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    Ma2rikako

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    Ma2rikako

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    糖度100%のクリスマス・イブ燈啓。
    #荼ホワンドロライ 『聖夜』をお借りしました。

    過去は消えない高校生の時、燈矢が啓悟と付き合う事になって初めて行ったデートがクリスマスマーケットだった。
    たった今、手にしたばかりの湯気の昇るホットワインを両手で支え、ちびちびと口を付ける啓悟を見ながら燈矢は初めてこのクリスマスマーケットに来た日の事を思い出していた。

    最初は同じ高校に在籍していると言うだけで特に何の接点もないただの先輩と後輩という関係だった。それなりに目立つ存在だった二人はそれとなく相手のことを知ってはいたが、本当に何の接点もなかったのだ。それがある日つながった。恋人を欲しがっていた男女数名が交流を深めようと遊園地でのグループデート、いわゆる合コンの企画を立ち上げたのだ。そんな中、燈矢を紹介してほしかった啓悟の女子クラスメイトと、啓悟を狙っていた燈矢の女子クラスメイトの希望が合致したことからそれぞれに声がかけられ、二人もその合コンに参加することとなったのだ。それが接点だった。
    さて、希望が合致したのはなにもその女子たちだけではない。本来ならそんな集団行動への誘いなど即決で断るのが常の燈矢。そして、本来なら遊びに行くよりもバイトに行きたい啓悟が何故それらの誘いを受けたのか。それは互いの名が、そのメンバーに含まれていると聞いたからに他ならない。そう、燈矢と啓悟もなんとか接点を持つための機会を欲していた訳で、かくして、その遊園地で早々と男二人がフェードアウトすることとなった。あとは知らない。

    接点が出来てしまえばあとは早かった。燈矢は啓悟を初めて見た瞬間から頭のどこかで「見つけた」と感じていたし、啓悟も燈矢の視線を受けたその日から、その人から目が離せなくなってしまっていた。

    最初に交わした会話はあまり覚えていない。けれども11月の終わり、気温がぐっと下がり始めた頃だった。啓悟が「寒いっすね」とぎこちなく笑ったのを見て、燈矢はその肩を引き寄せた。ぐいっと肩を組むと啓悟がきょとんとした瞳で燈矢を見つめる。燈矢はそんな顔を見て「なんか新鮮だな」と呟いた。
    「新鮮も何も、俺ら今日初めて会話したんすけど」
    「あー……そう言えばそうだった。なんかもっと澄ました感じのやつかと思ってたから」
    「その言葉、そのままそっくりお返ししますよ」
    そんなやり取りだっただろうか。
    その後すぐにファーストフードの店に入り、温まりながらいろんなことを話した。そして、その店に貼ってあったポスターを口実に、クリスマスマーケットに一緒に行く約束をした。更に、お付き合いを始めるという認識の擦り合わせもした。そのことに何の疑問も違和感も抱かなかった。そうすることが当たり前のように、最初から決まっていたかのように二人はそれを決めた。


    燈矢にしてみれば、クリスマスは二日間とも啓悟と過ごしたかった。けれども啓悟にはクリスマスが稼ぎ時、ケーキの売り場でのバイトが入っていたため、デートは25日の夕方からという予定を立てた。当初は。ところが24日、バイト先に入った啓悟はそこに燈矢がいたことにぽかんとまぬけ面を晒すこととなる。「来ちゃった」などとわざとらしく笑う燈矢は、当日のみの募集人数に空きが出ていたからそこに申し込んだのだという。いやはや、そんなこんなで仮にも校内一のイケメンと称されている燈矢が、人好きのする笑顔で明るく正確に接客をする啓悟の隣にほぼほぼ立っているだけで、いつもよりも多い女性客のおかげかその日の仕事はあっという間に片が付いてしまった。


