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    かみすき

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    かみすき

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    白蛍
    あんまりもだもだしているせいで、痺れを切らした長生に噛みつかれる(物理)お話。ちょっとだけ血が出る

    #白蛍
    whiteTime
    ##白蛍

    《白蛍》牙を剥く 「それで」

     湯気も立たなくなった茶を啜り、蛍の首を三周とちょっと、冷たい鱗の感触をなんとはなしに確かめる。
     初めて触れた頃は力加減もわからず、恐る恐るつついてはくすぐったいからやめろと怒られていたっけ。今では遠慮がなくなった蛍の指先に心地よさそうに目を細めた蛇――もとい長生は、まるで欠伸でもするかのように大きく口を開けた。
     鱗が軽くざらつく程度で見た目より滑らかに感じるのは、表面のごく薄い油膜のおかげかもしれない。とは、何度も撫でているうちに本人が、いや本蛇が教えてくれたことだ。

    「あんたはいつまでこんなことしてるつもりなんだい」
    「あ……うん。そう、だね」

     ぬうと持ち上げられた頭と対峙する。瞳は瞬きもなくじっとこちらを覗き込んで、それはやがて睨みに変わる。それに思わず動きを止めたのは、蛍が蛙であったからではない。
     そう良くない視力の代わり、蛍の肩が小さく跳ねた振動から動揺を察知した長生が、さりさりと鱗で撫でつけるように体をくねらせて笑い声を上げた。

    「そうビビらなくたって。取って食ったりしないさ」
    「それは知ってるよ」
    「で、どうするのさ。私に会いに来たなんて言い訳、いつまで使うんだか」
    「……白朮が気づくまで、かな」
    「もう気づいてたりして」

     やはり、そうなのだろうか。薄々限界のような気はしていたのだ。初めはあんなに歓迎してくれていたはずの白朮も、今では顔を合わせるとぎこちない笑みを浮かべる。
     医者としての立ち振舞いに最大限気を払っている白朮は誰に対しても態度を変えない。良いことがあっても、嫌なことを言われても、些細な感情を表に出すことなどないのに。
     それが蛍を迎えてみればどうだ。露骨に引き攣った笑みを貼り付け、ろくな挨拶も交わさないまま、桂や七七に案内を任せ、いや押し付ける。よほど不審がられているのだろうとは簡単にわかることだった。
     ならば次は七七に会いに来たとでも言えば通用するだろうか。そんな大真面目な相談は、音もなく出し入れされる赤い舌によってすぐに斬られてしまった。

    「あんたに会いに来た、くらい言ってやったらどうなのさ」
    「言えないよそんなの!」
    「どうして。事実じゃないか」
    「……言えたら苦労してないよ」

     ここに来るまでは今日こそ言ってやるんだと息巻いているくせに、いざ白朮と顔を合わせるとばくばくと心臓が高鳴って、喉もきゅっと締まってしまう。考えてきた言葉はひとつも出てこなくて、そんな恋する乙女のお手本のような自分に情けなさでいっぱいになった。

    「全く。焦れったいったらありゃしないよ二人とも」

     大きく口を開けた長生が喉を震わせる。乾いた空気の音は、この場合威嚇というより説教なのだろう。
     毎度毎度出しに使われ、うだうだと悩みを聞かされてばかり。長生のお怒りもごもっともだと、晒された鋭い牙に小さく謝罪した。

    「やめなさい長生」
    「おや、仕事は終わったのかい」
    「ええ、一段落つきました。ほら長生、蛍さんを怖がらせてはいけませんよ」
    「これのどこが怖がってるって言うんだい」

     新しい茶を運んできたらしい白朮とぶつかった視線はすぐにふいと逸らされる。
     仕事の合間に蛍の監視にでも来たのだろうか、そろそろ本当にまともな言い訳を考えないと。
     白朮と長生の軽快なやり取りを背に明日から使えそうな口実を考えていると、意識を引き寄せるように長生の鼻先が頬をつつく。擽ったさに身を捩れば、また鋭い声がそれを咎めた。

    「おお怖い。白朮の方がよっぽど怖いじゃないか」
    「長生が余計なことをするからでしょう」

     蛍の前に差し出される湯呑みがずいぶんな音を立てて机に置かれた。これは白朮もよほど怒っているらしい。蛍のここしばらくの不審な行動が原因か、長生の調子のいいからかいのせいなのかはわからないが。

