Distillerに入らなかったやつ 「あなたネオ・アルカディアでどういう役割を与えられたの」
「ええと……確か試験用……だと思うなあ。パーツを組み合わせたときにちゃんと動くかどうかの。多分だけど」
見上げる巨躯はかつての複製機と全く同じだった。まだただの人形だ。中身がない。当人と、あるいは自分と全く同じ顔をしているはずだが、まるでそうは見えない。
「これは、何?」
「エックスさま、になる予定!」
とびきりの笑顔で彼女は言いのける。今の自分に実体がなくて良かったと心底思った。顔があれば苦虫を数万匹ほど一度に噛み潰したような表情になっていたことだろう。それでも不自然な間が空くのは避けられず、誤魔化すためにいまいちよく解っていないような相槌を打つのが精一杯だった。
「自分がエックスさまだと言うレプリロイドに一度会ったことがあるの。どう見ても量産機なのに! ああ、おかわいそうなエックスさま! きっと誰かが適当に修理してしまったんだわ……そんなの駄目。あの方が本当にエックスさまならもっといい体を献上されてしかるべきよ。ということでわたしたちはあの方が本当にエックスさまか確かめる方法と新しいお体を作っているの。この機体が出来上がればきっと気に入っていただけるわ!」
「あー……その、ボク、ちょっとだけなら動かせそう……かも。そうしたらキミの助けになれないかな、なんて……」
「本当!?」
「か、可能性はあるんじゃないかな……ほら、ボクは試験用エルフだったはずだし」
「そうね……そうだったわね。で、どのくらい動かせるの?」
一般的な「試験用」を、「平均的な使い方」で稼働させた場合、概ね二週間程度で力尽きる。試験機のエネルギーが尽きれば、自動的にエルフは消滅する。それ以上は怪しまれるだろう。
しかし、このまま放っておけばどのみちこれに何らかの魂が入れられることは間違いない。暴走しないとは限らないのだ。
「いっかげつ」
「一ヵ月! 随分長いのねえ」
「い、今思い出したんだけど。……耐久試験に使われる予定だったのかもしれないね」