生活にも慣れてきて夜の電話は日課になっていた。
「こっちでの仕事もそろそろ落ち着いてきたし、あとは電子入稿でそっちでも出来そうだから帰ろうと思ってるんだ。」
「本当ですか?やっと会えるんですね!」
自然と声も弾んで、それが伝わったのかレオさんも嬉しそうに話している。
「飛行機は取ってあるから、迎えに来てくれる?」
「もちろんです!約束覚えてますか?」
「覚えてるよ、帰ったらちゃんと甘やかすから待ってて。」
「はい♪」
レオさんが帰国する当日は、空港まで迎えに行く。レオさんが帰ってくるのが待ち遠しい。あと少しが長く感じてしまって、ソワソワと落ち着かなくなってしまった。
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今日はレオさんが帰ってくる。朝から気分よく部屋を片付けて、掃除に料理もして車に乗り込んだ。空港に到着して荷物を受け取る先のベンチに座って待っていると、後ろからトントンと肩を叩かれて咄嗟に振り返る。
「ただいま、つかさ。」
「レオさん…っ!」
ガバッと抱きつきレオさんの胸に顔を埋めると、よしよしと抱きしめて頭を撫でてくれる。
「おかえりなさいっ♪」
「会いたかったよ。」
「つかさも、ずっと会いたくてしょうがなかったです。」
「待っててくれてありがとう。偉かったな♪」
「どうしましょう、このまま離れたくないです。」
「よしよし、じゃあどこも寄らずに家に帰ろっか。」
「はい、レオさんといたいです。」
久しぶりのレオさんとの時間。毎日電話はしていたけれど、それでもまだ沢山話したいこともある。二人で車に乗り込み空港を後にした。
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「はぁ〜!久しぶりの我が家だぁー♪」
「おかえりなさい、レオさん♪」
「ただいま♡つかさ、おいで。」
手を広げるレオさんにぎゅうっと抱きつくと、なんだか安心する。やっと本当に一緒にいられる…。そう思ったら、なんだか涙が溢れてきた。
「泣いてるの?」
「安心したら、勝手に…。」
「寂しい思いさせてごめんな?」
「いいえ、こうしてまた抱きしめてくれて嬉しいです。」
「今度フィレンツェに行くときは、一緒に来てくれる?」
「はいっ、どこでもついて行きます。」
「ありがとう♪」
「ふふっ♪」
「あとで、ご飯食べたら一緒にお風呂に入って一緒にTV観て抱きしめて寝たい!」
「いいですよ♪」
「いっぱいつかさのこと甘やかすから。」
「では、まずはただいまのキスをしてくれますか?」
「いくらでも♪」
「レオさん、大好きです♡」
「やっぱり予定変更、このままベッド連れてってもいい?」
「はい♡」
レオさんにもういいというほどベッドの上で甘やかされて、会えなかった分だけお互いに求め合う。ご飯もお風呂も忘れて、心地いいまどろみの中レオさんの胸に抱かれて眠りにつく。瞼が閉じる間、レオさんの優しい声が聞こえた気がする。
「ただいまつかさ。もうつかさを置いてどこにも行かないよ。おやすみ、愛してるよ。」
返事の代わりに、そっと握りしめていたレオさんの手に口付けをした。