休み時間「艦長、副長からの書類届けに来たわよ」
コンコンとノックをしながら部屋にいるミサトに声をかける。
でも、今回は珍しく返事がない。
「ミサト?」
そっと艦長室の扉に手をかけてみると鍵は開いていて中に入るとそこには机に突っ伏して眠っているミサトの姿があった。
(また徹夜したのか……)
はぁとため息をつきながらミサトをベッドに寝かせると乱雑に置かれている書類を整理していく。無理するなってあれほどリツコとあたしが言ってるのになんで無茶ばっかりするんだろ。
たまには休んでほしい。
よく見るとミサトの目元にはうっすらとクマがある。3日くらいここにこもって仕事をしていたのだろう。
掛け布団をかけてあげるとミサトはごろんと寝返りしながら気持ちよさそうに寝息をたてている。
安心しきった寝顔をしているミサトにホッとしながらあたしは汚くなった艦長室を片付けていく。
運良くエヴァの呪縛から逃れたあたしは
ニアサーの後、ヴィレでミサトの健康管理とその他諸々の仕事をしている。
元エヴァパイロットというのもあってあたしはあまりクルーからいい目で見られてはいない。
それでもミサトがクルー達に言い聞かせてくれたおかげでなんとかここにいる。
たまに廊下でクルーとすれ違うと冷たい目で見られはするけどその度にミサトが守ってくれるからなんとかなっている。
部屋を片付けながらミサトを見ているとミサトが可愛く見えてくる。
つい、可愛いと口にしたくなるけどミサトは地獄耳だから下手に口にすればそう簡単には逃してくれない。
ニアサーから14年、あたしもミサトも変わった。身体も大きくなったけどまだミサトの身長には届いていない。
ミサトはというと見た目はあの時と大違いになったけど内面はほぼほぼ昔のままだった。
いつもあんなに冷徹に命令をくだしたりしているけどあたしの前だと子犬のように甘えてくるのは変わらない。
クルーにも知られていない皆が知らないミサトの顔をあたしだけが知っている。
そう思うとあたしはちょっとだけ優越感に浸れた。まあ、そんなことがバレればヴィレ存続の危機に陥るのは目に見えてわかるけど…
「これでいいかな」
ちょっと書類を整理したりしたぐらいだけど、まぁこれくらいがいいだろう。
ある程度部屋を片付け終えてコーヒーを作っているとミサトが目を覚ましゆっくりと体を起こしてきた。
「あ、ミサト」
「アスカ…?来てたの?」
「来てたの?じゃないわよ。また徹夜したの?」
「クルーが円滑にしやすいように私なりにやっているだけよ」
「無茶するのはいいけど、見た目は若くても体はもう若くないんだからね」
あたしがそう言うとミサトは苦笑いをしながら「耳が痛いわね」と言った。
あたしはホントのことを言っただけだ。
ミサトはわかってないだけ。
あたし達の気持ちくらいわかって欲しい。
「コーヒー淹れたけど、飲む?」
「頂くわ」
コーヒーがいれてあるカップを差し出すとミサトは一口飲みふぅと息をついた。
「アスカの淹れたコーヒーは格別ね」
「そう?普通だと思うけど」
「五臓六腑に染み渡る感じがして美味しいわ」
「二日酔いでもしたかのような感想じゃない…」
ミサトはそうねと笑うとあたしも釣られて笑ってしまう。戦いばっかりの日々だけどミサトと二人きりで会話する時間があたしにとっては安らぎの時間だ。多分ミサトもそう思っているに違いないだろう。
「アスカのコーヒーはいつ飲んでも美味しいわね。何か隠し味ても入れてるの?」
隠し味…ねぇ…
特に何もないけどこういう時はこう言った言葉を言ったほうがいいかな。
「うーん……。愛情かな」
我ながらキザだなと思ったけどミサトはぽかんとした顔を浮かべたあとふっと笑った。
「愛情を入れてくれるなんて私は幸せ者ね」
「一応、ミサトの恋人だからね。入れないとミサトが休まらないでしょ?」
「…そうね」
こんな幸せな時間がもうちょっと続けばいいのに。
そう思ったのはミサトも同じだろう。