    こうして燈矢は24日の夜も啓悟と一緒に過ごす権利を手に入れたのだ。
    駅近くで開催されているクリスマスマーケットは小規模だったが、高校生が立ち寄るにはちょうどいい大きさだった。家族連れや友人同士のグループ、そしてカップル。燈矢と啓悟もそれに含まれてはいるが、普段は堂々と恋人同士ですなどと宣言はしていない。来年、燈矢は受験生でもある為、校内で騒がれるのもうっとおしいからと、燈矢が卒業するまではせめて友人同士の距離感でやりすごそうと二人で決めた。
    だから、こんな二人の事を知らない人間ばかりの人込みは好都合なのだ。燈矢は啓悟の手を取った。
    「バイト、びっくりした?」
    「したした。でもおかげで早く終わってよかったよ」
    「俺、あんまり役に立ってなかったけどな。顔しか」
    「あっはは、まぁそこは否定しないけど」
    校内でちょこちょこあっている間に2人きりで会話する分には敬語も取り払えるようになっていた。そんな何でもない会話を交わしながら啓悟は燈矢の手を握り返した。そのことにホッとする。啓悟が喋る度に口元からほわほわと吐き出される白い息や、ふんわりと風に揺れる前髪に指先を絡めたくて仕方がなかった。でも、その前に腹ごしらえかな、と啓悟の腹の虫が鳴るのを聞いて燈矢は笑った。


    啓悟は食べるのが早い、というかよく食べる方なんだと思う。最初に入ったファーストフードの店でも、今食べ歩きしている夜店のチキンだって、燈矢がもういらないから食べてと言うと至極嬉しそうに頬張ってくれる。学校の昼休み、たまたまクラスメイトと昼食をとっているのを見かけると、パンをかけてゲームをし、それを勝利でもぎ取るだけの食い意地もあるようだ。それなのに、買い食いと言うものをほとんどしない。あんなにもバイトにあけくれた暮らしをしているのも、きっと家庭の事情なのだろうと薄々分かってしまっていた。燈矢の家は裕福な方に分類される。それに同じ高校生とはいえ、燈矢の方が年上だ。それを理由にコンビニで買えるくらいのものなら理由をつけてあげるくらいのことは出来る。本当ならもっと頻繁に奢るなりなんなりしたやりたいとこだが、施しを受けるというのを啓悟はきっと望んでいないのだろうと感じていた。
    それでもだ。今日、この日はクリスマス・イブ。明日はクリスマス本番。そう、クリスマスプレゼントと言うものが存在するのだ。
    「なぁ、なんか欲しいもんとかある?」
    「ん?なんで」
    燈矢の残したクレープをもごもごとしながら首を傾げる啓悟に思わず吹き出しつつ、燈矢は続けた。
    「だって、クリスマスだろ。プレゼント、欲しいもんがあったら何でも言って」
    「何でもって……?」
    「何でもいい」
    啓悟は何が欲しいというのだろうかとずっと考えていた。例えば今の季節、啓悟は寒さをしのぐには今着ている少し薄手のジャケットしか持っていないと言う。マフラーも使い込んだ感のあるもので、手袋もしているのを見たことがない。例えばそう言った暖を取るものだとか。精一杯、カッコつけようと休日のみ身に着けているピアスを見てカッコいいと言われた。そう言った着飾るためのアクセサリーだとか。財布や、ペンケースや、カバンや、靴。もしかしたら食べ物かもしれない。美味しいものをたくさん食べたいとか。その何でもを叶えてあげられる日だ。
    啓悟はうーんと考えるそぶりを見せてはいるが、おそらくもう決まっているのだろう。チラリと燈矢の顔を見て口をあけては閉じてを繰り返している。それを燈矢は待った。なんて言われたって絶対にオッケーして見せる。
    それから少し経って、啓悟は口を開く。躊躇いがちに、啓悟にしてはハッキリとしないたどたどしい口調でそれを口にした。
    「じゃ、じゃあさ……燈矢、忙しい時期かもしれんけど……来年も一緒にここに来よう? ……っていうのは?」
    まったくの予想外の望みに、燈矢は「ん?」と首を傾げた。
    「そんなんでいいの?」
    「そんなんって……言わんで欲しか」
    「……あ、そういう意味じゃなくって、っていういうか、物! 物でなんかない? 何でもいいから! こう、好きな物とか必要な物とか……」
    「ものぉ~? う~ん。俺そんなに欲しいものってないんだよねぇ」
    「いや、でもさぁ。こう初デート記念みたいなの、なんかプレゼントしたいじゃん……」
    「ふふ、初デート記念て」
    「あーもう、うるせぇなぁ」
    「でもさぁ。俺だってなんにも用意してないのに」
    「それは、いいんだよ」
    「え~、じゃあ寒いから、あれ。あれ奢って?」
    啓悟が指したのは小洒落たキッチンカーで売られている温かい飲み物だった。数人の列が出来ている。注文をもらってから目の前で温めブレンドするというやり方の為、少々時間がかかっている様だ。
    「カフェオレでいいです」
    「いや、だからさ」
    「あっためて下さい」
    「なんで敬語」
    「……照れとーけん」
    「……方言」
    「う、だから、燈矢うるさい! ほら、並ぶよ」
    燈矢は渋々、その店に並び、そして考える。
    「あっためて下さい……かぁ。よくよく考えてみるといいな。なぁ、もう一回言って?」
    隣にいた啓悟に小突かれる。
    「そう言えばあたためますか? はコンビニでよく言ってる」
    「ばっかおまえ。それ俺以外にもう二度と言うな」
    「無理に決まってるだろ」
    そんな他愛のない話をしながら、啓悟が燈矢のコートのポケットに手を突っ込んできた。「お、なんだよ」と多少の動揺を必死に抑え込みつつ、燈矢は自分の手もその中に入れた。
    「燈矢、こういうの好きっぽいと思って」
    そう言って悪戯っ子のような顔をして戯れてくる啓悟が——。
    「好きで悪かったな」
    ポケットの中で指と指を絡めながら燈矢はぼそっと呟いた。

