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    華林*

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    華林*

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    JUNE BRIDE FES 2024の開催に伴い昨年の男性妊娠本を再販しましたのでそちらの記念です

    最後に書き下ろした載せるか迷いに迷った作品です。
    弓茨が家族になる話をテーマにして作った本なので、それをきちんと表現したい!と思って収録しました。

    ユリカちゃんはもちろんそのあと長男くん(セイくん)が生まれて一年ほど経ったころのお話です。

    2度あることは3度ある。「ええ、ではこのような方針で。くれぐれも、問題行動は起こさないように」

    問題児たちを前にして、つい苦言が漏れる。
    メンバー全員が成人し、ある程度落ち着いたとはいえ未だCrazy:Bは時々問題行動を起こすので。
    この間は管理の甘い椎名氏がスキャンダルを出されて火消しに奔走させられたし、HiMERU氏はHiMERU氏で撮影中にニューディの瀬名氏と今までにないほどの大口論……
    やれやれ、彼らをなんだかんだ重用しているのは自分だが、リスクが高すぎる。

    はあ、とため息をついて書類に目を落としたとき、ふと視界がちかちかしていることに気がついた。
    今日の体調は万全!ってほどでもなかったが、いつも通り、昨日と同じような体調だった。それなのに?

    急速に真っ暗になっていく視界。あ、やばい。倒れるかも。そう思ったときには、俺の視界いっぱいに天井が広がっていた。

    「副所長!?」
    「だっ、誰かー!!!!」

    そんな、大ごとに、するんじゃ、ない。
    その言葉が届くわけもなく、俺は閉じる瞼を抑えきれず、ふっと意識を手放してしまった。




    「君たちって、本当に仲がいいんだね?」

    面食らった表情のまま、殿下がそう言った。
    事務所で、しかもCrazy:Bの目の前でぶっ倒れた俺は、救護室に運び込まれてそのまま弓弦に病院に連行された。
    いつものようにスタプロにいた弓弦は『今日でよかったですよ』なんてため息を吐いて、午後はサミットの予定があったので中止の連絡を回していた。
    もちろん差出人は弓弦、なのだけど。スタプロからコズプロの副所長が倒れたと連絡が回ったわけで、各事務所はおそらく何事かと騒然としたことだろう。

    こうなってしまったら、隠せるわけもない。各事務所には貧血だと回したけども、実際には病院で「おめでたですね」と言われたわけなので。
    今後レッスンに支障が出ることはどのみち不可避。一度倒れている以上、余計な心配をかけて理由はもうわかっているのにまた病院に担ぎ込まれかねない。

    「……くっ」
    「茨が言い返せなくなってる」

    ジュンに呆れたように言われるがなにも言えない。
    星の産休を開け、まだ一年も経っていない。
    しかも、今回はしっかりを避妊をしていたはずで、心当たりがない。
    弓弦はあの性格なのでコンドームを正しく付けていたし、忘れたことなんてなかった。まあ、ひとつのコンドームに数回吐精したことが何度かあって……十中八九、それが当たってしまったんだろうけど。

    「なに、もう一人欲しかったの?」
    「いえ予定には全く……なく」

    言葉尻がついつい萎んでしまう。
    殿下は怒るでも悲しむでもなく、呆れている様子だ。自分の様子や弓弦の慌て具合を見ていればこれが想定外な出来事だと聡明な殿下はすぐに気が付くだろうから。
    そもそも自分すらも自分に呆れ散らかしているのだ。当然である。

    「……でもまあ。おめでたいことなんでしょ?……おめでとう、茨」

    閣下にそう言葉をかけられ、は?と思考が止まる。

    「そうだね。まあ、とりあえずはおめでとうと言っておくね」

    と、殿下まで。
    ちょっと、ちょっと待った。

    「……あの、産むつもりはないんですが」
    「はぁ!?」

    妊娠報告、イコール産むなんて時代錯誤にも程があるだろう。
    堕児をするにも手術の都合があるから伝えただけなのに。

    「伏見くんはなんて言っているの?」
    「産むのは自分だから勝手にしろと。……までは言われてませんけど、まあそのようなことを」

    そもそも男性妊娠自体がハイリスク、と言われている上に帝王切開は繰り返すたびに子宮破裂のリスクも上がる。
    男性妊娠がそもそも中絶の正統な理由として認められているのに、今まで男性が三人以上子どもを産んだ事例がなく、何もかもが未知だ。

