燐光が心操の骨張った頬、眼窩の窪み、秀でた額を舞うように照らし出していた。遠くに光る、工事現場の誘導灯か何かの灯りだ。ただの都市の日常のようなそれはしかし、心操の輪郭を朧に浮かび上がらせては消え、相澤の意識は独りでにそこへと囚われた。
相澤は自身を美的感覚や審美眼のようなものからは縁遠い人間だと考えていた。心操への愛を抱いたのも容色とは関係ないはずだった。しかし、共に暮らし、昼に夜に恋人を見詰め寄り添っていると、心操の瞼の膨らみ、頬に薄らに浮かぶ産毛、屈託なく笑った目尻に寄る皺の形が、奇跡のように胸に迫る事があった。
相澤は恋人が美しいと思った。それは彼だけが享受し、誰にも邪魔される事のない歓びだった。
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