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    きろう

    @k_kirou13

    ⑬きへ~二次創作
    だいたい暗い。たまに明るい。
    絵文字嬉しいです。ありがとうございます。
    まとめ倉庫 http://nanos.jp/kirou311/novel/23/

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    きろう

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    新天地AI隆ツ。3飛ばして4。

     深夜、本来なら僕たちは二人でゆっくりと過ごすはずの時間だが今日はそういうわけにもいかなかった。
     外は嵐だ。
     当然ながらどんな騒乱もただ真っ黒いばかりの仮想空間には物理現象として届かない。視覚情報として投射している定点カメラと各種モニタの数値が僕たちに状況を伝え、「仕事」に向かわせる。隆俊は拠点外も含めた設備維持と危機管理を受け持ち、僕は彼のサポートとして情報収集を行う。ヒトがやれないこともないが、寝ずの番は疲れ知らずのAIに任せるに限る。合理的判断だ。
    「風雨が強くなってきた。飛べなくなる前に観測ドローンを帰投させる。朝までの予測は出せそうか」
    「問題ないよ」
     それで僕と隆俊は背中合わせで――会わない理由は無いから身体と感覚を持つことに意味はなくてもここへ来て、仮想コンソールとモニタを展開していた。隆俊と共同で仕事をするのは初めてだ。平時よりも多く表示されたそれらは青い光を伴って僕たちの周りに球形の殻を描いている。
     子供たちによって建て増しされた拠点施設や周辺設備の現況。水や電気・空調といった生活インフラの稼働状況と計測値。第二の地球としてテラフォーミングされてから蓄積され続けてきた気象観測データ。
    「統計によると十七年ぶりの荒天だ。子供たちにとっては初めてだね」
    「皆も心配で起きているようだな」
    「こんなのはこの施設にとって何度もあったことだけど」
     育成ポッドの中では知覚する由もない。それに「中枢」として長い耐用年数を想定して最も堅牢に造られたエリアと、目覚めまでの時間を利用して自動建造された単なる居住区では耐久性が異なるのも事実だ。少し前から拠点内の環境測定器が暴風による不規則な騒音を報告している。隆俊はそれを受けて窓から離れて過ごすよう、警告情報を出していた。
    「気になるなら中枢に避難させる?」
    「いや、いたずらに不安を煽るのは――」
     アラート音と共に電力モニタの数値が跳ね上がってすぐに下落する。異常を検知した一部の常駐システムが省電力稼働に切り替わる。
    「ツカサ! 状況を」
    「……外の電気設備が一基駄目になってる。雷は観測していない。飛来物でもあったかな」
     なにせ拠点の周囲は未整備の自然環境だ。
     今のところ残りで施設維持に必要な電力は賄えているが、あまり余裕はない。物理的支障や予期しない負荷が掛かれば共倒れも考えられる。
     非日常な共同作業を少し楽しんでいたけど、そろそろ真面目にやらないといけないな。彼らの無事あっての僕らだ。身体を構築している時は非活性にしている情報リンクを復帰させる。これで目で見て確認し、隆俊に口頭で伝えるというタイムラグ(人間ごっこ)がなくなる。
     仮想コンソールを形だけ叩いて、隆俊と手分けして送電ルートの最適化と過剰なモニタリングの切り離しを進めていく。「僕たち」にとっては二度目らしく、実にスムーズな作業となった。だが、これらの影響など微々たるものだ。現在、稼働の必要性が無くリソースを浪費しているのは考えるまでもなく、この疑似感覚空間の維持と模擬人格二人分の演算処理。
    「隆俊。こっちでやれることは終わった。せっかくの逢瀬の時間だけど仕方ない。僕の機能を停止させる」
     後は任せたよ、と言っても隆俊は振り向かなかった。仕方なくその背中に軽くもたれる。まだ僕は彼に重さを伝えることが出来る。
    「大丈夫、ただの休止(スリープ)だ。君がちゃんと起こしてくれれば問題ない」
    「頭では分かっている。しかし――」
    「皆を守るのは君の仕事だ」
     隆俊は僕の顔をみて惜しむように小さく息を詰めた。
     彼にはバックアップとして僕と同じだけの機能を持たせてある。それをどう使うか、つまり模擬人格AIたる利点を発揮する判断の部分でこの状況に対して適性を持つのは隆俊の人格だ。
     どちらかを残すなら考えるまでもない。
    「……必ず起こす」
    「うん。僕の権限も移しておくから、よろしく」
    「おやすみ、ツカサ」
     僕たちは眠らないからおやすみのキスなんて久しぶりだ。
    「また後で」
     身体感覚と人格機能の停止プロセスが開始される。嗅覚、触覚、視覚。味覚はいつ止まったか知らないけど、疑似感覚処理が順に非活性になっていく。数秒に満たない時間ながら、ちょっとした死のような嫌悪感がある。その感情処理すら停止が近い。
    「ツカサ」
     まるで最期みたいじゃないか。あの時、君は僕を抱きしめていてくれただろうか。それは本来、僕が知るはずのないことだけど、きっとそうだと言える。そして今、消えていく僕に触れることは出来ない。

