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    花式 カイロ

    @arisaki_hspr

    自創作本編とは1μも関係のない怪文書と、自創作の小説を投げつけるだけの場所です。
    あとちょっとセンシティブな絵も載せようと思う。

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    花式 カイロ

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    自創作「モノクロの君に捧げるモノローグ」一話です。加筆修正したものになります

    一話 対異形人工亜人 昔々、そのまた昔。異界という場所はとても穏やかな魔力に満ちていた。異界人たちはともに笑い、動物たちはのびのびと過ごし、個人個人が自由に生きる。正に平和と自由を描き写したようなその世界のバランスは、ある日突然崩れ去った。
     異形。魔力を生命源とし、生きるために他の生物を食い殺す化け物。突如現れ、瞬く間に溢れかえったそれが異界の脅威となるのに、そう時間はかからなかった。
     異界人たちは絶望した。魔法もろくに効かない未知の化け物。異界の生物は減らされていく一方。誰もが諦観していた中、異界に存在する五つの国のうち「亜人ノ国」の研究者たちは、異形と渡り合うべく死力を尽くした。
     戦いの最中研究を重ね、ついには異形に対抗しうるとある“もの”を造り出した。「亜人ノ国」に住む魔法使いと魔女。彼らをオリジナルとして生まれた者たち。彼らは高い戦闘力と豊富な魔力、そして他の種族とは違い異形に対して致命的なダメージを与えることができる特異性を持っていた。救世主とも言えるその者たちの誕生に、人々は驚き喜んだ。
     生き物全ての脅威となる異形を、いつかその者たちが殲滅してくれることを人々は祈った。どれだけ長い時をかけても、その過程でいくつもの犠牲があろうとも。たった一つの希望を抱きながら、人々は歪んだ世界で生きていた。
     異形殲滅の希望の星。実に重い責務を背負った彼らは、いつしかこう呼ばれるようになった。

     ——総称、対異形人工亜人。


     気温がちょうど上がり始めた昼下がり。一筋の生温い風に頬を撫でられ、なんとなく居心地の悪さを感じたヴァイスは袖で顔を乱雑に拭った。その行動が終わってから、つまらなそうに溜息を一つ吐く。極々平和な空気が、白皙の少年を包んでいた。
    「……暇だなぁ」
     風に靡く草木を視界に入れながら、無意識のうちに独りごちた。辺りを見渡しながら、時折場所を移動して日々の業務である見回りをこなす。とは言ったものの、何も起こらなければヴァイスのすることは当然ない訳で。手持ち無沙汰に少しサイズの大きい制帽をいじりながら、草原を踏み締めた。

     ヴァイス。白の名を冠した対異形人工亜人の少年。この世界を危険に晒す化け物——通称異形を殲滅すべく生み出された人工的な亜人。推定五歳ほどの肉体と精神を持って目覚め、そこから五年が経ち現在十歳。今日も今日とて小さい体を一生懸命動かして、自身の責務を果たしていた。

