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    かみすき

    @kamisuki0_0

    原神 トマ蛍 綾人蛍 ゼン蛍 白蛍

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    かみすき

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    トマ蛍
    トーマ生誕祭2024
    君に幸せあれ

    #トマ蛍
    thomalumi
    ##トマ蛍

    《トマ蛍》ねえトーマ、お誕生日おめでとう。愛してるよ ずいぶん長いこと会っていないように感じるのはきっと気のせいではないだろう、決して筆まめでないはずのトーマが五十枚綴りの便箋を使い切ってしまうくらいの時間が経ったのだから。
     その分受け取った手紙も少なくない。我慢した寂しさと同じだけの山になった手紙も、離れている間にも二人で共に積み重ねた思い出だとすれば良いものかもしれないと思えた。
     彼女が旅人であることは重々承知している。むしろトーマは、あちこちを飛び回るその姿を美しいと思ったのだ。目的に向かって立ち止まることはない、振り返ることもない。一処に留まるなんて似合わないとさえ思う。何もかもわかった上でその手を引っ張った。忙しなく紡がれていく彼女の日々にひとつ自分が刻まれるだけで嬉しかった。
     だから、いくら願っても必ず隣にいられるわけではないことも、互いの最期を見ることができないかもしれない可能性も。理解した、それでいい、あの日のトーマは自分にそう言い聞かせた。
     とはいえ寒さのせいだろうか、淡い期待を抱いてしまったのは。潜り込んだ布団が凍みる。
     もしかしたら会いに来てくれるのではないか。一番に祝いに来てくれるのではないか。トーマのために、恋人のために。少しだけ早く顔を出して、その笑顔を見せてくれるんじゃないかと。
     全く、まだ誕生日は始まってもいないのに何を考えているんだか。寒いと気持ちが落ち込んでよろしくない。一人きりの冷たい布団を被り直す。
     大丈夫。たっぷり時間をかけた手紙は、日付が変わる頃には彼女の元に届くように手配してもらった。もし明日を忘れていたとしても、読んでくれたなら便りのひとつくらいはくれるだろう。トーマを想ってしたためた文字、それがあれば十分だ。小さくて丸い可愛らしい字を前にすれば、どんなプレゼントだって途端にに霞んでしまうだろう。
     本当は、わがままになっていいのなら、一目会いたいけれど。でも、寂しいとは言ってやらないと決めている。


    ▶▶▶▶

     小競り合いでもしているのか、劈くような小鳥の鳴き声が聞こえる。ここ最近では珍しく深い眠りだったようで、賑やかな音にも中々目が開けられない。瞼の向こうの薄らとした明るさに照らされながら、少しでも身体を目覚めさせようと布団を蹴散らすつもりで寝返りを打った。依然として温かな掛け布団はトーマに纏わりついたままだったが、手足を大の字に広げて指先まで伸ばせば、そのうち血も巡って目覚める気にもなってくるだろう。
     しかし投げ出した右足は何かに阻まれる。突っ張った腕もそちらだけ極端に重たくて布団に縫い留められてしまったようだ。楽な半身を捩っても状況は変わらず、まだ張り付いていたがる瞼を無理に擦って仕方なしに片目を開けた。
     トーマの隣で不自然に盛り上がった掛け布団が、まるで生き物のようにゆっくりゆっくりと上下する。日向ぼっこをする犬。あるいはお気に入りの場所を陣取った猫。そんなようなのんびりとした動きをする塊が転がっていた。
     全く心当たりのない膨らみだけれど寝起きの頭には警戒なんて文字はなくて。何だかを理解しないままに勢いよく掛け布団を捲ってみた。

