レムリア俺たちはその日、永遠を誓った。
なんてことない日常は
朝も夜も飽きさせることなく
流れていく
「ふふちゃん、ジャムの灰汁取り終わったよ」
「ん!こっちはもう少しかかりそうだ」
「もこもこだねぇ…頑張ってね」
「ああ。ジャムがパイになるのを楽しみにしてるよ」
あの日星を手に入れた俺は
老いることなく時が進んでいる
華やかで、俺たちの周りには沢山人がいて
国を超えて世界で会した
あの時代からは150年ほど経過していた。
「ダンツたちもこもこだったね。
今年は何を編もうかなあ」
リビングで日向ぼっこをする猫と
ジェリーに話しかける
ああもう、すぐに膝の取り合いになるんだから。
未来から来た影響からか
サイボーグのふぅふぅちゃんもやっぱり
歳をとるのが遅くって。
一線を退いた後俺たちは山奥に
一軒家を買った。
ちなみに今愛しのdaddyは
沢山飼ってる羊の毛刈りをしてる
今年庭で採れたベリーは第一弾が
ジャムになって。これからパイになる予定。
あの頃よりだいぶダンディになったけど
ふふちゃんはいつもかっこいい。
「あ!ふふちゃん!そのまま部屋入らないでよね!
お風呂直行して!」
「はーい…」
2人手を繋いで、
あとどのくらい生きられるのでしょうか。
そんなこと考えていたら
別れはすぐそこにやってきた。
「この世界はどうやら我が
過去に飛ばされた世界と繋がっているらしい」
「えーと、つまり?」
「この世界の我が産まれたようだなぁ」
ベッドの中、
ああ何回買い替えただろうという寝具は
宙に浮いている。
どうしても生身の部分の老いは
止めることができず
“そういう欲”がなくなっても
俺たちはよく裸で一緒に寝ていた。
「長生きしすぎちゃった?」
「んんん、どこでこうなったんだろうな」
「待ってふふちゃん、透けて…る?」
サイボーグの手はしっかりあるのに
寄せた肌は何にもぶつからないような感触で。
「同じ人間はこの世界にいられないらしいな」
「やだ、置いていかないでよ」
「遅かれ早かれかもしれないんだよ」
「やだやだ、ふふちゃんを看取るまで一緒にいる」
「それが、今かもしれないだけだ」
ぽろぽろと流れる涙に唇が落ちる
感触はなくて、でも息遣いは感じる
「浮奇、愛してるよ。大丈夫また逢える」
「ふーちゃん…」
「お願いだ。この時代の我を導いてほしい」
「でもそれは俺のふふちゃんじゃない」
ぎゅっと抱きしめられる
抱きしめ返すと背骨だけに指が当たった
「“その”ファルガーは29歳の頃過去に飛ばされるんだ。
そこで運命に出会うんだよ。
言ってなかったな。
記憶があるんだ」
「…俺の…!?」
「ちょっと旅に出るだけだ。帰ってくる」
「ねえ!どういうこと!?」
「全て忘れても、生まれ変わっても
浮奇を愛してるから。君を見つけにいく」
そう言って
彼は光に包まれて消えてしまった。
俺の上にバラバラと首輪と背骨が落ちてきて
赤い腕と脚とひとりぼっちの俺だけが残された
「ファルガーは器用だね。すぐ覚えちゃった」
「そうかな。教え方がいいだけだよ」
「そんなすぐシェフまで行けないよ。」
あの時生まれた彼が高校生の頃、
俺はちょっと見るだけだと彼を見に行った。
そこにいたのは
若い頃のふぅふぅちゃんそっくりで。
あまりに身勝手に消えた彼に
一言言ってやらないと気が済まないから
俺は毎日帰ってこいと月と星に願っていた。
彼の家庭事情は複雑らしく
その若さで独り立ちしようと悩んでいた
この時代のファルガー。
偶然を装って接触した俺は
一緒にゲームをしたりして
聞いた話は彼の昔話と一致してた。
『名前は思い出せないんだが
お世話になった人がいて
その人を置いてきてしまったことが
心残りなんだ』
そう愛おしそうに話す彼に
何度嫉妬したかわからない。
それ、俺だったんだね。
話したいことばっかりだよ。
一緒にレストランで働いたり
この時代のストリーマーをしてみないかと
勧めてみたりして。
「浮奇、その、君は恋人はいないのか?」
「…いるよ。失踪中だけどね」
「じゃあ…、俺と…!」
「…ふぅちゃん、だめだよ。
俺はね、こう見えてもだいぶおじいさんだから」
「そりゃあ浮奇は出会った時と変わらず
綺麗だが、俺ももう30近い。おじさんだよ」
「君はこれから運命の人に出会うから。
その人を永遠に愛さなきゃならない」
「それは君がいいって言ってるんだ!」
「ふふちゃんみたいなこと言うね…」
日に日に似てくる彼に
やっぱりふふちゃんなんだなと感じつつも
合計で過ごした175年くらいの月日は
ふぅちゃんには超えられない。
時々忘れて絆されて
キスしそうになっちゃうのは
俺のふふちゃんには言えないね。
ある日、約束していた時間に
現れなかった彼に胸騒ぎがして
彼の自宅まで訪れた。
「そこは空き家ですよ」
「そう…ですか…」
「昨日まで人って住んでましたか?」
「いいえ。前の人は2年前には…」
ああ。君は。
あの楽しい時代についに行ってしまったんだね。
どうか
君がこれから出会う俺を
幸せにしてね。
「これ子育てだったのかなあ」
2回も突然消えてしまうなんて。
彼は俺をなんだと思っているんだ。
「本当悪い男」
やることがなくなった俺は
あの2人の家に戻ることにした。
まだあるだろうか。
あの庭も
あのサンルームも
寄り添う猫に話しかける。
何度祈ったことでしょう。
雪が降って
外はしんとしていて
月と星が綺麗に輝いている。
ある満月の夜。
扉を叩く音がした。
前時代的なこの家は人から
気づかれないようにこっそり隠している
だから尋ねてくる人なんて
いないはずなんだけど。
「こんな時間になんの用ですか?」
「サンタクロースです。プレゼントを
届けに参りました」
「…待たせすぎじゃない?」
ドアを開けるとぶん殴りたくなるくらい
ダサいアグリセーターを着た彼がいた。
「我だって肉体ができるまでに時間かかって!
だいぶいろんな時間を
一人旅してきたんだ。許してくれよ」
「許さない。2回も置いて行きやがってこのbitch」
「ああ…もっと言ってくれ。」
「…もう、ここ50年分くらいいうこと
溜まってるんだから。入って」
久しぶりの彼のご帰宅に
ジェリーたちが喜んで駆け寄ってる
「だいぶ若い頃のふふちゃんじゃない?」
「ふふ。そうだろう。浮奇と暮らし初めた頃
くらいの見た目にしたんだ」
「それって何年前?170年くらい?」
「肉体も綺麗なものさ」
「サイボーグの腕と脚まだ残ってるよ」
「あ〜〜懐かしい」
ぎゅっと抱きしめた彼は少しひんやりしていて
でも暖かくって。
心音が聞こえて
俺の時計がまた動き出した気がする
「まずね。おかえりなさい。my dear 」
君が居ないときの話をしよう。
大丈夫。日記に書き溜めておいたから。
ラブソングにして歌おうね。
100年後だって、1000年後だって。
一緒に時を迎えようね。