    「はあ、男の嫉妬は見苦しいからやめたほうがいいよ」
    「……嫉妬?」
    「ああいえお気になさらず」

     いや。蛍に怒っているのだと、白朮の誤魔化すような早口に、ついに矛先を悟る。
     昼間に蛍が長生をひとり占めしているから。二人が共に過ごせる時間を奪っているわけで、それが連日ともなれば長生とべたべたしている蛍に嫉妬、なんて言葉が適切かはわからないが、不快に感じるのも当然である。
     そうならそうと言ってくれればと思わなくもないが、白朮の根っこにある穏やかな人柄が、優しさがそれはさせないのだろう。無論、無用のトラブルを避けたいのもあるだろうが。
     蛍とて、恋慕だとかそんな感情を抜きにしたって、白朮に迷惑をかけるのは本意ではない。ここは大人しく身を引くべきか。白朮が隣に座ったことに空気も読まず浮かれる心を叱りつけ、新しく出された茶を一口だけ啜って腰を上げる。
     この状況においても本当は誰に会いに来ているのかと打ち明ける勇気はやはりなかったし、今のタイミングで伝えたとして素直に受け取ってもらえるとも思えなかった。

    「お帰りになるのですか」
    「うん。ちょっと用事がね」
    「あんた今日は一日暇だって言ってなかったか?」

     長生。
     今ほど長生のおせっかいを煩わしいと思ったことはない。
     妙齢の女性のように色っぽく細められた瞳と睨み合う。こんなときばかり理解してくれないというか、全てわかった上で遊ばれているというか。せめて最後には自分から身を引ける人間にさせてはくれないだろうか。
     吸い込まれそうな瞳と暫し睨み合ううち、不意に視線が逸らされる。長生が負けたというより、どうやら蛍が勝たせてもらえたらしい。許されたならさっさとお暇しようと、長生を降ろすために手を伸ばしたところで。

    「っあ、痛い!?」

     かぷり。右肩に牙が埋められる。蛍が身悶える間もたっぷり十秒程噛み付いた長生が口を離せば、その後からぷっくりと二つの赤い点が浮いてきた。

    「長生何を!」
    「フン。何の用事かは知らないけど、まずは手当だよ」

     白朮に向かってシャーッと空気を震わせた長生は、長い躯体を器用に捻って逃げ降り、困惑する蛍をそのままにどこかへ行ってしまう。

    「すみません長生が、すぐに手当を」

     毒もないのだし、この程度の傷は常なら放っておくのだけれど。白朮にしてみればそうもいかないようで、結局立ち上がったばかりの椅子に逆戻りさせられ、大量の蒸留水で傷口を洗い流された。
     滲みてぴりぴり痛む肩に清潔なガーゼを被せた白朮は医者らしく冷静に見えたものの、その実、薬箱の錠も開けられない程には動揺しているらしい。
     かくいう蛍も、急激に近づいた距離に何とも思わないわけではなかったが。

    「本当に、すみません」
    「そんなに謝らないで。噛んだ長生がいけないんだから」
    「いえ、それも元を辿れば……きっと私のせいなのです」

     未だに止まらない血がガーゼに赤く滲む。
     どういうことかと尋ねるより前に、また新しいガーゼを取り出した白朮はため息を隠さずにゆっくりと口を開いた。

    「私が、根性なしなもので」
    「先生が?」
    「ええ。おかげでいつも長生に怒られているのです。……意中の人を引き止めるくらいできないのか、と」

     それとこれが、どう繋がるのだろうか。唐突に不思議な話を持ち込んできた白朮は、疑問符だらけの蛍にふっと表情を緩め、肩のガーゼを取り除く。
     ようやく出血が治まった肩に膏薬が伸ばされると、すうと清涼感が広がった。

    「あなたのことですよ」
    「わ、たし……?」
    「よくあなたが長生に会いに来てくださるというのに、私はそのチャンスも活かせずにいたというわけです」

     大げさに巻かれた包帯が蛍の肩を覆い隠していく。締め付けもきつすぎず、軽く動いた程度では解けない。さすがの腕前だと感心しつつ、肌を掠めていく白朮の指先に、触れたところから熱くなっていくような感覚を覚えた。そう感じてしまうのは、蛍が恋をしているから、だけではないだろう。自惚れでなければ、きっと。

    「お節介のつもりなのでしょうが……本当にすみませんでした。長生のことはきつく叱っておきますので、今の話は、どうか忘れていただけますか」

     処置を終えた白朮は弾かれたようにぱっと離れていく。
     どうして。自分だけすっきりして完結したつもりなの。なかったことにするの。
     蛍だってこれまで十分な意気地なしではあったけれど。だからといって今このチャンスをみすみす逃していいはずもないことはわかる。
     どくんと傷口が疼いた。蛇に睨まれたって噛まれたって怯まないんだから大丈夫。そう長生に後押しされている気分だった。

    「あのね……私、白朮に会いに来たの」
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