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    かみすき

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    かみすき

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    白蛍 +長生
    そろそろキスがしたい蛍ちゃん

    #白蛍
    whiteTime
    ##白蛍

    《白蛍》能ある蛇は自らを隠す「いつまで経ってもキスしてくれないんだよね」

     蛍と白朮が恋人と呼ばれる関係になってからどれくらいになるだろう。指折り数えて片手では足りないのに、それほどの時間を共にしてきたにも関わらず二人は一度もキスをしたことがなかった。
     それがただののんびりとした恋愛故だったなら悩むこともなかったけれど、何故か白朮が意図的にキスを避けていることが蛍はずっと気がかりだった。
     街で仲の良いカップルを見かけたときにはいいなと呟いて横目で催促してみたり、長く見つめ合ったときにはそっと寄りかかってみたり。白朮がそれにふと息を詰まらせた辺り蛍の必死のアピールが伝わらなかったはずもないのに、すべて曖昧に微笑まれてなかったことにされた。
     さらには痺れを切らして蛍から白朮に近づいてみたことがあったけれど、あのときは首に回した手をそっと解かれて遠回しに制止されてしまったのだった。あと十数センチ、気づかなかったふりで詰めてしまえばよかったのだろうが、蛍だって傷付かないわけではないから。何よりその希望を無理に押し通したことで嫌われたくはなかったのだ。たった一回のキスと引き換えにこの関係を失ってしまっては元も子もない。

    「というわけなんだけど……長生、聞いてる?」

     お腹の辺りに視線を落として語りかける。ただの服の皺に見える膨らみがひとりでに動き出すと、ややあってから胸の間から真っ白な蛇が顔を出した。緩いまばたきに赤目が覗く。くわりと大きな欠伸の後、長生は気だるそうに口を開いた。

    「聞いてると思うか? もう三回目だぞ、その話」

     噂の中心人物が仕事で忙しい間に繰り広げられる、お茶と甘いお菓子を添えた女子(といってもお互いに可愛らしい年齢ではないが)だけの恋愛相談。恋人がキスしてくれないなんて悩みは指摘された通り議題に上げて三回目。長生は早々に飽きてしまったらしく、蛍の服の中を這いずり回って暖を取ることにしたようだった。とはいっても人肌は少し暑いらしく、思い出したように顔を出し外気に触れては、ついでのように適当に相槌を打っていく。

    「だってさあ……したいよ、キス」
    「本人に直接言ってやったら」
    「言えないよそんなこと!」
    「またそんなこと言って。まったく、面倒くさいねあんた」
    「や、やっぱり面倒くさいかな? 嫌われてたりとかしないよね?」

     知らないふりをしていた最悪の可能性に焦りを滲ませると、長生は不安を煽るように黙りこくった。睨み合いの間をちろちろと先割れの舌が揺れる。
     好きでもない女とはキスできない。当たり前のことだ、それは蛍にもわかる。もし白朮がもう蛍に冷めてしまったのなら避けられたのも当然だろう。別れを切り出されないだけ嫌われてはいないかもしれないが、それも白朮の優しさからか蛍の扱いに困っているからか、ただ現状維持に落ち着いている可能性もなくはないのだ。
     一旦下を向いた気分はどんどんと良くない方向へ向かっていく。すぐに鼻の奥がつんと痛くなって、だんだんと長生がぼやけてきた。
     
    「まさか、おかしなこと考えてるんじゃないでしょうね?」
    「う、うう……」
    「はあ……またガブッといってやればいいのか?」

     細い舌が蛍の肌を舐める。くすぐったさに身を捩る蛍に牙を見せつけた長生が、威嚇のように喉を震わせて空気を鳴らした。
     いつしかその大きな口が蛍の肩にわざと食いついたことを思い出す。想いが通じ合う前、傷の手当の名目で蛍と白朮の接近を無事成功させた長生は、今回もまた同じことを企んでいるようだった。
     手っ取り早いといえばそうだろう。白朮が怪我人を放っておけるはずがないし、そうすれば物理的な距離も近づくことになる。
     ただ、そんな子供騙しのような作戦の、さらに二度目が通用するとも考えられなくて。現状キスを避けられているのに、さらに謀ったなんてばれてしまえばそれこそ本当に嫌われるのではないかとさえ思ってしまう。
     ほろりと涙を落としながら、未だにちろちろと胸の間を音もなく往復する舌にそう訴えた。
     動きを止めた長生にじっと睨まれる。大した視力もないのだから睨んでいるつもりもないとは本人、いや本蛇が言っていたが、その眼差しの迫力には思わず怯んでしまう。