    「ほたるぅ!?」

     朝から立派な大声だったと我ながら思う。今さら口を塞いでみるけれど、腕の中の小さな塊はきゅっと眉間に皺を集めて、冷たい空気に身を縮こませた。
     か細い抗議の唸りと共に擦り寄ってきた生き物、もとい蛍は、トーマの腕枕の上でしばらく彷徨ったのち、都合のいい場所を見つけたのかまた穏やかな呼吸に落ちていった。
     金の髪が日に透ける。今にも蛍に食べられてしまいそうだった房を持ち上げると、ふにふにと、寝言でも始まりそうに唇が動いた。
     蛍が、トーマの隣にいる。寂しさのあまり幻覚を見ているかと不安になるが、腕を擽る華奢な髪の感触も、気持ちよさそうな寝息も、確かに本物らしい。
     緩く握られた襟元から力の抜けた手が滑り落ちて布団を打つ。
     動いた。蛍だ。蛍はトーマに、会いに来てくれたのだ。いつ来たかも皆目見当はつかないが、鳥の声が響くまで目覚めなかった深い眠りはこの腕の温度のおかげだったのかもしれない。
     嬉しくて、二度寝に耽る体を思い切り抱き締める。覆いかぶさる勢いのまま廊下まで転がってしまいそうだ。
    それからふわふわの頬をひとつふたつ撫でると、ようやくその長い睫毛が持ち上がった。

    「んぅ……ね、む……」

     蛍の声だ。やや掠れているけれど、鈴を転がすような可憐な声、沁み渡るような甘い声、芯の強さを覗かせる確かな響きはあいにく今はないけれど。トーマの大好きな、蛍の声。
     久しぶりだというのに、昨日までも当たり前に会っていたような。トーマの心を柔らかくしてくれる安心感は、いつも通りの挨拶をもたらした。

    「おはよう、蛍」
    「ん、トーマ……おはよ」

     落ちてくる瞼を頭を振って追いやった蛍は、ようやくそのまあるい瞳をトーマに向けた。べっこう飴のような甘い色がゆるりと微笑む。

    「おたんじょうび、おめでとう」


    ▶▶▶▶

    「トーマ、デートに行こう」
    「デート?」
    「そう。ほら早く!」

     先ほどまで眠気を引きずって動けずにだらけていたはずの蛍は、トーマが身支度を終えた途端に布団から飛び出し、抜け殻を押し入れに押し込んでそう言った。半分しか開いていなかった目も、今はぱっちりとトーマを見つめている。
     さすが旅人というべきか、旅装のまま眠っていた蛍はいつでも出かけられるらしい。後頭部には可愛らしい寝癖が揺れていたけれど。
     指摘すれば跳ねた毛束がトーマに差し出されるものの、いくら撫でつけても直ってはくれなくて。そのうち蛍の方が痺れを切らし、そのまま手を引かれて廊下を走った。

    「いやでも、今日の仕事が」
    「いいのいいの」

     朝食の用意は当然ながら、人が往来して埃が舞う前に掃除もしたいし、洗濯だって午前中に終わらせなければ日の短い冬には乾ききらない。
     といった心配は、蛍によって一蹴されてしまう。
     きっと足止め係だろう、トーマを働かせないための。綾人や綾華はもう今さらだと諦めているようだが、使用人たちの中には未だに、トーマが自身の誕生日にいつも通り忙しくすることを良しとしない者もいるのだ。
     都度それがトーマなりの幸せなのだと説明はするし、仕事の手も止めたりはしないけれど、その気遣いも嬉しくないわけではないから難しくて困っている。本当に幸せな悩みだと思う。
     蛍も理解したか例の兄妹のように諦めたかの側だと思っていたけれど、大方誰かに依頼されてトーマを仕事から遠ざけようとしているに違いなかった。すれ違う人たちも蛍に先導されるトーマを見ても何も咎めないし、むしろ快く送り出してくれる。使用人ぐるみのそういう計画なのだろう。
     門をくぐる寸前、「あとで一緒にお仕事片付けようね」と笑った蛍に、騙されてやることにした。
     蛍と会うのが久しぶりなら、当然共に出かけるのだって。せっかくだから、誕生日を楽しませてもらおう。

