バルマト前提のガンマト たとえば。
身体を探られる時のかさついた手のひらの感触。
腰を掴む大きな手。
押し入ってくる時の体温。
自分以外の雄の匂い。
耳元で囁かれる低い声。
全く違うというのに、いや、全く違うからこそ、違うということを意識させられてしまうのだろう。
マトリフには、密かな悩みがあった。ガンガディアと初めて身体を繋げた時に意識して以来、ずっとだ。それは、何十年かを経て大魔道士を追いかけてきた過去の記憶だった。
本人でさえ脳の隅に追いやって、きっぱりと決別していたはずだった記憶である。だが、ガンガディアに抱かれるたびに、それは俄かに立ち昇ってきてマトリフが幸福に浸ることを邪魔していた。
今も、ガンガディアと唇を合わせて体を寄せ合っていると、足元から這い上がってくるものがある。
それはマトリフの師であるバルゴートとの秘め事の記憶だった。
まだ十分に若く、今よりもさらに好奇心旺盛だった頃、マトリフはバルゴートと関係を持っていた時期があった。今思えばまったく信じられない所業だが、真実だ。
振り返ると、与えられることばかりの関係だった。だから、当時は師と弟子という間柄の延長線上のように思えていた。
若さゆえの過ちと言ってしまえば終いだが、ひとりでできることではなし、あの人も男だったのだと思うとそれはなかなかに愉快なような呆れてしまうような……。
それにしてもガンガディアに抱かれているというのに、別の男のことを考えねばならないというのが、ともかくつらかった。
この脳の小さな誤作動のような働きはマトリフをだんだんと追い詰めていった。
どうにかこの記憶を消し去ることはできないだろうか。
「そんな都合の良い話はないですよ」
「だよな」
とうていガンガディアに相談することなどできない。代わりにアバンに、特定の記憶を消す方法はないかと相談してみたのだった。その場にふさわしくない昔の思い出が蘇ってしまって困っているのだとかなんとか誤魔化して。
「これはあくまで私の意見ですが、今になって思い出すということは何か、その思い出に引っかかることがあるのではないかと」
「そうかあ? すっかり忘れてたんだぜ」
「いっそ一度じっくり思い出して向き合ってみるというのもありかもしれませんよ。すっきりして思い出さなくなるかも」
そんなことが果たして、あるものだろうか。
マトがバル師のことやっぱ好きだったなあ…みたいな感情を思い出しつつ、付き合いたてのガンガさんと向き合う話、みたいなのが読みたかったのでした。
ギュータに行ってしんみりしたり、ガンガさんと喧嘩したり、雨の中でくるくる回りながら仲直りしたりしてほしい。供養。(フリー素材です)