    「……あー、あほくさ」

     そうとだけ呟いた長生は頭を引っ込めた。蛍をひとり放置して服の下をずるずると這う気配がする。
     話を聞いてくれと蠢く膨らみを掴もうとしても蛍の手から器用にすり抜けて、尻尾でぺちぺちと叩いて煽ってくる。そんな静かな追いかけっこは、扉を叩く音に唐突な終わりを迎えた。
     驚いた勢いで長生を追いかける手を思い切り握ってしまったけれど、かすかに聞こえた悲鳴より、開かれた戸の隙間から見えたその人の方がずっとずっと重要だった。

    「びゃくせんせ、」
    「蛍さん、少しだけ一緒に……おや」

     咄嗟に拭った涙はしっかり目撃されて、白朮は通り道の椅子を蹴飛ばさん勢いで駆けてきた。どこか痛いのかと訊かれても困ってしまう。強いて言えば心が痛い。私のことはもう好きじゃないの、どうなの、と。
     そんなことが言えるはずもなく、服ごと握り締めた長生に縋りながら首を振るしかできなかった。優しくされると、まだ好きでいてくれているのだと思ってしまう。勘違いでないことだけを祈りながらもう一度目尻を撫でた。

    「なんでもないの、大丈夫だから」
    「なんでもない顔をしてから言いなさい」

     ぴしゃりと言い放たれたそれは、恋人というよりお医者さまの口調だった。そうか、今の蛍は患者で、だからそんなに心配して、労ろうとしている。そういうことだ。
     泣いているところを見て最初に来るのが恋人に対する態度ではない、らしい。蛍はもうわからなくなってしまった。

    「……大丈夫だってば。でも今日は帰るね」

     椅子から立ち上がる。お腹に巻き付いた長生がきつくきつく締め付けていた。引き止めたいみたいだけれど、ごめんね。次の女子会は失恋話かもしれない。
     蛍だって立派な女の子なのだ。恋人とのあれそれに夢を見るし、言葉や態度がなければ落ち込むし。
     嫌われてはいない、では満足できない。全てを尽くして好きだと伝えてほしかった。

    「蛍さん」
    「お邪魔しました」
    「蛍さん、待って」

     泣きたくなんてないのに涙は止まってくれない。勝手に拗ねて勝手に泣いて、絶対に面倒くさいに決まっている。だから見ないでほしかったが、白朮の横を抜けたはずの体は、掴まれた腕を支点に反転させられてしまった。
     振りほどきたいけれど、白朮相手に乱暴もできない。そんな葛藤が滲んだお遊びみたいな抵抗では当然逃げられるはずもなくて、そのまま両肩を掴まれるともう動けなかった。
     肩に触れた大好きな温度、薬草と真新しい包帯と、それに混じるまるくて温かな白朮の匂い、体の芯まで沁みる声、穏やかな目、目の前で困っている人を放っておけないところ、人の心配をしてすっ飛んできて自分の足をぶつけるところ。
     その手を剥がす選択肢はなくなってしまう。
     だって好きだから。心地良いと感じてしまうし、離れたくないと思ってしまう。一緒にいたいしもっと近づきたい、ひとり占めしたい、長生の言う通り、あれしたいこれしたいと素直に打ち明けたい。
     でも、好きだからこそ困らせたくない。わがままを言えない。怖い。嫌われたくない。

    「……はなして」
    「嫌です」
    「なんで」

     抵抗を諦め、しかし悪あがきで俯いたままでいると、そっと顎が掬われる。頬を伝って落ちてきた涙を拭った白朮は、ようやく絡んだ視線に緩く微笑んだ。

    「まず。怪我はないのですね?」

     そっと頷いた蛍にさらに笑みを深めた白朮は、しかし次には眉を下げて問いかける。

    「では、なぜ」

     ようやく流れ落ちることこそなくなったが、未だまつ毛に絡んだままの涙はまばたきの度に目尻をくすぐる。細くて長い指がそれを拭っていくと、はっきりと白朮の表情が窺えるようになった。黙ったままの蛍を追い詰めることもなく、しかし促すように眦を下げている。何か言うまで離してもらえないのだろうとなんとなく理解できた。
     お腹に巻き付いた冷たさに助けを求めようにも、先ほどから眠ってしまったかのように動かない。いっそ今すぐ出てきて噛みついてくれとすっかり手のひらを返した願いは届かず、呼吸に合わせて鱗と肌が擦れるだけだった。

