祝え呪え王の生誕ごめんな、と言って眉を下げ微笑い、ドフラミンゴの父は残して行く家族に命を差し出した。最早他にできることはないと腹を据えたようにも、銃を突き付けてきた息子に対し取るべき行動を何も考え及ばなかっただけの愚鈍にも思える姿だった。差し出された命の貨幣をドフラミンゴは受け容れ、ロシナンテは拒絶した。撃ち込んだ鉛によって与えたのは赦しである。死体となった頭を切断する糸に震えは無かった。銀盆に載せられた首は強張りの隠せぬ、併し柔らかな微笑を湛えている。ドフラミンゴは銃をヴェルゴに手渡すと、伏せられた瞼の端に滲む水を己の熱い指で拭い、最期の言葉に謝罪を選んだくちびるから流れる血の筋や、頸から滴り、溢れ出した血液が、ひたひたと、満たすように銀の大地に広がっていく様を凝と見詰めている。ドンキホーテ・ホーミングは赦された。罪は死によって赦される。犯した罪は己の血によってのみ灌がれる。哀苦に眉を歪ませ、肩で息を切らせながら、ドフラミンゴは冷静だった。頭の半分は激情に浸っていたが、残りの半分は恐ろしいほどに冷めたく、それが眼になり父を見詰めていた。
「ドフィ。お前は正しい。」
深い感嘆の情を含ませ、ヴェルゴの低い声がそう紡いだ。歓喜と覚悟に震わせた手で、未だ父の首を抱いた儘でいるドフラミンゴの背に抱擁を捧げる。歳も上背も、ドフラミンゴとは殆ど変わらぬヴェルゴの体温が触れる。それは温かで、伝わる鼓動の間隔は狭く、音はどんどんと激しさを増して行く。対してホーミングの頭部はどんどんと重く、冷えて、行った。何時の間にか現れたらしいトレーボルやディアマンテ、ピーカの三名は、首の無い死体と、それを取り囲む三人の子供を視界にいれると静かに息をのみ、それからゆっくりと、笑った。お前は正しい。と、誰かが言い、そうだ、お前は正しい。と誰かが首肯した。
「この首でおれたちは聖地へ帰る。」
堂々たる声音でドフラミンゴが告げる。ヴェルゴは抱擁する腕にいっそう力を籠め、三名の大人は手を叩き、王の生誕への祝福を示した。服従を示した。血の匂いが充満している。この世で最も高貴な血液が銀に満ちる。粗末な小屋に万雷の拍手が鳴り響く、それはひどく、空虚なものとしてドフラミンゴに届いたが、首の無い死体の腹に擦り寄って泣き喚く弟の叫びを掻き消すには十分だった。狂った熱が伝播する空間で、尚も冷静を失えぬ子供がちいさくつぶやく。
「謝るよりも、愛を告げてほしかったえ。」
愛していると言ってほしかった。そんな言葉では何も変わらないが、それでも、謝罪よりも愛を残してほしかった。お前は、父上、どうしてあなたは。ちいさな子供が泣いている。どうしてと叫び泣いている。喧しい拍手がすべてを覆い包んで、その日、ドンキホーテ・ドフラミンゴは王になった。