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    有彩色

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    有彩色

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    不穏👟🦊
    メモ整理で出てきたいちばんマシなやつです
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    #shusta

    呪術師の体ってね、この世に残るの、あんまり宜しくないんだ。
    バルコニーに並んだ背中がひとつよどめいて動く。
    さっきまで一定の頻度で鳴っていたチップスの咀嚼音もそのシュウの言葉の後に段々止んで、静寂の中リビングを歩く飼い猫の首輪の鈴がチリンと響いた。
    「だからさ、僕の肉も血も…骨も、何もかも全部、この世に残らないの」
    『…燃やすの?全部』
    あくまで優しく、真っ直ぐ。空を見上げたまま、お互い目は合わさずに言葉のキャッチボールをする。
    この会話がもし本当にキャッチボールなら、きっとボールはボーリングの玉ぐらい重くて、ゆっくりゆっくり二人の間を転がりあって、時々受け止めるのに失敗して痣になるんじゃないかな。そんな事を他人事みたいに脳みその端っこで考える。
    「んー、高値で取引されて、ぜんぶ強い呪いに使われる、儀式で使ったら跡形もなく無くなっちゃう」
    『売れるまでは残ってるってこと、』
    「この地球、人を呪い殺したい依頼なんて溢れるほどあるから、持って3日だけどね」
    同じブランケットを共有して互いの体温で温めあっていたのに、急に隣から伝わる熱が冷たくて寂しく感じてほんのちょっと怖くなった。
    人はいつか死ぬ、わかる。死体が高値で取引される、わからない。体の部位全部が人を呪い殺すのに利用される、全くわからない。
    「…僕、呪術の血強いみたいでさ、物心着いた頃には当たり前に髪の毛とか使われてて」
    『ン…』
    「その頃からずっと、死にたいって思ってきた。人なんて呪いたくなかった。間接的に自分の手で呪う事になるから、自分が汚れてくのがわかって」
    ゴチン、と言葉のボーリングの玉がミスタの膝とか脛とか、当たると痛いところに音を立ててぶつかった。
    普通ならぶつかったボーリングの玉なんて無視して、自分の怪我したところがどんな風になってるか確認したり、痛いところに手を当てて蹲ったりすると思う。
    でも、でも無視したくなかった。肋骨が折れちゃうかと思うぐらい重かったけど、抱きしめた。
    無視したらきっと、ずっと後悔すると思ったから。
    『シュウはね、綺麗だと思う』
    『目も鼻も口も、髪も、首も、シュウの上から下まで全部、過去に何があってもずっと綺麗だと思う、オレは』
    泣きたいのはきっとシュウなのに、自分で言っててポロポロ涙が出てきた。
    シュウが死にたいと思っていたことに対してか、シュウが死んだ時シュウが生きていた証が何にも無くなっちゃうことに対してか、こんなとこしか言えない自分の不甲斐なさに対してか、分からないけど。
    涙で屈折した視界の中で確かにシュウは星の下で確かに綺麗に笑ったし、繋いでいた手は暖かかった。
    「ミスタの目には、綺麗に映れてる?」
    『…めっちゃ』
    「そっか、」
    重い話は好きじゃない。
    でも大切な人がやっとの思いで言ってくれたことを無視できるような性格は生憎持ち合わせてない。
    流れ続ける涙はシュウに唇で拭われて、嫌になるほど静かな空間に似つかないリップ音が鳴る。
    「んは、…ねぇミスタ、僕が死んだら何も残らないかもしれないけど」
    『けど、?』
    「僕の心はずっと君のものだからね」
    荷が重い。重すぎる。呪術師の恋人の唯一残るものが自分の中にしかないなんてちょっと荷が重すぎてどうにかなっちゃう。
    でもこの重みで潰れるんなら本望かもしれない。
    シュウは自分の方が早く死ぬていで話しているけども、きっとそうとは限らないし、死ぬまでにこのミスタの胸の中に抱かれたシュウの心は誰かに奪われてしまうかもしれないし。そんなの分からないのに。
    『…シュウはさ、自分が呪いたくないって思ってる人まで間接的に呪っちゃうのが、嫌なんでしょ』
    「うん」
