幽霊族の矜持とは水木は何かにつけてよく『子供扱いするな!』と怒る。
子供扱いしているわけではないが、もう数百年生きているわしからしたら三十そこらはまだまだ童、いや赤子も同然な存在なのじゃ。
だから無意識のうちにそのような扱いをしていたかもしれない。それは謝る。
じゃがなぁ、水木よ。
おぬしもおぬしで、わしのことをますこっときゃら扱いするのは止めよ。
いくら目玉姿のわしがぷりちぃできゅうとな存在だとしても、わしはもう数百年も生きている幽霊族なのじゃぞ。わしにも矜持というものがある。
「ふぅん、そうか。幽霊族の矜持ね。…だったら毎夜毎夜人が寝ている時に胸元に忍び込むのはやめろ!」
寝返りうつ時にお前のこといつか潰しちまうんじゃないかって朝起きる度に冷や冷やすんだよ、こっちは!
目玉姿のゲゲ郎をつまみ上げなから眉を吊り上げて説教をする水木に対してゲゲ郎はというと、腕組みをして何かを思案している様子だった。
聞いてんのかよ、という水木の苛立ちが含まれた言葉にゲゲ郎が応えた。
「じゃがのう、そのおぬしの襟元の緩み具合いをみるに、そこに忍び込んでくれと言われとるようなもんじゃからのう。おぬしのむちむちの弾力のある胸がわしを引き寄せるんじゃ。気付けばおぬしの谷間にずっぽりよ」
「ずっぽりよ、じゃねえんだわ。この助平親父。幽霊族の矜持とやらはどこにいった。」
そうぎゃいきゃいと騒いでいるゲゲ郎と水木であったが、きっと今夜もまたゲゲ郎は水木の胸元に忍び込み、そして水木もまたそんなゲゲ郎を無意識のうちによしよしと可愛がるのであった。