    「トーマはどこに行きたい?」
    「この時間からならどこにでも行けそうだね。ああ、離島に新しい店ができたんだけど、そこはどうだい?」

     頷いた蛍が、繋いだ手を強く握る。温かい。握り返せば痛いと怒られて、慌てて謝罪をして。それを見てぷっと吹き出した蛍の悪戯を睨みつけて、それから、引き寄せられるように軽いキスをひとつ。突然舞い込んできた「デート」にお互い浮かれないはずがなかった。
     裾を掴まれてもう一回。物足りないからあと一回。これで終わりにするから一回だけ、いや二回。トーマから蛍から、きりがないやり取りに顔を見合わせて今度は二人で吹き出した。デートはまだこれからだというのに。
     本当に最後にしようと決めたキスは、少しだけ長く。見下ろした蛍の甘えたな表情に誘われてつい伸ばした首はさすがに押し返されてしまったけれど。

    「もうおしまい! デート行こ」
    「あと一回だけ。……だめ?」

     腕の中に閉じ込めた蛍に訊いてみた。頼み込むついでに前髪をかき分けて唇を寄せる。ああ、これは一回には数えない。
     止まらないキスの間ずっと足元を跳ねていた鳥が羽ばたくと、蛍はそっと囁いた。

    「一回だけね」


    ▶▶▶▶

    「見て! お団子!」

     繋いだ手を思い切り引かれて、慌ててリボンを揺らす背中を追いかける。走らなくたって団子は逃げたりしないし、引っ張らなくたってトーマが離れることはないのに。
     久しぶりに稲妻を訪れたらしい蛍にとっては珍しいものに違いないだろうが、そんなにも団子が好きだっただろうか。

    「食べたかった? 言ってくれれば作ったのに」
    「ううん違うよ、デートするんだもん。それにトーマ、お団子好きでしょ?」
    「好きだけど」

     確かに手頃な甘味としてよく選ぶ気はするが、そう言われるほどだっただろうか。「気づいたらずっとお団子食べてるもんね」って、それはさすがに盛りすぎだろう。
     屋台に近づくと香ばしさが鼻をくすぐる。焦げ目のついた団子を醤油にくぐらせて、それをもう一度網の上へ。二人の視線に気づいた店主がわざわざ団扇であおるから、いっそう強くなった匂いがトーマのお腹をぐるぐると鳴らした。少し遅れて蛍からも同じ音がする。朝食もとらずに飛び出してきたことを思い出すと、余計にお腹が空いてしまうようだった。

    「蛍はお団子でいいのかい?」
    「私はトーマが好きなものが好きだから」
    「そう……うん、そうか」

     なんだろうな、本当に。トーマが好む物もちゃんと覚えていて、それでいてトーマが好きなものが好きって、何。どれだけ自分を好いてくれているのかと、今さら驚くことではないかもしれないが恋人から与えられる衝撃も久しぶりなもので。
     昨晩の女々しい、今にも枕を濡らしてしまいそうだったトーマに教えたら、それこそ泣いて喜ぶだろうか。君の恋人は、想像以上に君のことが好きみたいだと。

    「トーマは何食べる? みたらし?」
    「蛍が好きなものが食べたい」

     トーマだって、蛍が好きだ。対抗するように言葉を返せば、綺麗な瞳が零れ落ちそうなくらいに大きく見開かれた。してやったりの気分だ。薄く開いた唇をつまんで閉じてやる。ついでに可愛いあひるの嘴にキスを。そこから漏れた謎の鳴き声は、次には愉快な笑い声に変わった。

    「じゃあ、ここからここまで全部!」
    「全部!?」
    「付き合ってくれるんでしょ?」

     みたらし、あんこ、三色団子にミント入りの変わり種まで。朝ご飯を食べていなかったせいか、結局はふたりで十本たいらげてしまった。さらに、お熱い二人へのおまけだという大福まで貰って。持ち帰ってもどうせ二つしかないのだけれど、誰かに見つからないようにこっそり食べようと密かに約束したのだった。