    「嫌なことでもありましたか?」
    「……ううん」
    「長生と喧嘩したとか」
    「違うよ」

     蛍と一緒にいたはずの長生の姿がないせいか、辺りを見回した白朮はそう問うた。まさか蛍の服の中にいるとは思わないだろう。噂の的を上から撫でると、ちょうど頭の位置だったのか手のひらを強く押し返された。
     いけ、と言われているようだった。長生はいつだって二人を見守っているのだと、言葉はなくともそう伝わってくる。片想いの相談だって先ほどの相談だって、悪態をつきながらもなんだかんだずっと付き合ってくれたのだ。

    「先生は、その……私のこと、好き?」
    「ええ、もちろん。好きですよ」

     嬉しかった。好きな人に好きと言われて、嬉しくないはずがない。
     けれどそれは本当に、ご機嫌取りではなく? 突然の質問にも間髪入れないストレートな返事でさえそんな酷い考えが浮かんできて、ああもう、こんなに面倒な女になんてなりたくないのに。また泣きたくなる。

    「伝わっていませんでしたか」

     もちろん白朮なりの愛情ならたくさん知っている。ただそこに特別を求めてしまっただけで。他の人と同じは嫌、もっともっと、恋人だけに向ける顔が見たかった。
     あやすように優しく握られた手。それでも満足できないというのだから、蛍はとんだわがままに違いなかった。

    「やだ」
    「……やだ?」
    「こんなのじゃわかんない」

     困ったような笑顔の白朮に申し訳ない気持ちもありながら、一度緩んでしまった涙腺は簡単には戻らない。ほろほろと落ちていく涙を止められないまま、ぼやけた視界に佇む白朮に勢い任せに打ち明けた。

    「だって、もっと、もっといっぱいくっつきたいのに、」

     拳を押し付けた胸板は、ひょろりと薄いようでいてしっかり蛍を受け止める。二、三度押し込んでもびくともしなかった。

    「好きならなんで逃げるの……わたし、ずっと」

     その手すら取られて、二人の間で隙間なく絡む。やはり白朮を相手にろくな抵抗はできない。好きだから。大切だから。

    「ハグとかキスとか、したくて……さみしい、よ」

     言ってしまった。涙で白朮の表情がはっきり見えなくてよかったかもしれない。後悔に溺れそうになる蛍を褒めるように、お腹に巻き付いた長生がきゅっと抱きしめてくれる。それに負けないくらいにきつく握られた手。
     詰めていた息をようやく取り戻したらしい白朮がおもむろに口を開く。小さな隙間から溢れるように絞り出されたのは。

    「私もしたいです」

     それだけだった。
     それだけなのに、きっとたぶん、どんな返事よりも蛍には刺さるのだろう。謝罪ではない、言い訳でもない。言わせたようなものとわかりつつも、結局嬉しくてたまらなくて。

    「ずっとあなたに、触れたかった」

     ひとつ高鳴った心臓は、それからどんどん速くなっていく。だって、白朮もそう思っているのだと知って浮かれないはずがなくて。その鼓動を聞きつけたであろう長生がまた服の中を這い回る。一緒に喜んでくれているのかもしれなかった。
     けれど、だからこそ。じゃあどうして今まで、なんて疑問も同時に現れる。伸ばした蛍の手を取らなかったのは白朮の方なのだ。この際だからと聞いてみる。

    「いつもは……長生がいるでしょう。どうも気恥ずかしくて」

     二人しかいない部屋を見渡した白朮はそう答えた。
     確かに、長生はいつも白朮か蛍の首を囲っていたり、腕に巻き付いたり。どこへ行くにも何をするにも一緒だった。それが当たり前だった。白朮とは切っても切り離せない存在なのだからそういうものだと認識していたし、疑うこともなかった。
     しかし見られている、といえばそうだ。たまにからかってくることだってあった。蛍は何も気にしたことがなかったけれど。
     そんな思考の海に沈みかけた蛍を、繋いでいた手が引き戻す。はっと涙を拭って改めて向き合えば、気づけば白朮は距離を詰めていた。

