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    michiru_wr110

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    michiru_wr110

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    brmy
    戦衣都
    8月8日、蝶々の日に寄せて。
    加えて、翻訳業務をこなす新開さんが見たくて捏造したり、ヘキを詰め込んだりした結果誕生した代物

    《like butterflies in my stomach.》――
    (落ち着かないの。身体の中で、蝶が飛び回っているみたい)

    #戦衣都
    #brmy男女CP

    蝶は目覚めている(そよいと) デスクトップPCの煌々としたブルーライトに照らされながら手元の資料と睨み合う。

     誓さんのアシスタントとして請け負っている翻訳業務。今回は珍しく小説――それも、恋愛ものの内容だった。
     通常は論文や学術書などの硬い内容が多く、知識もボキャブラリも不十分な箇所が散見された。全体の進捗は想定よりも遅い。ジャンルを問わず同じように仕事をしているつもりだが、ままならないものだ。
    (……休憩すっか)
     ある種の諦めと共に区切りをつけて、ブルーライトカットの眼鏡を外す。今時らしいデザインのラウンドレンズ。細い銀縁のそれは、数ヵ月前に弥代が誕生日プレゼントとして選んでくれたものだ。
     指先でテンプルを弄びながらちらりとモニターに目をやると、目元から頭頂部に刺さるような痛みを覚えた。必然的に眉間に皺を寄せる。先ほどまでは(何だったらこいつを導入するまでは)気にならなかった刺激は、どうやら目に毒だったらしい。
    (自覚していなかっただけで、役に立つもんだな)
     PCをスリープモードにしてから、ぎゅっと詰まった眉間に人差し指と中指を、ぐっと押し当てる。反射で閉じた目を再び開くと、手元の資料の文字が飛び込んできた。
    《She was always nervous around him, 》
     それは物語に登場する女性が、想い人の前で緊張する様を描写した一文である。

    《like butterflies in my stomach.》――
    (落ち着かないの。身体の中で、蝶が飛び回っているみたい)

     この手の物語では迂遠な訳が多数見受けられる。英語や英文に馴染みのない者からすれば意外だろうが、明け透けでストレートな物言いが好まれる英語圏であっても、この手の慣用句は存在する。日本人でいうところのことわざに近い。
     緊張している様子。胸がざわめいている様子。
     心拍数が上昇して、居ても立っても居られない様子を表す典型的なフレーズである。
     
    (腹の中に、蝶……か)
     仕事柄、慣れているつもりではいるが。欧米人の発想は俺からすれば突飛なものだと思う。刺激を受けたり面白がったりすることはあれど、日常生活を送るうえで、自然と出てくる類の言葉ではない。

     ……そんなことよりも。何かを振り切るように立ち上がり、キッチンへと歩みを進める。本来なら軽く走ってリフレッシュしたいところだが、時間の猶予はあまりない。
     コーヒーメーカーにマグカップをセットしながら思案する。このヤマを越えたら、どこまで走り込みしようか。この時期は皇居を過ぎて、上野辺りまで足を伸ばすのも悪くない。
     そういえば弥代はジムで、初心者向けのランニングコースがあれば、と呟いていた気がする。さすがに往復一緒にとはいかないが、現地に集合して恩賜公園辺りを一周するのも悪くなさそうだ。

     とりとめもなく脳裏に過ぎる、気心知れた同僚の姿。
     片方の手の中では無意識に終始、外したはずの眼鏡を離さずに弄び続けていた。

     * * *

     護身術(いつもの)講習を開催する程度の余裕はあった。
     数日経った今もなお、例の翻訳業務には未だ区切りがつかない。遠出の走り込みは当面先になるだろう。

     だからこうして、弥代と肩を並べて歩く寮までの道のりが、ひどく貴重な瞬間に思えてならない。だが浮足立って口数を増やすのも何か違う気がした。結局いつもの通り、穏やかに、余計なことを言わずに心地の良い沈黙を共有している。あまりに短い帰り道を惜しみ、平時よりも緩やかなペースの歩みになるのも必然だった。
     弥代は十中八九、俺が意図して歩調を合わせているものだと思い込んでいる。その誤解を今は、無理をして解く必要はない。
    「……あ」
     前方に目を向けたまま、弥代が不意に立ち止まる。
     つられて歩みを止めると前方には、鮮やかな羽色の蝶々が飛んでいた。