    「トーマ、焼きそば食べたい」
    「見たもの全部食べたいって言うのはやめた方が……いや、いい匂いだな」

     甘いものの後には、しょっぱいものが三割増しで魅力的に見えてしまう。揺らいだトーマを見逃さなかった蛍はさっさと駆けていってしまう。当然、間で繋いだ手がトーマのことも連れて行くのだけれど。
     鉄板に広がるソースが焦げる音、匂い。やはり食欲を刺激する。くたくたになったキャベツと大量の肉、添えられた真っ赤な紅生姜の香りが立つ。
     そんな小さな体のどこに入れるつもりなのか、当たり前のように二人分注文した蛍を後ろから抱え込み、年季入りの変色した鉄板の上で踊る細麺を眺めた。

    「うちにも鉄板があったら作れるかな」
    「ふふ、焼きそば作るトーマ、似合うね。お店やったら?」
    「祭りの時期は出店依頼も増えるし、それもいいかもしれないな」
    「じゃあ私は隣でお団子屋さんやるね」
    「隣? 一緒に焼きそばを作ってくれるんじゃないのかい?」
    「鉄板は暑そうだから……」

     顎をのせていた頭が傾げられる。まったくわがままなことで。一緒がいいのはトーマだけかと拗ねたくなる。

    「でも焼きそば作るトーマは絶対にかっこいいから、それは見たいの」

     そうですか。ならまあ仕方ない。トーマだって男だ、恋人にかっこいいところを見せたいし、かっこいいと言われたい。なんだか上手く言い包められたような気がしないでもないが、今回はそういうことにしておこう。


    ▶▶▶▶

     帰路を踏みしめる足取りはいつになく重い。デートを終わりたくない、できる限り引き伸ばしたいのだと言えばなかなか可愛らしい理由かもしれないが、本当のところは、団子に焼きそばに、その他もろもろを大量に詰め込んだお腹のせいだった。
     食い倒れ旅デートは、日が傾き始めてようやく箸を止めることになった。同じものを分けながら食べて笑い合うというのは、どうも楽しくて。片っ端から物を食べたような気がする。あまりに重たいお腹に食べた品数を思い返して、トーマと蛍はそこでようやく食べ過ぎを自覚したのだった。

    「今ヒルチャールが出ても戦えないかも」
    「ああ、オレも怪しいな」
    「あれやってくれないの、『オレが守るよ』って」
    「蛍は守るよ、それはもちろんだけど」

     くるりと一回転して腰を落として決めてみせた蛍はそこそこ元気そうに見える。トーマと同じだけを食べたはずが、そのお腹を触ってようやく膨らみを感じ取れるくらいでしかないし。まったく、どこにあの大量の食べ物を隠してしまったのやら。
     噂をすれば何とやら、遠くに見えたヒルチャールの群れを避けたはいいが、さらに夕食の話まで始めるものだからトーマは卒倒しそうになった。あのパイモンと一緒にいるうちに、蛍の胃袋も底なしになってしまったのだろうか。もちろんおいしいと食べてくれるのは嬉しいことで、トーマとしては大歓迎なのだけれど、同じペースで飲食に付き合うのは一度考えるべきかもしれない。

    「あのね、トーマ」

     神里屋敷が遠くに見えてきた頃、ふと足を止めた蛍がトーマを見上げ、夕陽に目を細めた。ずいぶんと神妙な面持ちだった。

    「お誕生日おめでとう」
    「うん。ありがとう」
    「トーマの誕生日なのに、わがまま言ってごめんね」
    「……わがままなんてあった?」

     トーマの手にすっぽり収まる小さいそれがわずかに震えた。宥めるように強く握る。返ってきた力はトーマよりもずっとずっと弱い。

    「全部わがままだったよ。連れ回しちゃった」
    「オレは楽しかったよ。それじゃだめなの?」

     恋人のデートとしては普通だったように思う。よく食べ、よく喋り、よく笑い、触れ合って、同じ時を過ごして。会えなかった時間を埋めて、それでもまだ溢れるくらいに幸せだった。多忙な蛍の時間をこんなにひとり占めするなんて、本当に夢のよう。
     蛍は、これで帰ってしまうのだろうか。明日からは、いや今晩には、もう旅に戻るのかもしれない。
     寂しい。満たされると次が欲しくなってしまう。もっと一緒にいたいと思ってしまう。もう少しと言いたい。行かないでと叫びたい。
     けれど、それは言わないと決めたのは自分だから。笑って送り出すのがトーマの使命だ。
     見栄っ張り。あるいは愛情。