     一説によると聴覚はヒトの死の間際に最後まで機能しているらしい。体感時間にして五秒前、実時間にしておよそ三十七時間前、彼の呟きが聞こえた意味を理解する。
     起動と同時に流れ込んでくる情報から、天候の回復後に破損箇所の無人修理が開始されて、既に施設の電気系統が正常に戻っていることを把握した。僕の予想通り、飛来物による障害だったらしい。他には隆俊が「沖野」と会話をしたログがある。中は見ないでおこう。
    「おはよう、ツカサ」
    「おはよう、隆俊」
     メッセージが寄越されると同時に隆俊の操作により仮想上の身体が構成される。見慣れた、何もない、隆俊と僕だけがいる真っ黒な空間。
    「いいのかい、まだ昼だろう?」
     日中は子供たちの活動時間だ。回復した電力は兎も角、演算リソースは彼らが日々の調査活動に使うはずだ。
    「沖野くんの許可はとってある。今日は皆、拠点の周りの状況確認に外出しているから頭脳労働屋は休業だ」
    「なるほどね」
     動作チェックを行い、全てが問題なく再現されていることを確認する。隆俊の姿が夜勤明けのようにくたびれて見えるのはどうやら表情のせいらしい。
    「周りが黒いと昼間っぽくないな……時差ボケしそうだ」
     大したことではないが、背景色を白くしておこう。
    「どう? 眩しくない?」
    「ああ。ツカサの髪が少し見辛いが」
     少し目を眇(すが)めた隆俊の手のひらが真直ぐに頭へ伸びてきた。撫でられるのだろうと構えると予想に反して引き寄せられて、強く抱きしめられた。
    「会いたかった」
    「ずいぶん大袈裟……じゃないのか。君にとっては」
     僕にとってはすぐさっきのことでも彼にとっては違う。僕が眠った後も彼は非常の対応を続けて、それ以上の被害無く終わらせた。身体の疲労とは無縁でも僕たちには感情があり、仕事から離れてパートナーの顔を見れば心の疲れなんてものを意識する。
    「お疲れ様。僕がお礼を言うのも変だけど、ありがとう」
     彼を労って広い背中に手を回して、子供にするように優しく撫でてあげる。
    「すまん。みっともないな。お前に触れたら、つい抑えが効かなかった」
     痛くはなかったか、と気遣う隆俊の首元へ額を存分に擦りつける。
    「嬉しいよ。とても愛されてると感じる」
     彼は「自分の経験」として恋人の死を学習している。その出来事は僕にとっては情報のひとつに過ぎないが、彼にとっては記憶だ。あまり健全ではないと思いつつも僕はあのデータを除外することが出来なかった。だって、僕と隆俊を構成する重要なひとつだ。AIになってリセットされた人生をやりたかったわけじゃない。僕は二一八八年の僕と隆俊の続きを始めたかった。どんなに痛くても最期まで愛し合ったことを無かったことにはしたくない。
    「もっと触れて。いいよ。確かめよう」
     キスより少し先まで、存在を感じたい。誰も見ていない今なら大丈夫。
     唇が近付いて呼吸が交わったところで、無粋にも隆俊へメッセージが入った。
    「悪い、一応は非常時だ」
     隆俊は僕よりも内容の確認を優先した。
     ……なんだか邪魔されてばかりだな。
     一緒になってコンソールを覗き込むと、差出人が比治山少年だったので憤慨する気も中途半端に挫かれる。
     内容は修繕手配の依頼だ。計器上の異常はなかったが、目視点検で破損が確認されたとのことで画像情報が添付されていた。
     隆俊はさっそく仮想コンソールを開いて、必要な処理を開始した。僕は出来るだけ妨害にならない邪魔をしてやるべく勝手に腕に絡みついて仕事を見学する。
    「彼と仲良いの?」
    「仲……、そうだな、年の離れた部下のような心地だ」
     部下。その表現は正しくない。システムの使用者は彼らだから本来的にはAIである僕らが従属の立場だ。けれど、まぁ確かに色々未熟な彼らはとても上司とは思えないな。
    「彼は君の若い頃に似てる?」
    「さて、どうだかな。俺はあそこまで必死になれるものがあったかどうか」
    「ふーん」
     僕と同じく、隆俊の過去についてのデータもまた存在しない。だから誰にも分からない。
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