《綾人蛍》拗ねないで、愛しい人 近頃忙しくしているという蛍が、わざわざ小さな相棒をどこかに置いてまでして今晩は屋敷に泊まりたいと言い出すのだから、綾人もそれなりの何かを期待していたというのに。気落ちする感覚に自分が想像以上に浮かれていたことを今さら自覚しながら、廊下まで響いている少女たちのはしゃぐ声を聞いた。
もうかれこれ数時間、蛍は綾華の部屋へと足を踏み入れたきり出てこなかった。一応は湯浴みを済ませたらしい気配こそあったものの、夕餉を終えてから一度も顔を合わせていない綾人からすれば面白くなかった。
確かに蛍がここに顔を出すのは珍しいことではないし、綾華と夜ふかしをするのもいつものことだ。ただの平凡な日常といえばそうなる。
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