創作BLワンライお題【クリスマス】【聖なる夜】 まだどこか垢抜けない繁華街。忘年会にクリスマス、デートや家族サービスを、誰かのために、誰もが楽しもうとしている。金曜でもないというのに、通るだけでむせ返るような幸福や疲労に酔いそうな、異常なまでの賑わいに溢れている。これでは、せっかくのイルミネーションの美しさで鬱になる者も現れてしまう。
「もうやだ仕事したくねぇ。リア充ばくはつしちまえ」
例えば、特徴が無いのが特徴の声の持ち主が恨み言を吐くとか。
「お前はリア充してるとこだろうが。俺と仕事すんの嬉しいんだろ」
その隣にいる年上の抱かれる側の恋人が、笑っているものの目はちょっと怒っているとか。
季節ごとのイベントには、スイーツと同じくらいには警察官がお馴染みの存在でなければならない。という訳で、五十嵐巡査部長と近江巡査部長は、今夜は私服のまま警備にあたっていた。この二人組、一見するとただの二十代半ばのありふれた青年である。
だが、五十嵐という名の背の高いメガネ男子の方は警官だというのに茶髪をトサカ頭にしていて、近江という名の青のタレ目と黒の短髪の方は、右頬に何をされた痕なのか推測できない醜い傷をあえて治していない、ちょっとフィクションならNGが出そうな生き方をしてきた刑事バディだ。
「警官ってよ、酒が基本飲めねェのがまぁストレスだわ。四時間ぶりの煙草クソ死ぬほどうめぇ。むしろ肺が生き返るぜ!」
「今のは日本語なのか?」
聖なる夜に、緩やかな自傷だか自殺だかに、このあと性なる夜に及ぶ予定の相棒とするのは悪くない、と彼らは心から喜び、クリスマスの仕事に精を出しているのだ。
「お前が強いのを良いことに晩酌してるのは、周知の事実だよ。係長が俺やお前みたいな『危ないの』を引き抜いてくれてるから、今があるってこと忘れんな」
二十八歳にして稀にだが年確されて警察手帳を見せては平謝りされてしまう童顔が、優しさを言葉と笑みで伝えた。
「……ん」
目つきの悪さに定評がある二十五歳の問題児も、自嘲ではなく、有り難いという心の呟きが笑顔となる。
「でも冬の煙草は夏より旨い。もう俺、夏だけは禁煙しようかな」
「えっそんなこと出来んの」
「分からないけど……セッタ吸ってるお前よりは可能性あるんじゃないかな。吸ってみるか?」
「えっ男なのに一ミリって初めて見たぜ」
「……お前マイノリティなのに割と偏見あるよな。不思議だ」
「オメーらのそれも偏見ってことでおあいこだろ」
命をくれた大人の愛を求めることを拒絶された、同性だけを愛する青年と、見知らぬ大人に愛されたが故に、同性愛を強制された青年の、未来はきっと、イルミネーションよりも鮮やかだ。