アスカのバレンタイン作戦今日は2月14日。バレンタイン。
好きな人にチョコを渡す日。
今日学校では女子達が義理チョコや本命を渡していたりと大忙しでうちのクラスでもなにかと女子がうるさかった。男子の中で貰えたやつは結構いたけど中には全く貰えなくて泣きながら帰っていたやつもいたっけ…
本当はこの学校お菓子とか持ってきちゃダメだけどバレンタインだから先生達も大目に見ている。
放課後、あたしは教室から誰もいなくなるまで待っている。目的は葛城先生にチョコを渡すため。まさか人のいる前で渡したら何かと噂がたつにきまってる。
なので、あたしは人があまりいない放課後を狙って葛城先生にチョコを渡すことに決めたのだ。
市販品なんかじゃない。ちゃんと1から作ったものを先生に渡す。昨日徹夜してラッピングまでやったからだいぶ自信はある。
先生の好きそうな紫と赤色で整えて後は渡すだけ。
ドキドキする胸を抑えながら教室から人がいなくなるのを確認したあとあたしは教室を抜け出し先生のいる資料室へ行く。いつも先生はそこで日本史とかそういうものの調べ物をしているから絶対いることはわかっていた。
ちなみになぜ先生がそこにいるというのを知っているのかっていうのは内緒。
チョコをバックに隠し持ち見つからないように資料室に着いたあたしはバックからチョコを取り出す。ノックを2回ほどすると中から葛城先生のどうぞという声がしてあたしは失礼しますと言いながら中へと入った。
ドアを開けるとメガネをかけて調べものをしている先生がいてあたしに視線を気づくとメガネを外しあたしに近寄ってくる。
やばい、鼓動が大きくなって先生の顔がまともに見れなくなる。
あたしは思わず下を向いてしまいチョコが入っている袋を強く握る。
「どうしたの式波さん。自分から来るなんて珍しいわね」
「えっと、……先生」
「なにかしら」
「今日……何の日か…わかる?」
「え?……今日は……なんだったかしら」
仕事が忙しいか今日がバレンタインだということに気づいてない。あたしは意を決してなんとか先生に口を開く。
「今日……は、バレンタインじゃない。
だから……これ……」
そう言って先生の前にあたし手作りのチョコを差し出すと先生は驚いた顔でチョコを見ていた。
「これ…」
「先生の…為に手作りしたの…不味かったらすぐに捨てていいから!それじゃ!また明日!」
あたしは早くここから出たい一心でそれだけ言い残すとドアに手をかけようとすると先生に手首を掴まれてしまい外に出られなくなる。
「待って式波さん」
「…」
なにかダメだったところがあったのかな。あたしは顔を赤くしたまま先生に振り向くと先生は柔らかい笑みを見せながらあたしにこう言った。
「チョコありがとう。嬉しいわ」
「ど、……どういたしまして……」
照れながらなんとか言葉を返すと先生はチョコが入った袋を見ながらあたしに提案してきた。
「……折角なら、今食べてもいいかしら。ここじゃなくて教室で」
「えっ、それは……その……」
「ダメ?」
そう言われると断ろうにも断り切れない。あたしは根負けして縦に首を振ると先生はあたしの手を握ったまま教室に戻り端っこの席でラッピングがされた袋を開ける。小さめの箱に包まれたチョコを見た途端先生はほうとため息をついてチョコを見る。
「……美味しそう」
「……」
「食べてみてもいい?」
「どうぞ……」
先生は1つを手に取り口に入れるとすぐに顔を明るくさせて美味しいと言ってくれた。あたしは内心ホッとしながら先生の食べる姿を見ていた。レシピ通りに作ったけど味だけが心配だったからそう言って貰えてホッとする。
「甘すぎなくて丁度いいわ。疲れが取れる」
「そう……」
「よく分かっているのね式波さん」
「それは……先生の……生徒だから……」
「それもそうね」
先生はひとつを食べ終えるともう1つに手を伸ばそうとするが何故かすぐに止まってしまう。
不思議そうに見ていると先生がこんな提案をしてきた。
「ねぇ、式波さん。今度は貴方からチョコを食べさせてくれないかしら」
「へっ!?」
「あーんってして欲しいの。お願い出来る?」
「む、無理よ!そんな、先生相手に……」
「誰も見ていないから……ね?」
「〜〜〜っ……!」
この先生はいつもそうやってあたしにお願いしてくる。ずるい。でも嫌いになんてなれない。
あたしはチョコを1つ手に取り、あーんと先生に向かってチョコを近づけていく。
「あ、あーん……」
「あーん……」
琥珀色の目があたしをじっと見つめてくる。恥ずかしさですぐにでも手を引っ込めたい。
震える手でチョコを持ちながらあと少しで先生に届くと思った時、突然先生に腕をつかまれそのまま引っ張られてキスをされた。
「んっ!?」
キスをされた時時間が止まったような感覚が走り、あたしは抵抗も何も出来ずに先生を見た。先生は艶やかな瞳であたしを見ている。このまま舌を差し入れられると思っていたけどすぐに唇は離れて続くと思っていた甘い感触は消えてしまった。
「……ご馳走様」
ペロリと意味深に呟いた先生はあたしが持っていたチョコも食べると口元を抑えながら固まるあたしを面白そうに見つめていた。
「式波さんどうしたの?顔赤いわよ?」
「…………」
「熱があるなら送っていきましょうか?」
「い、いい!もうあたし帰るから!さよなら!」
「ふふ、さようなら。気をつけてね」
あたしは大急ぎで教室を出て学校を後にする。そして誰もいないところで深いため息をつくとキスをされた唇を撫でる。
「もう…あの……バカ教師……」
先生へのバレンタインは成功したのかわからない。でも先生が良かったのならいいか……