    『死んじゃったら、体、呪いに使われるんでしょ』
    「そうだね」
    『…同じことじゃないの、それ、』
    「同じことだと思うよ。だから、最後は同業者に見つからないところで死ななくちゃいけないかな」
    全て受け入れて諦めて、必死に繕ったけど膿んでボロボロになってしまったシュウの心が見えて、その冷たい声にどこにも当てられない悔しさだけが降り積もる。
    ミスタはシュウの彼女であり彼氏である。恋人である。持っているのはただ1つその肩書きだけで、どんなに思っても親族より近くなることは事実上出来なくて、言葉ひとつで無くなってしまう関係。
    自分はシュウの枷で居られてるのだろうか。
    『1人で死ぬつもりってこと』
    「誰も巻き込みたくないからね」
    上手く声が発せそうになくて、冷えきったホットチョコレートを流し込む。喉に張り付いて逆効果になった気がするけどそんなの気にならなかった。
    1人で死ぬだって?家族にも友達にも看取られずに、誰かと戦って誰かを守るために命を落とす訳でも無く、呪術師として生まれてしまったから。何も悪いことはしていないのに、産まれがそこだっただけで1人孤独の中消えなきゃいけないなんて。たとえ1人で死んだとて同業者に後々見つからない保証なんてない。そんな寂しくて不安なことってないだろう。
    『じゃあ、その時は俺もつれてって』
    「…どうして、?ミスタには生きてて欲しいよ」
    『シュウの心はおれのものだよ、だからおれの心はシュウのなの、返品サービスないの、』
    「…あー、…それは、勝手に持ってどこかに行っちゃダメってこと?」
    『…ん』
    「…なるほどね、」
    こんな訳の分からない言葉足らずな文章で言いたいことを全部汲み取ってくれるのは間違いなく全世界でシュウだけだろう。
    言葉を紡ぐのが下手だからどっかの文豪みたいに綺麗な文章は作れないし、文法もはちゃめちゃだし、その場に合った言い方をしようと試行錯誤すると何が伝えたいのか分からない文章になる。大体の人は「?」ってなって、ヘンな空気が流れる。
    ミスタのさっきの言葉に心中しようねって気持ちが入ってるのも、シュウは多分気付いてる。こんなに分かってくれるのは、ミスタの心を奪ったシュウだけなのだ。
    「…確かに、持ち逃げはよろしくないかも」
    『逮捕だよ逮捕』
    「懲役は?」
    『…無期刑』
    隣で3角座りをしているシュウの膝にそう言いながらよじよじ手をかければ、手が広げられてすっぽり収められる。
    ちゃんと暖かいし、鼓動も聞こえるし、シュウが生きていることを体感して安心した。まったく、急に変なことを話し始めるから泣いたのもあって疲れてしまった。脳内のキャッチボール中のミスタはボーリングの玉に殴られ続けてヘロヘロだ。
    「んへへ、重い話してごめんね」
    『…シュウにとっておれって何なの』
    「……なんだろう、呪いかな」
    『…なんそれ、』
    ゆっくり髪の毛を撫でられて星空の下でうとうとして、ちょっと涼しい風を受けながらシュウと体温を分け合う。
    心地いいから聞き流すけど、人の事呪い呼ばわりするのはミスタ的にどうなんだよって思う。なんなんだ。
    「呪いで鎖で枷だよ」
    『マイナスなことしか聞こえないけどミスタリアスは都合のいい耳をしてるので反応しません』
    「…んは、…僕の救いでもある」
    『………??』
    ヘロヘロだって言ってんだろ。そんな難しいこと言われても全力回転したあとのスリープモードの脳みそは何もわからなかった。自分で聞いときながらシュウの答え訳分からん。ごめん。
    呪いで鎖で枷で救い?
    WTF、シュウみたいに頭良くないからな。
    シュウの肩に顔を埋めたままシュウのお腹を数回小突くと、ちょっと苦しそうな笑い声が聞こえた。
    『…明日アイス買いいこ、きょはねむい』
    「んははっ、分かった、買い行こう」
    脈略のひとつもない言葉がペラペラ口から出てきて、本当に自分の頭が回ってないことを実感する。
    ただ肯定の返事が返ってきたのを辛うじて拾ったミスタは、シュウの膝の上でゆっくり、ブランケットに包まれながら夢の中に足を運んだ。
    『星が綺麗だね』
    そんなシュウの声がさいごに聞こえた気がしたけど、夢か現実か判別できなかった。
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