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    sub_kuya59

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    sub_kuya59

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    白痴に魅入られてしまった若き小説家のお話

    序章の序奏俺の人生は至って平凡。当たり障りのない面白げのないものだと思っていた。

    ……あの時までは



    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
    序章の序章
    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



    幼い頃から俺は、物語を作り出すことが好きだった。
    在り来りな冒険譚、よくある恋愛もの、なんでも書いていた。
    家族や友達、色んな人に読んでもらって、笑ってもらって、俺はすごくすごく嬉しかった。

    それでも世界は残酷で。
    中学にあがり、もっと色んな人に読んで貰いたい、と思い、文芸部に入部した。コンクールにも出した。
    でも、結果は得られなかった。
    あげく、2年の頃に部員が足りずに廃部。親からも「いつまでも遊んでいないで勉強しろ。」なんて言われるようになった。

    それでも書くことは辞められず、高校に入っても、ひっそりと書き続けた。俺だけの物語を。
    ……それを、クラスのやつらが面白がって晒したんだ。
    掲示板に張り出して、勝手にサイトにアップして、俺は笑われ者になった。

    なんで?なにがいけないの。俺はただ好きな事をやっているだけなのに。
    なんで、否定されなきゃいけないんだ。


    ……あぁ、今思えば、ひとりだけ、あの子だけは俺の物語をいつも読んでくれてたな。読んで、面白くない、って一蹴して、また読ませて、って笑ってくれた。顔も名前も思い出せない、優しい子……。


    そんな事があって、俺は不登校になった。
    親の罵声、学校からの催促、近所の眼、全てから逃げるように、俺は書き続けた。
    誰にも見せることない、物語たちを。
    偶然見つけた今は亡き小説家。彼のような物語を、書き続けた。


    いつの日か、夢を見た。
    あの子が、笑っていた。栗色のふわふわとした髪を揺らして、優しい少し緑がかった目を細めて、いつもみたいに「お前の話、面白くない。けど、また読ませて」って。
    その子が一冊の本を差し出したんだ。
    タイトルのついていない、黒い本。


    そして目を覚ます。
    机の上には、あの子がくれた黒い本。

    読まなきゃ、呼ばなきゃ

    そう思って、ページを開いた。





    現れたそれは、白紙のページのような存在だった。
    何も知らない、無知で純粋な塊。

    そう、俺は、かの神を、世界を統べる魔王を“純粋”だと思ったんだ。


    「ねぇ、俺の物語を読んでよ。」


    あの子に言ったセリフと同じものを、何故か投げつけた。
    理解なんてされるはずないのに。


    「あ、見えないんだっけ。じゃあ、俺が読むからさ。聞いててよ。
    ……あった、これ、一番最初に書いた話なんだ。」


    俺はそれに物語を聞かせた。
    理解されないとわかっていたのに、でもそれは大人しく俺の言葉に身を委ねていた。
    ……ちょっとかわいいな、なんて。


    「........そうして、少年は自分の帰る場所を見つけたのでした。めでたし、めでたし
    ……どうかな?」


    黒い塊を見上げる。それは、ぐちゃぐちゃと耳をつんざく酷い音を鳴らしながら、なにか形を取り始めた。
    伸びる四肢、揺れる栗色、光る翡翠。
    それは、その子は、興味無いように俺の方を見ると、一言。


    「つまらない」


    そう言った。
    そして、


    「けど、もっと読ませてよ」


    そう、笑った。
    ふわりと、小首を傾げて、目を細めて。
    俺の大好きな笑顔で、笑った。


    これが、俺とかの神の出会いの話。



    ──────────



    少しだけ、それからの話をしよう。


    それからも俺は書き続けた。狂ったように……いや、狂っていたのだろう。
    書き続けたんだ。あの子のための物語を。
    彼はそれを読んで、「つまらない」なんて一蹴して、「もっと」と強請った。


    「んー……ネタ切れだなぁ……。なにかいいのないかなぁ
    ……外、行こっか。」


    服を着替えて、あの子の手を取って、部屋の扉を開く。


    「さ、いこ」


    帽子を深く被って、マフラーに顔を填めて、冷たい彼の手を握って。
    約一年ぶりの町は、なんにも変わらず、俺に厳しい現実だけを突きつけてきた。


    「あの子──さんの家の息子じゃなかった?」
    「あぁ、あの不登校の……」
    「気味が悪い、何も無いところに話してるわ」
    「あいつまだ生きてたんだ」
    「だれ?」
    「あ、妄想男じゃん。知ってるあいつさぁ」
    「うわきもすぎ」


    うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、
    やっぱり外なんか出るんじゃなかった、誰も、誰も俺のことを認めてくれない
    見つけてくれない

    もう、いなくなってしまいたい


    「聞いちゃダメだよ」


    無表情の彼が、無感情の神がこちらを見つめる。
    なんだか無性に泣きたくなって、人目もはばからず、彼を抱きしめて泣きじゃくった。
    彼の手が周りの雑音をかき消してくれた。
    彼の心臓が生きてていいよって囁いてくれた。
    生きていく理由が無くなっていた、でも、君がそう言ってくれるなら……。

    しばらく泣いて、一息ついて落ち着いて、彼を見つめる。
    いつもみたいな笑顔。


    「帰ろう」


    彼の手を引いて帰路に立つ。
    もう周りの雑音は聞こえなくなっていた。
    彼の声だけが、俺の世界になった。
    もう見たくない現実は見えなくなっていた。
    彼の存在だけが、俺の世界になっていた。

    俺は、君のためだけに生きよう。そう誓った。


    これが、俺がおかしくなった時の話。



    ──────────



    最後に語るは、この“世界”ができた話。

    ネタ集めのために流していたニュース。
    とある街で起きた猟奇的で残酷な連続殺人事件。
    それを見ていた彼が言ったんだ。
    「これ、面白そうだね」って。

    だから俺は、いつもみたいに物語を小説にするんじゃなくて、脚本にしたんだ。
    俺の用意した脚本で、あの子が用意した舞台で、俺の記憶から生み出された人達が演じる。

    それが、この“世界”。


    観客はあの子だけ。
    俺の大事な、大好きな神様。

    俺の大切な、大好きな幼馴染の身体をした、かみさま。



    君のために書き続けるよ。
    飽きたら、壊してくれて構わない。
    暇つぶし程度に考えてくれててもいい。
    ただ、いつか、いつか、
    君に絶対、「面白かった」って言わせてやるから。

    それまでは飽きないでね。


    君に届けたかった気持ちを込めて紡いでいく愛の物語たち。
    それが、俺の描く物語。


    これが、これからの俺たちの話。


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