やっちゃった。
まず最初に頭の中に浮かんだのはその一言。
あたしは今病院のベッドで寝ている。
ちょっとだけ体を起こしてみると頭がずきりと痛んで少し顔をしかめてしまった。
頭にはぐるぐるに巻かれた包帯とガーゼ。
鈍い痛みがズキズキ走る。
今日に限って不良たちに絡まれるなんて散々だ。
ただ買い物してただけなのにいきなり絡んできやがってあいつら。買い物中のあたしにナンパしてきて素っ気なく断ったらなんかよくわからないけど、いきなり殴ってきたな。あたしの華麗な蹴りさばきで全部倒せたと思ったら後ろからバットであたしの頭を殴ってくるなんて卑怯すぎる。
まぁ、その後思いっきり一発くれてやったけど、脳震盪を起こしてそのまま倒れて今に至る。
そういえば、殴られたとき血が服に付いたような気がしたな。あれミサトにこの前買ってもらったばかりなのにな。
あいつら今度襲ってきたら絶対倍返ししてやる。ミサトからテスト頑張ったご褒美で買ってもらった服なのに…
段々と不良たちに対して怒りが湧いてくる中病室の外がやけに騒がしくなってきた。
なんだろうと思っていると病室のドアが勢いよく開かれて明らかに急いできたであろうミサトが中に入ってきた。
「アスカ!!!」
「み、ミサト?なんで、ここに…」
まさか仕事ほっぽりだして病院に来たの?リツコに怒られない?とか思っているとミサトはあたしの姿を見るなりホッとした顔をしてへなへなと近くに置いてある椅子に座り込んだ。
「アスカ…よかった…」
「ミサト、あんた仕事どうしたの?」
「リツコに無理言って放り出してきたわ。監視部からあなたの事を聞いた時は本当にびっくりしたわ…」
ミサト、あたしのこと心配して来てくれたんだ。
嬉しさの反面、こんなことで迷惑をかけてしまったあたしが情けない。
「あ、そうだ。あなたを襲った不良の事なんだけどさ」
「え?」
「あの後、私が責任を持ってシメといたわ」
…不良達、ご愁傷さま。
心の中で絶対にボッコボコにされたであろう不良達にあたしはそっと念を送る。
まさかとは思っていたけどホントにしてきたんだな…
「そこまでしなくてもいいのに」
「私のアスカを傷つけたのよ?これくらいしとかないと気が済まないわ」
「…殺して、ないわよね?」
「殺してなんかないわよ〜。ちょ〜っち、痛めつけただけよ?」
ミサトの痛めつけたは普通の人が思っているような痛めつけ方とは絶対違う。
不良達が死んでいないかと今度は心配が心の中に湧き上がってくる。
…あ、そうだ…。
買ってもらった服のこと言わないと。
「ミサト」
「ん?」
「その、服のことなんだけどさ」
「服?この前買ったやつのこと?」
「それなんだけどさ…あの時の喧嘩で血がついちゃってさ。汚れちゃったの」
「…」
「ごめん。せっかく買ってもらったのに」
そう謝るとミサトはちょっと間をおいてなんだとため息をつく。
「そんな事で責任感じてるの?そんなの気にしなくていいのに」
「でも、ミサトから貰ったばかりなのに」
「子供がそんなこと気にしなくていいの。また買えばいいのよ。傷が治ったらショッピングモールで新しいの買いにいきましょ」
柔らかく笑うミサトの姿にあたしの中にあった責任感が和らいでいくのを感じた。
でも、ミサトはすぐに真面目な顔になってあたしを見る。
「でも、今回は運が良かったからこの程度で済んだけど、相手が銃やナイフを持ってたらアスカだけじゃどうにもならなかったかもしれないわよ。無理せず私に連絡して安全な場所に逃げること。いいわね?」
そう言ってミサトは小指を差し出してきた。
たしか、日本では約束事をするとき「指切りげんまん」というのをするらしい。
「約束。ね?」
「…うん」
指切りげんまんをしたあと、ミサトは悲しそうな顔になってぎゅっとあたしを抱きしめる。
「…守れなくて、ホントにごめんね」
謝るのはこっちなのに。アンタが謝ったらあたしが謝る機会無くすじゃない。
力強く抱きしめるミサトを抱き返しながらあたしはそっとありがとうとミサトに聞こえるか聞こえないかの声で言った。