私は愛で出来ている 子供の気配のする少年だった。停泊中の船の見習いかとも思ったが、どちらかと言えば遊覧船に乗る側の人間だろうと思った。「これを彫れるか?」いかにも慣れていない問いの形式に思わず笑みがこぼれる。丁寧に隠されてはいるが、アクセントが島の人間とは違っていた。
北の海のあの辺りの音だろうとあたりをつける。裕福な町が多い地方だ。「難しい図案でもない。すぐに彫れるよ。」そう答えると、少年の強張っていた雰囲気が微かに和らいだ。小さな安堵の息をひとつ、静かに落とすと、緩く脣尻を持ちあげ、その子供は、微笑った。細まった薄い瞳がおれを視る。眼には喜びと安堵とが瞬いているが、顰められた眉と眉とのあいだに、燃えるような、切ない火の苦しみが棲んでいる。僅かの間、おれは黙っていた。何も言えず、ただ、その奇妙な表情に見入られていた。
「ありがとう。」
軽く頭を傾け、少年は言った。それから、彼は、微笑う、嘘みたいに悪辣に、魂の底から高慢に。
「墨をいれるのは初めてなんだ。きっと、さいしょがあんたでよかった。」
心臓が跳ねる。心臓が跳ねる。心臓が跳ねる。舌の根が乾いている。指先が震えだす。脳が、高揚している。
「何のマークなんだ?」
問わずにはいられなかった。少年はからりとわらって答えた。
「墓だよ。つまり、太陽ってことだ。」