     二十分ほどして、ヴァイスは見晴らしのいい高台に来ていた。少し先を見てみれば、ヴァイスの住んでいる「亜人ノ国」の中央都市部が見えた。土地に敷き詰められるようにして建てられた建造物、それに囲まれるようにして構えられた王家の城。遠くから見てもわかる豪華な装飾に、ヴァイスは思わず目を細めた。
     一つ瞬きをして少し視線をずらす。そこにはヴァイスの住居である寮が建っていた。視認した直後に溜息を吐いて、自らの足元へと視線を下す。
    「帰りたいな……」
     ぽそりとヴァイスは呟いた。
     人工亜人たちの業務の一つである見回りは、基本的に週替わりで場所が指定されている。ただし、その指定に規則性は特にない。完全ランダムだ。先週は近場だったのに、今週はかなり遠い地区を指定されることなどざらにあることなのだ。
     そして今週はヴァイスとその他数人が“遠い地区”を指定されていた。朝早くから持ち場に着くためにやってきて、帰りは見回りで疲れた体に鞭打ってなんとか帰る。そんな日々が一週間も続くと思うと、憂鬱極まりなかった。
     さてと一息ついたところで移動を始めようと振り返る。一歩踏み出そうとして、不意に動きを止めた。雲一つもないのにパチ、パチと目先で稲妻が走る。異様な光景を目にしたヴァイスだが、その眉はミリ単位も動かない。むしろ見慣れたように観察しながら腕を組んだ。
    「いるなら来なよ」
     遠くに呼びかけるようにして声を出す。あたりは風と小鳥が囀る音のみが奏でられている。数秒して、静寂を切り裂くような轟音が響き、ヴァイスの立つ寸歩先あたりの場所に雷が落ちた。焼き切れた雑草と立ち上る煙。それを掻き分けるようにして、一人の少年が現れた。
    「やっぱバレるよね」
     揺れる黒髪と鈍く光る黄金色。ハイライトのない瞳とは真逆に、愉快げに作られた笑み。薄い唇からは軽いトーンで言葉が発されていた。
     その濡羽色の少年の名はノワール。歳はヴァイスより二つ上の十二歳。ヴァイスと同じく人工亜人であり、同じ地区を巡回しているその他数人のうちの一人だった。
    「よく言うよ。あんなわかりやすく雷なんか出しちゃってさ」
     呆れたようにヴァイスは言う。ジト目で眼前の少年を見やれば、誤魔化すように微笑まれた。その顔に少しのイラつきを感じたが、冷静さを取り戻すようにヴァイスは一つ咳払いをして。そしてノワールに向き直った。
    「それより、お前さっきまで向こうで見回りしてたじゃん。なんでこっちに来たんだよ。というか、他のメンバーは——」
    「一気に質問しないでよ。一つずつ説明するから」
     捲し立てるヴァイスに嗜めるような声をかけた。ヴァイスは口を噤み、説明を待つようにして後ろ手を組む。
     ヴァイスのその様子を見てノワールは満足したように頷き、両手を使って一と二を表した。
    「ここの地区、今日は異形の魔力があまり感知されていないんだってさ。だから、そんなに広範囲を巡回しなくても大丈夫だ、って言われたんだよ。その代わり見回りは二人一組でするようにって言われたから、君と僕が組むことになった、ってわけ」
     分かった? と最後に付け加えられて、ヴァイスはへぇ、と答えた。その後に、あっと声をあげる。
    「じゃあ、他の二人には誰がつくの」
    「それぞれ先生がつくから大丈夫だって」
     その質問を予想していたように、ノワールは間を置かずに答えた。ヴァイスは不服だとでも言う風に、えーとぶすくれる。
    「なんで僕たちだけ新人同士の組み合わせなの〜? あいつらずるいー」
     聞き分けのない子ども——実際に子どもではあるが——みたく文句を垂れ、他の二人・・・・を羨みながら手足を揺らす。それを見たノワールは、小さく笑みをこぼした。
    「まぁまぁ。きっと、僕たちなら先生がついてなくても大丈夫って判断されたんだよ。つまり信頼されてるってこと」
     口元に人差し指を当てて、ノワールは悪戯っぽく微笑む。そうすればヴァイスの表情は見る見るうちに明るくなっていき、意気込んだような表情を作った。
    「信頼……ならそれに応えるためにも、見回り業務頑張らなくちゃ! ね、ノワール!」
     握り拳を作ってそう言ってみせる。素直を体現したようなヴァイスの姿を瞳に映したノワールは、瞼を細めて静かに微笑んでいた。

     二人で並んで歩いていく。相変わらずあたりの雰囲気は変わらないまま。意気込んだはいいものの、なんとなくそれが空振りしたような感覚がしたヴァイスは暇潰しにと隣のノワールに声をかけた。
    「そういえば、常々思ってることがあるんだけどさ……お前、戦闘に関係ないところで魔法使うのやめなよ」
     説教も兼ねたような話題。言われた本人は素知らぬ顔して首を傾げる。はぁ、と今日で何度目かも分からない溜息をヴァイスは吐いた。

     この異界は魔力で満ちている。自然も生き物も何もかも、その全てには魔力が含まれている。その中でも特定の種族は、己の魔力を魔法へと変換して行使することができる。「亜人ノ国」における最も人口の多い魔法使い及び魔女はもちろん、彼らを元として造り出された人工亜人もまた魔法を扱える種族の一つだった。
     魔法の種類は基本的に二つ。魔法を使える者ならば誰でも一様に扱うことができる生活魔法と、主に攻撃手段などで使われる属性魔法。属性魔法は人によってその種類も異なり、故に優劣の大きい魔法でもあった。属性の種類は多岐に渡る。火や水、風をはじめとしてその派生や独自の出自の属性などがある。
     ノワールはそのうち雷属性の魔法を、ヴァイスは氷属性の魔法を扱うことができる。先程ヴァイスの目の前で発生した雷も、その属性魔法によるものだ。属性魔法は魔力消費も大きく、考えなしに使えば魔力切れによる疲労感に襲われたり、場合によってはそれ以上の事態になることも少なくない。
     よって、属性魔法は使う場面をよく考えなければならない。決して派手な登場やその前座に使うような、見せ物用の能力などではないのだ。

     だからこそヴァイスは不用意に魔法を使うノワールに対して、叱るような言葉をかけた。もちろん、心配も含めてのこと。それを反故にするようなノワールの態度に、ヴァイスが苛立つのも無理はなかった。
    「僕は心配して言ってやってるのに……反抗期かお前」
     先程見せた自身の子どもっぽさは棚に上げ、ヴァイスは自分より半歩先を行くノワールに言い放つ。言葉の終わりと同時に彼はその歩みを止め、ゆったりとした動きでヴァイスの方を振り返った。
    「心配してくれてたんだ?」
     揶揄うような笑みを浮かべる。どこか喜色を含んだその声にヴァイスは眉を顰め、目を逸らしてから彼を避けるようにして歩き出した。
    「前言撤回。金輪際、僕が君のことを心配することはないだろうね」
     色のないトーン。吐き捨てられたその言葉を聞き、ノワールは慌てたような様子でヴァイスを追いかける。
    「冗談だって。嬉しいよ、ありがとう。これからは気を付けるから、どうか許しておくれ」
     ホットミルクのように甘く優しいその声が、ヴァイスの耳に入ってくる。それでもなお剥れたままのヴァイスは、歩行は止めないままに顔だけ横を向き、流し目でそのトパーズを捉えた。
    「……次やったら、当分口聞かないから。気を付けてね」
     拗ねた子どもみたくそう言って、ぷいっとまた前を向いた。その後方で、ノワールは安堵を混ぜたような息を吐いた。