    「私も楽しかった。でもずっとトーマのことひとり占めして……みんな待ってるのに」
    「そんなに落ち込むことないさ。そもそも、ひとり占めが仕事だったんだろう?」
    「……仕事?」

     トーマを休ませるか、もしくはパーティの準備をするか、そのために屋敷から遠ざけておくための任務。蛍が一番の適役であることは確かだ。きっとトーマには秘密の計画だろうと知らないふりをしていたが、蛍があまりにも項垂れているものだから、つい。
     しかし蛍はそんなものは知らないと言う。誰かに頼まれたわけでもなく、そういう雰囲気を察したこともなく、ただただ純粋に、蛍のわがままでトーマを連れ出したと言うのだ。仕事を放棄したことを一緒に怒られるつもりで、一緒に片付けるつもりで。トーマと、一緒にいたくて。

    「本当はお昼くらいに帰るつもりだったんだけどね。トーマと会えたのが嬉しくて、あとちょっと、あとちょっと、って」
    「何か間違ってる? 恋人と一緒にいたいって、そんなの当たり前じゃないか」

     なんたって恋人とのデートなのだ。心から楽しかったし、嬉しかった。離れがたいと思うことの何がいけないのだろう。
     俯いた蛍が揺らす前髪に唇を寄せる。鼻先を擽った金糸の花のような甘い香りに、少しだけ混ざる食べ物の匂い。幸せを詰め込んだ香りだった。たまらなくなってその体を抱き締める。
     腕の中で、蛍がほんのりと笑った気配がした。

    「でも、夜はみんなに返してあげなきゃ。きっとトーマのこと待ってるから」
    「パーティには参加してくれるかい」
    「もちろん。だってトーマの誕生日パーティだよ」

     背中に回った腕にきつく引き寄せられる。このまま二人、くっついて離れなくなったなら。

    「次いつ会えるかはわからないけど、どれだけ忙しくても来年もちゃんと来るからね」
    「うん。待ってる」
    「会えなくても、嫌いにならないで……」
    「ならない。安心して、オレはずっと蛍のことが好きだよ」
    「うん、トーマ、だいすき」

     くぐもった声に混じって鼻を啜り上げる音がした。そう、何も寂しいのはトーマだけではない。

    「愛してるよ」
    「私も愛してる」
    「じゃあオレはもっともっと愛してる」
    「ん、ふふ、終わらないよ」

     けれどお互いに、寂しいとは口にしない。一度崩せば間違いなく歯止めが効かなくなることはわかっているから。

    「……明日の朝まで時間はある?」

     ただきっとこれだけは許されるはずだ。トーマの知らないところで泣かないで、どうかその涙を拭わせてほしい。そんなわがままを。

    「もう少しだけ蛍の時間をちょうだい」

     恋人と離れがたいのは当たり前だから。

    「オレはそれが欲しい。まだプレゼントを貰ってないだろ?」
    「いいの、そんなので」

     会いに来てくれたことがすでにプレゼントではあるけれど、今だけはそれは数えてやらない。
     日が落ちて冷えてきた体を思い切り抱き締める。さすがに痛いと怒られて、慌てて離して謝罪をして。それを見てぐちゃぐちゃの顔でぷっと吹き出した蛍を睨みつけて、それから、引き寄せられるように、長いキスをひとつ。
     今度は一度で終わりだ。早く戻ってパーティをして、蛍をひとり占めしなければいけないから。
     行こうかと手を繋ぎ直して、それを軽く引き寄せられて、ああ、あと一回だけならいいだろうか。
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