    隣ではアルコールの売られているテントが並んでいた。本場ドイツでの名物、グリューワイン。聞いた事はあったが、何しろ自分たちはまだアルコールの摂取が許される年齢ではない。
    ワイン、かぁ。
    たった今そのワインを手にしたカップルが寄り添いながらそれに口を付けている。
    思わずアルコールでほろ酔いになり頬をほんのり染めた啓悟を想像して、燈矢はあと数年後がひどく待ち遠しくなった。
    自分たちは紙コップで提供されたカフェオレとコーヒーを手にして寄り添い合う。今はこれでいい。だってまだ高校生なんだから。こんな風に、まだ子供のうちに出会えて、接点が出来て、手を繋いだり、何でもない話が出来るということがなんでこんなにも嬉しいんだろうな。燈矢は自分には覚えない、心の奥底から湧き上がってくるような感情を不思議に思いながらも、心地よくそれらに身を委ねていた。
    「あちっ」
    思っていたよりもカフェオレが熱かったのか、啓悟がぺろりと舌を出す。
    「なんだよ。猫舌か?」
    「いや、特にそうでもないよ。う~舌、ひりひりする~」
    ほら、とばかりに啓悟はその舌先を燈矢に向かって見せてきた。
    その小さな舌を見て、燈矢の頭は真っ白になる。ふっと屈んで、流れる様にその舌に唇で触れた。
    「…………ひっ?」
    ワンテンポ遅れて、啓悟が舌を出したまま素っ頓狂な声を上げる。
    「火傷、したかなって思って。確認」
    「へぁ……かくにん……。ああ、そう、ですか……って、え?」
    「啓悟、来年と言わず毎年一緒に来よう」
    「ま、いとし?」
    「そ、大人になったらさ、あれ、一緒に飲みたいな」
    さっき見かけたテントを指すと、啓悟はその意味を理解したようだった。少なくとも、それまではクリスマスを一緒に過ごせる、そういう約束だ。
    「おまえからのプレゼントは、それでいい」
    約束をする。
    啓悟の欲しがった物は約束だった。
    「うん」
    そして燈矢も。
    ポケットの中で小指を強く絡め合う。
    その日、2人はクリスマスマーケットで互いに約束を交換し合った。
    ちなみにその後、きちんとキスもした。