     それからは、たまに休憩を挟んだりして見回りを続けた。どうやらノワールの言っていた「異形の魔力が感知されていない」というのは本当のようで、嘘のように平和な時間が過ぎていた。話し相手が増え、いくらかマシになりはしたがそれでも暇で。同じところをぐるぐると回っている最中、唐突にヴァイスとノワールはピタリとその足を止めた。
    「ヴァイス」
    「分かってるよ、急かさないで」
     打って変わって真剣な口調で二人は短い言葉を交わす。ノワールに呼びかけられたヴァイスは、右手を控えめに前へと翳した。
     パキン、と冷ややかな音を響かせ、手のひらの中央から氷柱が出現した。その温度は意に介さず、ヴァイスは素手でそれを掴む。掴んだ場所からバキバキとヒビが入ったかと思えば、あっという間にそれは砕けた。封印でも解けたみたく現れたのは、漆黒のラインが細く入った純白の片手剣。鋒まで解放されたのを確認して、ヴァイスはそれを持ち上げた。
     自身の専用武器である無垢な色彩を帯びた白剣を、ヴァイスは一振りしてから構える。辺りは不気味な空気に包まれていた。
     ヴァイスとノワール、その二人の数メートル先の地点。新緑の生命を奪うようにしてそこは黒く染まった。次の瞬間、その黒点から物体が這い上がってくる。重力が逆さにでもなったように、ずるりとそれは全貌をあらわにした。
     その体格はヴァイスたちよりも二回りほど大きく、四肢の先の臙脂の鋭さがよく目立つ。四足歩行の未見の化け物。
     二人の目の前に現れたのは、紛れもなく異形そのものだった。
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    花式 カイロ

    DONE登場キャラクター
    ・ヴァイス
    ・グレース
    ・ノワール
    ・ディアン
    ・スティル
    十九話 なんでもない ヴァイスは、あれからどうやってグレースの言葉に返事をしたのか覚えていない。抱いた不信感と違和感が強すぎたせいなのか、とどこか他人事に考えたが、理由を追求したところで思い出せはしなかった。
     そしていつの間にやら会話は終えられ、ヴァイスは研究所を発つことになった。
    「グレース様、今日はありがとうございました」
    「あぁ。何かあったらいつでも来ていいからな。なんなら、検査じゃなくてただ遊びにくるのでも大歓迎だぞ? 立場上表に出ることが少ないと、お前たちに会う機会も中々訪れない。やはりそれは寂しいから」
    「わ、分かりました! 分かりました、また来ますので!」
     帰り際にもグレースのマシンガントーク癖が発動しかけたため、慌てたヴァイスは語気を強めてそう言った。グレースもぽかんとした後にまたもや頭を抱えたが、「待ってるぞ」と羞恥の渦中でぽそりと伝えてくれる。反省をしながらもそう返してくるのだから、歓迎している旨は本意なのだろう。ヴァイスは勝手に解釈しつつ、「はい!」と元気に答える。それに釣られたのか、グレースもにこやかに笑ってくれた。
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    花式 カイロ

    DONE【登場キャラクター】
    ・ヴァイス
    ・グレース
    十八話 白い蝶 検査を受けている間、ヴァイスは意識を失って、眠りの最中にいるような柔らかさに包まれる。そうして目を覚ませば、知らぬ間に検査が終わっていて、結果や所感を伝えられるのだ。
     けれど今日は違った。例えるなら、夢の中で起床をすると言ったような、そんな心地を味わっていた。
     体を動かそうと試みて、けれど上手くいかないことに気付く。眉を寄せて訝しみ、そうして声をあげようとしたところでまた一つの気付きを得る。声も出せない。音を紡ごうとして喉を震わせても、ヒュッと情けない空気が漏れるだけ。それも感覚だけで、実際にそのような音が聞こえる訳ではなかった。
     あたりは薄闇に包まれており、そしてヴァイスは急激に不安へと誘われる。瞼にすら上手く力が入らない中、神経を集中させてどうにか目を閉じようとした。この不安から逃れるために。目を閉じたところで待つのは同じ暗闇だ。それでも何もできないよりはできた方がマシだと懸命に力を込めていれば、唐突に一筋の白が視界を掠める。急なことで驚きはしたが、目の痛みなどは一切なく、不思議な感覚を抱きながら眼球だけを動かしてその正体を追った。
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