    「なぁんだ、ちょっと楽しみだったのに。まあ、茨の人生だものね。僕が口を出す権利なんてないね」

    殿下はそう言ってちょっとだけ寂しそうに笑う。

    実は、これといって堕ろすことに決定的な理由があるわけではなかった。
    リスクの面で弓弦は強く言えなかっただけで、あれもあれで楽しみにしていたような節があるし。
    経済的な理由も特になければ、ESの保育室はもちろん弓弦は家事に積極的すぎるくらいなので育児が大変、とかいう理由もない。

    ただ、施設育ちの俺は未だに母親というものがよくわからないし、不幸な子を増やすだけかもしれない。
    そして何よりも、『これで終わり』だと思っていた妊娠生活が、また始まるのが怖かった。
    それだけでも憂鬱なのに、更に死ぬかも、なんて、そんなの。

    だから、呆れたように殿下が「仲が良かったんだね?」と言ったときに、ああやっぱり嫌がられるよなとドキッとしたのだ。


    だけど、楽しみだった。なんて。






    「茨、体調はどうです?」

    帰宅した弓弦が、パソコンに向かっていた自分に向かって問いかける。

    「いえ、特には」
    「そうですか」

    一昨日ぶっ倒れたばかりなので、弓弦なりに心配してくれているようだ。
    もうじき姫宮の当主の誕生日とかで、最近は帰りが遅かったのに今日はいつもより早い。

    「夕飯は?」
    「済ませてきましたよ。ユリカは?」
    「部屋じゃないですかね」

    思春期真っ只中の娘は最近部屋にこもって友達と電話したりメッセージのやりとりをしていることが多い。
    俺は育ちが特殊すぎて反抗期らしい反抗期を送ったことがないが、弓弦はなんとなく気持ちがわかるらしくよく気にしている。
    ちゃんとした女親ならこういうのもわかるんだろうけど、俺も弓弦も男だし対応には迷うところだ。
    最近は姫宮の屋敷に遊びに行く回数も減ったのだけど、姫宮氏やその妹に呼ばれるとぐちぐちいいながら車出しを頼んでくるので嬉しいらしい。

    「……病院には行きましたか?」
    「まだ。明日、行こうと思ってますけど」
    「何時?」
    「朝」
    「なら、わたくしも行きます」

    仕事は?と聞けば、明日のラジオ収録は夜に変更になったらしい。

    「ねぇ、弓弦」
    「はい」
    「堕ろすのってさぁ、やっぱり悪いことなのかな」

    ぴたり、と弓弦の動きが止まる。

    「リスクがある以上悪い、とはわたくしは思いませんけど。何か言われたんですか?一体誰に」
    「誰……って、殿下、いやジュン、あ、別にダメとは言われてないですけど」

    今日の経緯をかいつまんで説明すると、弓弦が苦笑した。

    「茨がそうしたいならしょうがないねって言われて。俺は、Edenや事務所に迷惑かけるって思ってたのに誰も気にしてなさそうだったから」

    ESアイドルで交際している同性カップルは自分たちだけではないが、片方が子宮を持っているのはたぶん自分だけだろう。
    男性妊娠は日本でも数例しかなく、何かがあったときに困る産院側は堕児をしたいと申し出たときあからさまにほっとしていた、と思う。

