後日博士から謝罪の菓子折りが届いた「セックスがしたい」
「すみません意味がわからないです」
妻と娘が買い物に出かけている中一人家に籠もり仕事をこなしていた。窓から聞こえたノックの音。引っかき音であれば大好きなピッコロだが今回は違う客人らしい。悟飯はそれが誰であるか予測がついていた。まず窓からくる時点で一般人ではない。そしてピッコロでもなく、窓をノックする礼儀正しさを持ち合わせている知り合いは今の所一人しかいなかった。
「こんにちは1号さん」
「こんにちは、悟飯。約3日ぶりだな」
かつて共に闘ったΓ1号である。わりと頻繁に自分のもとを訪ねてくる彼(性別は不明だが)のことを悟飯はわりと好いていた。自分のヲタクじみた会話も嫌な顔せずに付き合ってくれる。身体を動かしたい時は思い切り組手ができる。
今日はどんなことをしようかと考えていたときに悟飯の耳に届いた言葉が冒頭の台詞だった。
「……嫌か?」
「嫌というか意味がわからないんですって。何ですかいきなり」
「いきなりではない。3日前から考えていた」
「そうなの!?」
3日前の彼は決しておかしな様子などなかったのに実はとんでもないことを脳内で展開していた事実に少し鳥肌が立ってしまった。
「いやいや、落ち着きましょう、うん。3日前の貴方はどうしてそんな考えを抱いたんですか?」
原因を探ることによってもしかしたらこの事態から逃れることができるかもしれない。希望を胸に抱き悟飯は3日前の1号について聞くことにした。
-3日前カプセルコーポレーション-
「突然だけど二人の感度チェックするよ」
始まりはヘド博士のこの言葉だった。目の下にいつもよりも濃い隈をこしらえたヘドは両手に抱えていた沢山のビデオを机に乱雑に置き、内容の説明をしていく。
「色んな映画を用意したから一つずつ観てみてくれ。それを観てどんな気持ちを抱いたかを僕に教えてほしいんだ」
「「了解しました」」
そこから1号と2号は片っ端から作品を観ていく。感動、ミステリー、アニマル系…あらゆる作品を観てそれに対する感想をヘドに述べていく。淡々と進んでいく作業に変化が訪れたのはとある作品を2号が手にしたときだった。
「博士、これは?」
「あ〜……一応用意したんだった…AV。性的な描写のあるやつだよ」
お前達には流石に早いかもだから今回はやめといても良いよと生後一年未満の二人は告げられた。しかし、二人はヘドの期待に応えたい!と観ることを決意する。
ベッドシーンを表情を変えることなく眺めている二人の姿は他人から見たらなかなかの光景だろう。ヘドも流石に性的興奮はまだ育っていないな…と苦笑いしている。
しかしこのヘドの認識は少しだけ間違えていた。確かに2号に関しては(ん〜あんまり面白くないなぁ)と白けていたが、1号はとあるシーンを観てから頭の中でふつふつととある感情が芽生えていたのだ。
そのシーンとは性行為を主に受け入れている側の顔がアップで映されたときの映像だった。黒髪の役者の顔には黒い眼鏡がかけられていた。それを見た瞬間、1号はとある存在が頭を過ぎってしまう。
(悟飯の眼鏡と似ている…)
最初は眼鏡だけだった、しかし髪の毛も同じ色、少しだけ細身な身体。少しずつその役者と悟飯を結びつけていってしまう。そして…。
「博士…」
「ん?どうした1号」
映像が終わった直後1号は口を開いた。己が抱いた気持ちを早く言葉にする為に。真剣な表情を浮かべている1号にヘドと2号は固唾を呑んだ。
「私は、孫悟飯とこの行為がしてみたいです」
「「…………は?」」
「口を合わせたらどんな表情を浮かべるのか見てみたい。何処が彼の気持ちのいいところなのか全身すべて触って確かめたい。白いベッドに沈むあの白い肌に触れてみたい。強靭な身体を思いきり抱きしめて…」
「ストップ!とまって1号!僕の知ってる1号帰ってきて!?」
べらべらと自身の望みを述べていく口を2号の手が塞ぐ。あの堅ぶつ真面目な1号がこんな事を言うなんて…もしかして何処か壊れたのだろうか。今すぐメンテナンスをしてもらおうと1号を抱えようとするがそれはすんなりと避けられてしまった。
「お前の知ってる1号は私だが?おかしな奴だな」
まるで2号が変になってしまったかのように述べているがこの現場を目撃している人が他にもいたら満場一致でお前だよ!と叫んでいたことだろう。それだけ普段の1号とはかけ離れた発言をしているのだ。
ヘドは考えた。まだ生まれて一年未満のΓがまさかセックスをしたいと思うとは思わなかった。どうすれば穏便にこの事態を収拾できるだろうかと。五徹しているが超天才の頭をフルに使って考えた。