    「蛍さん」

     柔らかく細められた瞳。その穏やかな動きの一方で、奥に覗く縦長の瞳孔が熱を孕んで大きく開いた。
     ずっと、白朮も触れ合いたいと思っていた。そう、なんだ。蛍が、キスが嫌だから避けたのではない。二人きりでは、なかったから。
     かがんだ白朮のかんばせが近づいてくる。存在を忘れてくれるなとお腹の辺りを這いずり回る気配は黙っておくことにしよう。なにせ、夢が叶う瞬間なのだから。

    「せんせ、」
    「好きです、蛍さん」

     ゆったり解かれた手を寂しく思う前に、それは蛍の背中を抱き寄せる。触れたところが心臓になってしまったかのようにどくどくと脈打つ。体の具合を確かめるそれではない、人通りにはぐれないように密着するそれではない。今からキスをするんだと急激に湧いてきた実感に目が回りそうだった。迫る胸板を支えにして、そっと踵を上げ目を閉じる。
     ん、と小さく吐息を漏らしながら掠めた唇。あたたかくて、それからなんだか甘い気がして、なにより幸せで、それらが一気に押し寄せる。到底一回で足りるはずもなくぶつかった鼻を擦り合わせながら首を伸ばす。煩わしい眼鏡の縁の妨害すら跳ね除けるくらいに夢中で唇を合わせた。落ちてきた白朮の髪が頬をくすぐる。真っ暗な視界でそれを払って、そのまま頬に手を這わせては引き寄せた。
     唇を舐めたそれを受け入れるように開けば、呼吸が混ざって二人の境界はだんだんと曖昧になっていく。幸せに満たされた頭がぽやぽやと溶けてしまいそうだ。
     蛍を支えていた手が背中をゆったりとなぞる。つま先はすっかりぐらぐらと不安定で、白朮に凭れかかってなんとか立っているだけだった。今にも崩れそうな蛍をさらに抱き寄せた白朮の手は、露出した背骨を追いかけるように服の中に潜り込む。

    「さすがにまぐわうなら他所でやってくれ」

     そんな甘い雰囲気を切り裂くように蛍のお腹からくぐもった声が聞こえてきた。
     弾かれたようにお互いの体を突き放せば、蛍の胸元からは長生がぽんと顔を出す。暑い暑いと首を振って赤い舌をちらつかせていた。

    「長生!」
    「なに。別に私がいないなんて誰も言ってないだろう」

     白朮のこんな大声は聞いたことがない。真っ赤な頬で叫んだかと思えばそのまま項垂れてしまった。
     キスに夢中ですっかり忘れていたが、そもそも長生の存在を隠していたのは蛍だ。今さらながら小さく謝罪をするが、白朮は力なく首を振るだけで頭は抱えたままだ。

    「いえ、蛍さんは悪くないですから。不安にさせた私がいけないんですが……しかし長生、あなたは」
    「ふん。自分の女を泣かせたやつが一丁前に説教かい」
    「……とにかくそこから出てください」

     蛍の胸の間に居座る姿を睨みつけた白朮は大きなため息をついた。長生も負けじと睨み返す。いたたまれない蛍を残してしばし続いた睨み合いは、先に長生が目をそらすこととなる。

    「やだね」

     しかし長生は煽るようにそう言い捨て、再び蛍の肌をちろちろと舐め始めた。くすぐったい。身を捩っても逃げられるはずがないけれどそうでもしないと耐えられなくて。それを黙って見ていたはずの白朮も、ついに蛍が控えめな悲鳴を漏らしたせいで、また記録を更新しそうな大声を披露することとなった。
     追い出される直前、長生は蛍の肩に軽く噛みついた。牙を立てず大した痛みもない戯れはおまじないのように薄っすらと跡だけを残す。
     それを拭い去るようになぞった白朮は、次にそのまま蛍の肩を引き寄せ、今度こそ本当に二人きりになった空間で何度目かのキスを寄越したのだった。
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