    自分は死にたくない。だけど、それは今胎の中にいるこの子も一緒かもしれない。

    「……わたくしは」

    しばらく悩んでいた弓弦が口を開く。
    目線は俺の座るテーブルの上で、合わない。

    「夫として口を挟めるのなら、産んでほしい」
    「……うん」
    「ですが、茨を失うのは……その方が、嫌なので。あなたが仕事を生きがいとしているのも、知っているつもりですし」

    そう言って弓弦は小さく笑う。

    「なんて、答えが出せないのは逃げなんでしょうかね」

    あーあ、正解なんてないんだろう。
    もし、妊娠したのが今じゃなかったら、もしかしたら俺は迷いつつも産む選択をしたのかもしれない。だけど、これからアイドルも副所長としても頑張ろうと意気込んでいた『今』だからこの選択をしようとしてる。

    もし今堕したら俺はもうきっと一生子どもを産むことはない。産める、わけない。

    「俺は、さぁ。後悔したくない。……後悔、するかなぁ、いつか」
    「……さぁ」

    未来のわたくしたちに聞ければよいのですけどね。と弓弦が言う。
    ああそっか、未来か。
    未来をふと想像して、ため息をつく。五人で『家族』をしている自分が、想像できなかった。


    結局、中絶同意書には二人ともサインできなかった。
    タイムリミットまではあと二ヶ月あるけど、母体のためにも一ヶ月以内には決めるべきだと医者に言われた。
    ユリカのときもセイのときも極限状態になるくらい辛かったつわりは嘘のように軽く、たまに貧血気味になるくらいで妊娠していることを忘れそうになる。
    今日も普通にストレッチをしていて、顔を引きつらせたジュンにおそるおそる止められたくらいだ。

    「あ、う、」

    リビングから声がして食事の準備の手を止める。
    セイがリビングテーブルにつかまり立ちをして奥のリモコンに手を伸ばしているところだった。

    ふらり、とセイの右足が宙に浮かぶ。
    あ、体制崩した。と思った瞬間、真後ろにひっくり返った。

    包丁をまな板の上に放り出し、駆け足で走り寄る。
    案の定大声をあげて泣く息子に苦笑して抱き上げた。頭の重い一歳児の身体は、いとも簡単にひっくり返る。

    「……これが、二人か」

    ただでさえ散らかっている部屋が、どうなるんだか想像したくもない。

    「茨? 何があったんです?」

    風呂掃除をしていた弓弦が、足の裾をまくりあげたままリビングに顔を出す。

    「ひっくり返っただけです」

    息子はいまだに自分の胸に顔をなすりつけて大泣きしている。
    すでにワイシャツはしみだらけだ。もう慣れたものだけど。

    弓弦は、ああと納得した様子で頷いた。

    「……一緒に住んでるのが弓弦でよかった」
    「何をいきなり」
    「これが殿下とか閣下で想像してみてくださいよ、今頃部屋が破壊されてます」
    「破壊って」

    弓弦はプッと吹き出して笑う。
    自分はあんまり家のことをやるのは好きじゃないけど、弓弦は好きだからなぁ。本当に執事が天職なやつ。今日は休みだからと、夕食のフルコースは弓弦が作った。

    「セイ、わたくしと一緒に風呂掃除の続きをしましょう。あとは流すだけです」

    弓弦は無理矢理自分からセイを引き剥がすと、泣いているのを宥めながら廊下を歩いて行った。
    床に落ちているタオルを拾い上げてため息をつく。結論は、まだだせない。






    手術の日取りは決まったの。そう殿下が声をかけてきたのは、とある昼下がりだった。
    自分の副所長室は、半ばアイドルたちの溜まり場になりつつあって、特にEdenの三人は仕事までのつなぎだとか暇つぶしにほぼ毎日やってくる。

    「答えが出せないのなら、産んじゃえばいいじゃない」
    「簡単に言いますね……」

    殿下は楽観的だから、まあ言われるだろうと思ってはいたけど。

    「茨は元々アイドルの仕事より裏方ばかりだし、今更だね?」
    「……ああ、確かにアイドル辞めるのはアリですね」
    「それはダメだね!ぼくがEdenで居続ける間は茨にもアイドルでいてもらわないと困るね!」

