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    泡沫実践

    @utktanata

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    泡沫実践

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    トラファルガーと彫り師の話。順次追加されます。

    私は愛で出来ている 子供の気配のする少年だった。停泊中の船の見習いかとも思ったが、どちらかと言えば遊覧船に乗る側の人間だろうと思った。「これを彫れるか?」いかにも慣れていない問いの形式に思わず笑みがこぼれる。丁寧に隠されてはいるが、アクセントが島の人間とは違っていた。
     北の海のあの辺りの音だろうとあたりをつける。裕福な町が多い地方だ。「難しい図案でもない。すぐに彫れるよ。」そう答えると、少年の強張っていた雰囲気が微かに和らいだ。小さな安堵の息をひとつ、静かに落とすと、緩く脣尻を持ちあげ、その子供は、微笑った。細まった薄い瞳がおれを視る。眼には喜びと安堵とが瞬いているが、顰められた眉と眉とのあいだに、燃えるような、切ない火の苦しみが棲んでいる。僅かの間、おれは黙っていた。何も言えず、ただ、その奇妙な表情に見入られていた。
    「ありがとう。」
     軽く頭を傾け、少年は言った。それから、彼は、微笑う、嘘みたいに悪辣に、魂の底から高慢に。
    「墨をいれるのは初めてなんだ。きっと、さいしょがあんたでよかった。」
     心臓が跳ねる。心臓が跳ねる。心臓が跳ねる。舌の根が乾いている。指先が震えだす。脳が、高揚している。
    「何のマークなんだ?」
     問わずにはいられなかった。少年はからりとわらって答えた。
    「墓だよ。つまり、太陽ってことだ。」

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    DONEトラファルガー・ローはパンを食わない。葡萄酒で咽喉を潤さない。かれの主人はドフラミンゴではないからだ。
    呪え祝うな あの、忌わしい、運命の夜から七年が経った。愛を注いだ。庇護下に置いた。腹心の相棒を据えていた心臓の席を与え、これは重要なものだと誰の眼にも分かるよう、色を違えた揃いの羽織も遣った。そうやって、心からだ、心の底から、己の心臓のようにたいせつに可哀がっていた弟の、手酷い裏切りに遭い、胸を裂く想いで鉛玉を撃ち込んだ夜から、七年。堕ちた身が被った獣の暴力、父を我が手で殺めた記憶が悪夢として今尚蘇るように、七年前のあの夜も又、ドフラミンゴを苛み続けて、いる。重く伸し掛かる、痛む、思い、痛みは絶えることがない。記憶が薄れることなどある筈も無い。況してあの夜は、弟を殺した、耐え難く、怒りと屈辱と心痛、喪失、に極まる一件、それだけでは済まなかったのだ。あの日、ドフラミンゴは奪われた。決定的に、致命的に。ロシナンテ、ロー、愛、信頼、心臓、右腕、未来。奪われた全てをひとつに集約するならば、それはハートだった。ハートが全ての言葉になる。空席、赤い、血より濃い、同類。ハートの席。其処に座るべき男の名前。失い、奪われ、未だ手に入らない。その境目を判別することなぞ最早出来まい。
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    DONEドフラミンゴさんの話。

    原作通り、当時子供であるドフラミンゴによる父親の殺害描写など暴力描写が含まれます。ご注意ください。
    祝え呪え王の生誕ごめんな、と言って眉を下げ微笑い、ドフラミンゴの父は残して行く家族に命を差し出した。最早他にできることはないと腹を据えたようにも、銃を突き付けてきた息子に対し取るべき行動を何も考え及ばなかっただけの愚鈍にも思える姿だった。差し出された命の貨幣をドフラミンゴは受け容れ、ロシナンテは拒絶した。撃ち込んだ鉛によって与えたのは赦しである。死体となった頭を切断する糸に震えは無かった。銀盆に載せられた首は強張りの隠せぬ、併し柔らかな微笑を湛えている。ドフラミンゴは銃をヴェルゴに手渡すと、伏せられた瞼の端に滲む水を己の熱い指で拭い、最期の言葉に謝罪を選んだくちびるから流れる血の筋や、頸から滴り、溢れ出した血液が、ひたひたと、満たすように銀の大地に広がっていく様を凝と見詰めている。ドンキホーテ・ホーミングは赦された。罪は死によって赦される。犯した罪は己の血によってのみ灌がれる。哀苦に眉を歪ませ、肩で息を切らせながら、ドフラミンゴは冷静だった。頭の半分は激情に浸っていたが、残りの半分は恐ろしいほどに冷めたく、それが眼になり父を見詰めていた。
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    DONEロシナンテとロー。
    無題 愛とは全身全霊の行為だ。魂の火が愛だ。ドンキホーテ・ロシナンテが白い子供への憐憫に涙を流した夜、溺れた火種、トラファルガー・ローの心臓は息を吹き返し、幽かな、確かな火が灯された。程なくして心臓、赤い悪魔の実が、ロシナンテの前に立ち現れる。道化は笑った。心の底から祝福を叫んだ。これは奇跡だ、と。ハートの果実は空想でなく、間違いなく実在する、手の届く希望で、あった。同時にそれは、決断を迫る悪魔でも、ある。だがコラソンは迷わなかった。ドンキホーテ・ロシナンテに躊躇いはなかった。惨禍に投げ入れられた子供。同じ苦しみを味わった、何としても止めねばならぬ血を分けた実兄、父の如く慕う恩人、忠を誓う、己を拾い上げてくれた海軍、人々の生活を守り抜く為の組織。決断を鈍らせる要素は幾つも存在する。それでも、かれは選んだ。すべてを裏切り、世界を敵にまわそうとも。トラファルガー・ローを救うと定める。己が持つすべて、命さえ賭しトラファルガー・ローと生きると決める。ロシナンテは既う、知ってしまったのだ。瑕の永遠、この世界の残酷も、白い子供の柔しさも、躍る、赤い心臓に手が届くことも。
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