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    かみすき

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    かみすき

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    白蛍
    お誕生日2024遅刻
    ちょっと慣れてきて遠慮が減ったらこうなってくれないかなの妄想

    #白蛍
    whiteTime
    ##白蛍

    《白蛍》めいっぱいのちゅ! 重たい足を引きずってようやく璃月にたどり着いたのは、日も落ちて冷たい潮風が町を包み、人々が寝支度を始める頃だった。見上げた目的地は既に灯りもなく闇に沈んでいるのを見つけ、蛍は肩を落とした。
     間に合わなかった。これでも急いで来たつもりだったけれど、と青ざめたところで時間が戻るわけでもなく。一縷の望みをかけて近くまで来てみたものの、やはり不卜廬に人の気配はなさそうだった。疲れた体に落胆も加われば長い階段を上がる元気もなく、なんとか手配ができたケーキを抱えて、つんと鼻の奥が痛くなるのを誤魔化すように踵を返した、のだけれど。

    「蛍さん」

     大好きな声に呼ばれた気がして振り返る。しかし小さく声を上げた蛍の周りには相変わらず誰もいなくて、悔しさのあまりに水のせせらぎがそう聞こえてしまったのかもしれなかった。
     一瞬でも期待してしまったばかりに落ち込みは大きくなり、丸一日走り回った体にさらに疲れが押し寄せる。

    「蛍さん」

     ああほらまた幻覚が聞こえてきた。もう今日は帰って寝よう。それから早起きして、朝一番に会いに行ったほうがいい。無理をして少しでも体調を崩せば、彼のことだからきっと怒るに違いない。
     そう結論づけたところで、蛍は反射的に振り返った。すぐ後ろで何かの気配がしたから。異変はなかったはず、またただの勘違いであればいいと思いながら飛び退き、剣を抜くつもりで。

    「おっ、と」
    「え……白朮!?」
    「はい、私ですよ。おかえりなさい蛍さん」

     抱えた箱を庇いながら伸ばした右手には、剣ではなく人の手が握られた。蛍のそれをすっぽり包み込んでしまう手は滲む優しさに満ちて、けれど少しだけ冷たくて。何事かと目を凝らしてようやく、それの正体に気づくことができた。

    「どうしてここにいるの!?」

     会いたかったその人、白朮が蛍を出迎える。ずっと呼ばれているような気がしたのも間違いではなく、その声は階段の上から聞こえていたというわけだ。
     月明かりに眼鏡のふちが煌めく。暗闇にも負けない、大好きな温かい笑みに、溜まった疲れが飛んでいく心地だ。
     しかし会えた喜びよりも、こんな遅くにどうしてと驚きが勝ってしまって、繋いだ手を握り返して大きな声を出してしまう。もう寝ていたっておかしくない時間なのに。

    「貴方の姿が見えたので」
    「見えたって……」

     見晴らしのいい高台にある不卜廬の裏からは、璃月港の入口がよく見えた。まさか蛍が来るのをずっとずっと見ていたというのだろうか。だから手もこんなに冷たくて。
     そう思うと、待たせたのは蛍だというのに、お説教が止められなくなってしまう。自分の体をいたわってほしい、蛍が白朮にそう願うのだって当たり前だろう。

    「いつから待ってたの」
    「会いに来てくださるとおっしゃっていたでしょう」
    「そうだけど、でもこんな遅い時間に……だめだよ、体冷えちゃう」
    「ええ。ですから中に入りませんか。貴方もお疲れでしょう」

     蛍を攫う冷たい手、改めて指を絡めるように繋ぎ直したそれに引かれ、促される。眉を下げて笑う白朮を見ているといつまでもぷりぷりする気にはなれなくて、大人しくついて歩くことにした。

    「ごめんね、遅くなって」
    「蛍さんがお忙しいのは存じ上げておりますよ」
    「……寂しかった?」

     高台でこんな時間までずっと見ていたとか、わざわざ階段下まで蛍を迎えに来たとか、あとは、今のその声色にほんの少しだけの棘を感じた気がして。不満を口にしてくれない人だからと不安になった蛍は、白朮を覗き込んだ。

    「寂しいと言ったら貴方はどうしますか」
    「どうって……うーん、寂しくないって思ってもらえるように頑張る、とか?」
    「ふむ……では言っておきましょうか。寂しかったです」

     そんなついでみたいに付け足して。自らの遅刻などすっかり忘れて白い目で見る蛍に、白朮は目を細めて「どうやって私の機嫌を取ってくれるのでしょう」なんて他人事のように呟くだけだった。
     階段を上り切って真っ暗な不卜廬がすぐそこに見えても、まだにこにこと読めない表情のまま。奥の部屋には薄く灯りが確認できたが、白朮はそこに辿り着く前に足を止めてしまった。自分で中に入ろうと言い出したくせに、絡めた手を握り締め、蛍の前に立ち塞がる。
     わからない甘え方をするものだとため息をつくと、白朮は開き切った縦長の瞳孔を月明かりに覗かせて、続きを急かすようにまばたきする。

    「とにかく、お誕生日おめでとうだね、間に合ってよかった」
    「ええ、ありがとうございます」
    「ケーキもあるよ。でも、走ってきちゃったから崩れてるかも」
    「はい」
    「一緒に食べようね」
    「そうですね」

     全部、違ったみたい。凪いだ優しい声の相槌ではあるけれど、まだ納得のいかない様子の白朮が動く気配はない。

    「ぎゅってしてもいい?」
    「もちろんです」

     手は繋いだまま、腕を広げる。白朮は素直に応じて蛍を抱き締めた。これは合っていたみたい。
     それにしても、やはり体は冷えている。丈夫なわけでもないのに一体いつから夜風にさらされていたのだろう。早く温まってもらうためにもどうにか機嫌を直してもらわなければ。大きな背中の向こうに箱を抱え直しながら、つむじの辺りを掠める擽ったい吐息に身を任せる。

    「せんせ、会いたかった」
    「先生」
    「はいはい、白朮ね。会いたかったよ白朮」
    「『はい』は一回ですよ。減点です」
    「ええっ」

     理不尽に驚いて顔を上げると、小さくウインクでもするかのように首を傾げたいたずらっぽい笑みが寄越された。
     今日の白朮はなかなか手強そうだ。ちょっとやそっとで騙されてくれるつもりはないのだろう。

    「……もう、ふざけてないで早く入るよ」
    「頑張ってくださるのではなかったのですか」
    「中で構ってあげるから。白朮が風邪引いちゃう」

     大丈夫だと根拠のない自信を見せながらも折れてくれた白朮の胸板を額で押しながら、扉まで抱き合ったまま移動する。抱えた箱が扉を叩くほど目の前まで来てもまだ、蛍を見つめたままだけれど。

    「ちゅーしたら許してくれる?」

     返事も待たずに背伸びすれば、白朮はようやく扉を開ける気になったらしい。
     まったく。でも今日くらいはわがままも許してあげる。だって白朮の誕生日なのだから。
     ああいや、もうあと数時間もしないうちに終わってしまうから、甘やかしも終わりかな。意地悪でそう言えば白朮はあっさりと諦めてしまいそうだし、この甘えたがりも手放すのは惜しいから、もう少しだけ茶番に付き合うとしよう。



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