幸福今日は天気が良いので、キメリエスをお供に散歩している。フォルには知らされていないのだが、ザガン城ではフォルの誕生日の準備で慌ただしくしている。キメリエスはザガンにフォルを連れ出し、気を逸らせと命を受けている。こんな可愛くて優しい命ならいくらでも受けて良いとさえ思う。するとフォルが何かに気が付いたのか、その場でしゃがみ込む。
「どうしたんですか?フォルお嬢さん。」
キメリエスもその場でしゃがみ込み、彼女の視線の先に目を移す。クローバーとその花が群生している場所なのか、辺り一面クローバー畑だ。クローバーがどうしたのだろうかと、眼を凝らすキメリエスはこの少女が何に気を取られているのかに合点がいく。可愛らしくてふふっと…自然と笑みが溢れる。
「よく見つけましたね。」
「うん、四つ葉のクローバーは幸福をもたらすと聞いたことがあるから。」
「あと、もう一本ほしい。キメリ手伝って。」
「はい。」
一緒になって探すが群生しているため、葉と葉が重なり、更には花まで咲いていることから、なかなか見つからない。ふとフォルを見ると、その表情は真剣で。あっ!と彼女が声をあげる。見つかったのだろうか。
「違った…。」
「もう少し探してみましょう?」
「……うん!」
気を取り直して、探すとそれらしいものが目の端に移った。キメリエスほどの巨漢が慎重に慎重にクローバーを摘む姿は滑稽だが、どこか愛らしかった。
「ありましたよ。フォルお嬢さん。」
四つ葉のクローバーを傷付けないように、注意しながらそっとフォルに手渡す。
「ありがとう!キメリ。」
パァァと花が咲くような笑顔を向ける少女にほこほことしながら『さぁ、帰りましょう。』とモフモフとした漆黒の背に乗せる。
ウキウキと上機嫌のフォルは、四つ葉のクローバーを受け取ったあの2人がどんな反応をしてくれるのか楽しみで仕方がなかった。
だって、今日は自身の誕生日。大事なふたりと出逢って、復讐しかなかった己に幸福を教えてくれた大切な両親だ。今度は、自分が幸福を渡したい。
end