Sunday Morning剥き出しの肩にひんやりとした空気を感じて目を覚ますと、薄ら暗い寝室に無機質な明かりが浮かんでいた。目を擦るチリの隣で、上半身だけを起こしたアオキがスマホロトムに何かを打ち込んでいた。眉間には深い皺が寄っている。
「おはよぉ」
「……起こしてしまいましたか」
こちらに気付いた瞬間に、彼の少しだけ表情が和らぐ。無表情だと評されがちな男だが、付き合いを深めていく中で"割と何でも顔に出る"という印象を強くしていた。
「なに、しごと?」
「えぇ、まぁ。………………トップから」
「げっ…………休みやで、無視したりや」
滅多にない休みであることは、彼の上司であるオモダカも重々承知しているはずだ。こんな早朝からいったいどんな用かと身を乗り出してスマホロトムを覗き込もうとすると、アオキは身を捩って画面を隠した。思いがけない動きに困惑する。
「え、見られたないような仕事なん?」
「いえ、そういうわけでは……」
「チリちゃんが「時間外労働お断り」て返事したろか」
その返事を見たオモダカの反応を想像してか、アオキの顔からさっと血の気が引いたのを見逃さなかった。その反応自体はいかにも彼らしくて好ましいと思わないでもないが、いまこの時、自分より上司の相手を優先されることが、どうにもつまらない。
「あの、すぐ終わるので……」
「あやしい。もしかしてチリちゃんの悪口やないやろな」
「まさか」
「じゃあなんや、ハッサクさんの悪口かいな」
「なぜ…」
「それとも2人だけの秘密の任務とか、そんなん?」
「そんなものありません……願い下げです……」
律儀に返事こそしてくれるが、目線はスマホロトムから外さず、メッセージのやり取りを続けている。
「明日リーグ行ったらトップに文句言ったるわ」
「それは勘弁して欲しいですね……」
「あ…………もしかして浮気なん……?」
うわ、と復唱しかけたアオキは珍しく目を見開いてようやくチリの方を見た。驚くのも無理はない。別に交際しているわけでもないのだから。
「その顔、図星や……」
「あなたが突拍子もないことを言うから」
「せやな、突拍子もないな。こんな、2人で服も着んとベッド入っとんのに。だいたい……」
チリの言葉はそこで掻き消えた。アオキの顔が近付いてきたかと思った途端、唇に柔らかいものを感じる。アオキはそのまま上唇を吸い、すぐに顔を離して画面に視線を戻した。
しばらく呆気に取られ、ふと我に返る。急激におかしさが込み上げてきた。堪えきれなかった笑いで肩が震える。
「なっ……なんやいまの…………」
「もう黙って……」
「自分いつからそんなキャラになったん」
「……ずっとこうですが?」
笑われたことに対してなのか、少しだけ目を細めて微かな気まずさを表したアオキの様子に、チリはますます笑った。
「ほんま自分、嘘が下手やな」
「なんとでも。あなたは……分が悪いとよく喋る」
「そらご親切に、ご指摘どーも」
「どういたしまして……」
「ま、好きやけど、アオキさんの嘘つけんとこ」
そう告げると、再び目を丸くしたアオキがチリを見る。口を開けて何か言いかけた瞬間、寝室に着信音が鳴り響いた。微かに見える画面に「上司」の文字が浮かんでいる。
「おー。はよ出んとまた怒られるで」
「…………あの、」
「今日はチリちゃんが朝ごはん作ったるわ」
身体を起こして大きく伸びをする。ベッドから出ようとすると、伸ばした腕を掴まれて布団の中へと引き戻された。そのまま覆いかぶさったアオキに、チリは口角を上げて得意げな笑みを向ける。
「出ないん?」
「時間外労働、なので」
着信音が鳴り続いている。