「博士、私は何か間違った事を発言しているのでしょうか…?」
少しだけしょぼんとしてしまった1号を見てヘドは思った。僕のΓは最高傑作。たとえ赤ん坊のような年齢であろうともΓはΓ。最高傑作ならどんな事もスマートにこなしてくれるだろう。ヒーロー活動もセックスもきっと変わらぬ最高の結果をもたらしてくれると。
「よし!お前ならきっと可能だ!なんたって僕の最高傑作、Γなんだから!もっと資料を集めて学んでいくぞ!」
「はい!ありがとうございます!」
超天才ではあるが五徹した頭はフル回転させてもろくな結果は生み出さなかった。
「悟飯…ごめん、僕には止められない…」
テンションあげあげな二人を少し離れたところから眺めている2号はこれから起こるであろう悟飯の災難を予期して小さく謝罪した。
「回想終わりだ、ヤるぞ」
「やめて待って止まって!!??」
淡々と述べられていった回想の終わりを告げられるとそのまま押し倒そうと両肩を力強く押されていく。勿論悟飯はただではヤられない。必死に抵抗をするが、普段の状態では1号に力で勝てず少しずつ身体は倒れていきあっという間に床へと倒されてしまった。
「ソファの方が良いか?」
「まず行為が嫌なんだってば!!」
アルティメット化、もしくはビーストになれば1号から逃れられるだろう。しかしその姿になることを悟飯は避けたかった。
(家壊したら…!またビーデルさんに怒られる!)
家族大好き孫悟飯、妻に怒られるのはとっても嫌なのであった。なんとかして今の自分の力でこの危機から脱出せねばならない。気を乱してピッコロを呼ぶかと考えたが悟飯脳内会議でそれも却下された。こんな状況を見たら怒り狂ってオレンジ鉄拳炸裂からの1号が壊されてしまうかもしれない。こんな状況でも1号の心配をしてしまうくらいには悟飯は彼を気に入っているのだ。でも性行為はしたくない。
「ただAVの役者が僕と似てたからって!僕とヤりたいとか普通思わないでしょ!!帰ってメンテナンスしてもらってください!一回と言わず百回くらい!!」
力で敵わない、助けも呼べない。それなら1号に正気に戻れと言葉をかけることしか悟飯に選択肢はなかった。その考えはおかしいのだと理解してもらうしかなかった。理解して、メンテナンスをしてもらって正気に戻ったあとまた家に遊びに来てほしい。
あの穏やかで楽しい時間を失いたくない。必死に言葉をかけていく悟飯の口は1号のとある言葉で動きを鈍らせた。
「役者が似ているとは思ったがヤりたいと思ったのは俺が悟飯を好きだからだ」
「…………へ?」
「勿論、ライクではなくラブという方向で」
悟飯の必死に込めていた力がどんどん抜けていく。告げられた言葉が脳内で何度もエコーのように響いている。
(すき?ライクでなくてラブ??つまり1号さんは僕のことを…)
「ハァ!?!?」
脳内処理を終えた悟飯の顔は真っ赤に染まり、熱を帯びていく。そんな自分に悟飯は酷く動揺していった。
(待ってなんでこんなに心臓バクバクしてるのなんで顔暑いのなんでちょっと嬉しいとか思ってるの僕!!!!)
「どうした?心拍と熱が上昇しているが」
「ちょっと黙ってて僕今凄く忙しい!」
自身に起きている状況の整理には時間が必要だった。心配してくる1号をそっちのけで只管思考を巡らせていくがどんなに考えてもなぜ?どうして?としか浮かばず顔の熱はさらに高くなっていく。
抵抗されず、押し倒されたままぶつぶつと状況整理中の悟飯を1号は少しの間だけ待ってくれた。少しだけである。1号はこういった状況かどういうものかをヘドとの勉強により学んでいた。
「据え膳食わねば…というやつだな」
「あぅ…!」
強く、しかし優しく顎を掴み目線を強制的に合わせる。
「本当に嫌ならお前なら家の損害など気にせずにオレを壊しに来るはずだ。しないとは、そういうことだと判断する」
ゆっくりと二人の口は近づいていき、くっつくであろうその瞬間。
「すとぉぉぉぉぉっぷ!!!!」
あいた窓から突撃をかました2号によって事態は一時沈静化されるのだった。
「なんだ2号、部屋を荒らすな」
「一番に荒らしてる奴が言う台詞じゃないよ!本当止まって!?1号の恋は応援したいけどこんなやり方じゃまずいでしょ!?」
「?」
「わからないの!?こんな状況万一ピッコロが知ったらオレンジパンチが『オレのオレンジ姿がどうしたって?』あ…」
悟飯の部屋の床には1号の形の穴があいた。
終