リーンカーネーション(再終/砂場)「こんな山の中で土木作業とはな。お砂場遊びには飽きたのか?」
人間は手に持ったシャベルを適当に地面に刺して立ち上がる。土まみれの手を掃ったが、そんなに汚れは落ちなかった。
「これは二度とぼくがここから落ちないようにするための祈りのようなものなんだ。ぼくにかけられた呪いのように、このぼくが忘れないためのマーカーとして。だからぼくのソウルと同じ色、決意じゃなくて、なくしたものの形」
赤いバターカップが風にそよぐ。けれどずっと無風のままだ。
「このぼくが見たぼくをサンドボックスに閉じ込めておくためでもある。家の中から鍵をかけるみたいにね。リセットしたなら何が起きるか、きみにだって解るでしょう? ぼくは始まってしまったからどのおしまいにも辿り着けない。けれどもう一度始まることはできる、今度はこのぼくを誰もいない地下へ突き落とすんだ。手の両方には杭を打って、言葉は使えないように喉を裂いて」
それでいいのか、と尋ねたかった。何もしない選択が最善なのだ。質問は飲み込んで、黙って人間の様子を見ていた。その目の代わりに円い月が煌々と照る。あの目で見下ろしている。決意の輝きに染まった月の光が人間を照らしている。揺らぐ可能性は一つの観測結果へ収束する。
「ぼくは――少なくともこのぼくはひとつ残らず躱せるようになった。流した血と命の分だけ上手くできるようになったんだ。ちゃんとそこで見ていて。全部避けられたら褒めて。一番邪悪でそれでも純粋な気持ちだけになるなら、それがぼくの心のすべてだ」
「遊んでやろうか、お前さんが満足するまで」
「罪を重ねないタイプのやつならね。でもぼくが飽きるなんてないよ。どうするつもりなの」
「だからうんざりさせてやるのさ。もうたくさんだってぐらいにな」
人間は意外そうな顔をして、それから少しだけ笑った。自分以外の生き物を初めて見つけたのが嬉しくてたまらないように。