きちんとした隆俊を見るのが好きだった。
使った食器を片付けるところ、ちょっとした埃とか出しっぱなしの小物が目につくとさりげなく片付けてしまうところ、床に落とした服をいつの間にかまとめて綺麗に洗濯してしまっているところ。
ちょっと僕、甘やかされ過ぎじゃないか?
でも部屋が散らかるようになったのは彼のせいだから良いことにする。
怠惰な僕と違って、朝の身支度をする隆俊も好きだった。早くに起きて顔を洗って、皺のないシャツに袖を通して、ネクタイを締めて大人の顔をして、最後にまだ寝ぼけている僕の頭を撫でてくれる。僕の恋人は格好いい人だ。
「それは全部僕のためだったんだね」
「失望させたか」
「いや、反省した。僕は単に君が綺麗好きなだけだと思っていたから、手伝おうって言わなかった。今から言っていい?」
「いつでもいいさ。それにーーそんなこと、後でいい。今はツカサを感じたい」
「もうずっとだね。……いいよ」
ベッドサイドの床にはここ何日かの服とシーツが積み重なってる。ソファの背には上着が落ちそうになったまま放られていて、テーブルには中身の残ったマグカップ。シンクにも使った後の食器がいくつか。浴室は……毎日使ってるからかろうじて清潔に維持されている。
人類の終末は決定的で、このコロニーも行き止まり。もちろん各種ルームサービスは営業終了したから自分たちのことは自分たちでやるしかない。
隆俊はそれが出来る人だと思っていた。模範的な大人、なのに僕に首っ丈の年上の大きな恋人。この部屋に帰ってきている間の彼はもう僕以外、本当に何もかも目に入らないらしい。
それなりの快適性を誇る客員用居室はいまや雑然とした有様だ。
「だけどいつまでもってわけにはいかないか。着るものが無くなったら、僕はいいけど君は困るだろう?」
隆俊は最後の日まで警備員として、残された人々の安全を守るつもりだ。そのために元々は何人かで分担するような量の巡回や業務外の設備点検をこなしている。
つまり、外に出れなくちゃ困る。僕と死ぬまで放蕩に耽っているわけにはいかないのだ。
名残惜しそうな顔をする鼻を摘んで笑いかける。
「教えてよ。そしたら君がいない間にやっておくしさ」
恥ずかしながら僕は宇宙に来てから自分で洗濯をしたことがない。地球と勝手が違うから全部外注で済ませていた。だけど隆俊と快適に過ごすためなら、彼が今までそうしてくれていたように「きちんと」してみせよう。
幸いにも僕の仕事の山は越えて後は精々アフターサポートに徹する程度だから、彼を待っている時間の方が長い。
「ツカサは頼りになるな」
「天才だからね。今は知らないだけで、やってみれば何でもそれなりに出来る自信はあるよ」
「ああ、違いない。そのうち俺の仕事も手伝ってもらうか」
「えぇ……肉体労働には向いてない、よ。疲れて先に寝ることになると思うし?」
君が仕事に行った後は半日寝てるの、知ってるだろう。
隆俊は苦笑して、僕を堕落の腕の中に囲い込んでしまった。
きっと明日、仕事に行く時だけ、きちんとした隆俊になる。
残された時間を一緒に生きていこう。