    ああいえばこういう。
    殿下に真面目な答えを求めるだけ間違っているから、求めていたわけではないけど。

    「でも、なににそんなに悩んでいるのか僕にはよくわからないね。だって、あの茨がそんなことで死ぬわけないからね」
    「……貶してます?」
    「褒めてるね!僕は茨以上にしぶとい人間は英智くんしか知らないからね!」

    いつものように殿下はドヤりと胸を張った。

    「茨も執事くんも、物事はわりと頭で考えるほうだけど。もうちょっと楽観的に直感的にいてもいいと思うね。人生なんて一度しかないんだから」
    「……はい」
    「迷ってるってことは、もう決まってるんでしょ?」

    じゃあぼくは仕事だから!と殿下が出ていった。
    そんな簡単に決めていいことではないと思う、けど。決めかねているのも確かだった。



    次の日の夜、ユリカもセイもとっくに眠った夜、ショートスリーパーな俺と弓弦はダイニングの机に膝を突き合わせて座っていた。
    用意したお互いのパソコン。世界中の男性妊娠の症例をなんとか集めた。俺が勝手に集めているつもりだったが、どうやら弓弦も同じことを考えていたらしい。
    インド、中国、アメリカ、イギリス、アフリカまで。男性妊娠と一言で言っても、一種の奇形であるため方法は人それぞれで参考にはならなそうだった。

    「このままでは埒が空きませんね……」

    外国語でかかれたそれの解読を終えた弓弦が項垂れる。

    「これだけ調べてこの数って、俺、どんだけ珍しい体してるんですかね」
    「しかも、健康な子供を産んだ例は半分くらいしかないですよ」

    調べれば調べるだけ自信がなくなっていく。
    自分がどうしたいのか、その意思さえもさらによくわからなくなっている気がした。
    はあ、とため息を吐く。本当にいるかもわからないくらい、つわりも体調不良も特にない。

    「茨、どうしますか」

    明日は通院日だ。担当医とは、明日までに決めて伝えることになっていた。

    「やはり、」
    「……産みます」

    たぶん、『堕しましょうか』と言おうとした弓弦を遮る。
    案の定、弓弦は目を丸くして顔を上げた。

    「どうにかなりますよ。今までどうにかなってきたんだ。ついでに子宮もとってもらおう、もう二度とこんなことで迷うことがないようにさ」

    一度迷ってしまったのだ。これで諦めでもしたら、一生心の中で燻り続けるに決まっているのだから。

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    Replies from the creator

    華林*

    MEMO世界観の設定のみで小説と呼べる代物ではない。
    「設定がよくわからん」「私もこういう設定で書いてみたいけど参考にするには情報がない」「どうでもいいけどもうちょっと詳しく知りたい」人向け

    「男性妊娠」が一般的に存在が認知されている世界だけど、実は茨は厳密にはそこに属さないとかいうふざけた設定。(三人産ませるにはこの方法しか考え付かなかった)
    染色体については調べれば実際の論文など色々でます。
    男性妊娠ネタの設定(法律含む)男性妊娠の設定


    男性の子宮が一種の奇形として1000万人に1人の割合で存在する世界。
    ただし、奇形にあたるため卵子のない人、卵管がない人、子宮そのものはないが卵子だけはある人、など妊娠に関わる部位はあるが妊娠は不可能である人が多数派。遺伝はしない。
    完全な子宮が備わっているのは8億人に一人と言われ、膣・産道のあるいわゆるふたなりは世界にも数人しかいない。

    完全に子宮が備わっていたとしても、そもそも骨格や身体の作り、ホルモンの関係などあり自然妊娠は極めて稀。適正体重で生まれる子どもの前例はほとんどなく、60%以上が流産か死産となる。

    男性の身体で妊娠すると、女性にくらべ2〜3倍の負担がかかるとされており、妊娠による栄養失調で死亡したケースもある。
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