    そんな、甘酸っぱい初デートの日を思い浮かべながら燈矢は目の前の、たった今、手にしたばかりの湯気の昇るホットワインを両手で支え、ちびちびと口を付けている啓悟をただただ見つめていた。
    「燈矢、これ美味しいね」
    え、何杯目だ?
    啓悟はグリューワインのお代わりを飲み干しながらニコニコと満面の笑みだ。
    あれから数年、約束を違えることなく、2人は毎年いずこかのクリスマスマーケットに行くのが定番となっていた。関係も進んだ。恋人同士としてやることはやっている。啓悟がようやくお酒を飲めるようになって初めてのクリスマスだ。啓悟の誕生日が12月28日、クリスマスの後と言うこともあり、成人してから今日この日まで酒を飲む機会がなかったことはない。燈矢にとっては待ち望んでいた日が来たわけだが、少しだけ、誤算があった。
    啓悟は酒にめっぽう強かった。
    酔わない訳ではない。頬を赤らめてどことなくぽわぽわとするにはするが、我を失う事はないようだ。よって、燈矢が酔っぱらった啓悟を介抱するなどと言う事態には未だに陥ってはいない。
    燈矢はまだ一杯目を半分飲んだところだった。グリューワインはさほど度数も強くはないと聞いてはいたが、ここのは少々強くはないだろうか。甘くて飲みやすいのが啓悟の口には合ったのだろうが、燈矢は一杯で十分だなと思った。このいつもと違った雰囲気にあてられて啓悟もあそこで「酔っちゃったかな」などと語尾にハートをつけて彼氏に甘えているあざとい系女子みたいにならないかなぁなどと燈矢はぼんやりと考えていた。


    ホテルは奮発した。寝具はふわふわで大層寝心地がよかった。朝食のバイキングも啓悟が好物をたくさん食べられるかを優先して選んだ。クリスマスマーケットから徒歩で行ける範囲の場所だった。お膳立ては十分だったはずだ。
    カーテンの隙間から淡い光が差し込んでくる。朝だということが分かる。隣には馴染みのあるぬくもり。
    「あさ……か」
    燈矢はむくりと起き上がった。
    「……朝?」
    寝覚めは良い。下半身はすっきりとしている。隣で丸まっている肢体に目をやると、その首元や胸元にはいくつもの鬱血の痕が見え隠れしていた。昨夜はお楽しみでしたねってやつだ。その塊がもぞもぞと動く。寝起きの瞳がぱたぱたと瞬いて、燈矢の姿を視界に収めると大きなあくびをした。
    「おはよう、燈矢」
    「……おはよう」
    枕に頬を埋めながら、啓悟はふにゃりと幸せそうに笑った。
    「んふふふ……とーや、昨日は甘えたですっごく可愛かった……えへへ」
    「へ、へぇ……」
    燈矢は口の端を引き攣らせながらなんとか笑顔を作って見せた。

    やばい。

    なんっにも覚えてない。

    え……えーいつからだ? 昨日、ワインを飲んでて、けれども俺は断じて酔ってなんか……途中から啓悟がもうおなかたぷたぷーとか言いながらワインの飲みかけを押し付けてきたんだっけ。いや、飲んだのワインだけじゃねぇな。燈矢の瞳の色だ!とか言ってどっかからカクテルを持ってきてたなそう言えば。俺も酒に持ってかれるようなやわな体質じゃないからって、啓悟がチョイスしてきた酒を……ああ、けっこう飲んでるわ。いつからだ。いつからの記憶がない。
    『燈矢……そろそろ、帰る……?』
    ふわふわとした記憶。腕に両手を絡められてそんな事を言われたような気がする。気がした!

    燈矢は枕に散らばる啓悟の金糸の髪を掬いあげて、そのまま頭をガシガシと撫でまわした。
    「ちょ、ちょっとなに」
    抵抗しつつも嬉しそうな様子に悪い気はしないが、なにしろ覚えていない。
    「……昨日はすごくやさしかったのに」
    ぼそっと啓悟がそんな事を言う。
    「なんか、燈矢、こどもみたいだった」
    起き上がった啓悟が燈矢の頭をよしよしと撫でる。ふふふと啓悟が何かを思い出したのか笑い声を漏らし始めた。

    『よしよし。いい子いい子』

    甘ったるい声で反響する啓悟の声をどことなく覚えている気がする。それに対して自分はなんて言ったんだろう。なんか妙な事を口走った気がする。いや、これは思い出さないほうがいいのかもしれない。
    くそっ。
    過去は消えないって誰かが言ってた気がする。
    これまでずっと楽しくて幸せで愛おしい啓悟との過去の日々は消えない。けれども昨日の俺、てめーは駄目だ!!
    燈矢は記憶を全て失った昨夜の自分に殺意を籠めて毒づいた。
     地獄でひとりで踊ってやがれ!昨日の俺ぇ!!

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