     覚束なくも鮮やかな、青緑色の羽。真っ黒な縁取り。蝶々は弥代が立つ右方向から、俺たちの前方をいくらか旋回している。

    「蝶々って」
    「ん?」
     青とも緑ともつかず、揺蕩う蝶々。一連の動きを目で追いながら、弥代は呟く。
    「亡くなった人の魂を、運んでくるらしいですよ」
     日没間近の弱い日差しが、弥代の横顔に陰影を作る。緑がかった瞳の色が影に溶け込み、穏やかな空気感は消えている。怖いくらいに静かで、凪いだ声色だった。
    (……こんな風に弥代は、誰かを見送ったことがあるのか)
     喉元まで出かかった疑問を訊ねるほどの図々しさはなかった。そのまま呑み込むと胸の中がざわめいて、激しい動きもなしに心拍数が上昇する。居ても立っても居られなくて、だが何もできない。透明な膜越しに、ぞっとするほどの美しさを湛えた何かを見つめているかのような。そんな錯覚すら覚えるほどだ。

     やがて反対方向へと消えていく青緑色の蝶を見送り、俺たちは再び短い道のりを歩いた。
     弥代が纏う空気はとうに、元の穏やかなものへと戻っている。だから、囚われているのは俺の方なのだろう。

     俺の中にも蝶が居着いている。

     どうせ目覚めてしまったのなら。その羽色は弥代が目を奪われた、あの色が良い。
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    michiru_wr110

    DONEbrmy
    弥代衣都(+皇坂+由鶴)
    捏造しかない・弥代衣都の中に眠る、過去と現在について
    image song:遠雷/Do As Infinity

    『きょう、ばいばいで。また、ママにあえるの、いつ?』
    軽やかに纏わる言霊(弥代衣都・過去捏造) 女は視線でめつけるように傘の骨をなぞり、露先から空を仰いだ。今日という日が訪れなければどれほど良かっただったろうか、と恨みがましさを込めて願ったのに。想いとは裏腹に順調に日を重ね、当たり前のような面をして今日という日を迎えてしまった。

     無機質な黒色の日傘と、切り分けられた青空。都会のように電線で空を区切ることも、抜けたように広がる空を遮るものもない。しかし前方には、隙間なく埋め尽くされた入道雲が存在感を主張している。

     女の両手は塞がっていた。
     片方の手には日傘。そしてもう片方の手には、小さな手の温もり。
     歳相応にお転婆な少女は女の腰にも満たない背丈で、時折女の手を強く引きながら田舎特有のあぜ道を元気に駆けようとする。手を離せば、一本道をためらいなく全力疾走するであろう、活発な少女。しかし女は最後の瞬間まで、この手を離すつもりはない。手を離せば最後、何もしらない無垢な少女はあっという間に目的地へとたどり着いてしまうに違いない。
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    戦衣都

    味のある大根について
    辛さが喉元通り過ぎれば(そよいと) 七……八…………。
     バーベルを持ち上げる腕が、回数を追うごとに重たくなってくる。
    (オーソドックスなのは煮物かおでんだろうか)
     九…………。
     視界の端にトレーナー、もとい新開さんの姿を認める。余計なことを考えてしまうのは、目の前にのしかかる負荷からの逃避なのだろうか。
    (けれど、この時期ならもっと、さっぱりしたものが食べたい。となると)
     …………十。
    (さっぱり…………大根サラダ?)


    「よし、休憩」
    「ふう……」
     取り敢えずの結論が出たと同時にカウントが終わり、十キロのバーベルを所定の位置に戻す。仰向けの体勢のまま私は、天井の壁の無機質な模様の一点をぼんやりとみつめていた。
     当初は五キロほどで息も絶え絶えだった私が、今は倍の重量をそれらしく動かせる程度には進歩している。とはいえまだまだ初心者の域を出ない重量に違いはないし、まだまだトレーナーもとい新開さんのサポートは必須だけれど。いつものジム内、ほぼ貸し切り状態で行われるトレーニングは定期的に続けている甲斐あって、微々たる成長とともに「ある」寄りの体力に近づきつつある。
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