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    michiru_wr110

    @michiru_wr110

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    michiru_wr110

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    anzr
    匠メイ(VD)
    製作中のチョコを盛大に零したメイちゃんと、駆け付けた火村さん

    #anzr男女CP
    anzrMaleAndFemaleCp
    #火メイ
    #匠メイ

    チョコレイトの雨がふる(匠メイ) 屈みこんだ時にはもう遅かった。目先でカラン、と派手な音を立てて、ステンレス製のボウルが落下していく。私の反射神経では受け止めることすらままならず、結局スローモーションを追うようにチョコレートが跳ねる様を眺めることしかできなかった。テンパリングは素人の割にはそれなりに上手く進められているなと思っていたけれど、僅かに油断をしたのがいけなかったのかもしれない。
     ともあれ、いくら嘆いたところで後の祭りだ。いつもならきれいに整えられている事務所のキッチンは見るも無残な惨事に陥っており、辺りには場違いなほどねっとりと甘い匂いが立ち込めている。

    「メイちゃん!」
     血相を変えた火村さんはすぐさま駆け寄り、チョコレートに塗れてぼんやりと床を見つめている私の手を取った。
    「怪我はないか?」
    「あ……大丈夫です」
     他の面々が退勤したり外食に出かけたりした後にも関わらず、火村さんは未だデスクに齧りついたままだったはずだ。提出されていた報告書の確認と諸々の事務手続きを済ませておくと話していたはず。生命の危機に瀕するほどの有事とは言い難く、ましてや私的な事情でキッチンを占領している最中。上長の仕事の手を止めてしまった事実に罪悪感が募るほかない。
    「寧ろ、大げさにしてしまいすみません」
    「メイちゃんが無事ならそれだけで良いんだけどよ」
     気分転換が必要だと思っていたからよ、と言い添えた火村さんは含むように、口元だけで笑んでいた……ような気がする。
     そして伏し目がちの視線がいま、チョコレートで汚れた私の手元に向けられている……ような気もする。
    「あの、すぐに片づけますので……」
     せめて心配をかけてしまった彼の手を無駄に汚さないよう、やんわりと手を解きたかったのだ。けれど目の前の恋人は拒むように、触れた手に優しく力を込める。
    「……っ」
     自らの口元に引き寄せるまで、いったい彼が何をしようとしたかまるで見当がつかなかった。
     上唇に付着したチョコレートを舐めとるゆったりとした動きがやけに煽情的に映る。理解が追い付くと同時に、顔と指先が灼けつくような熱を帯びるのがわかった。
    「っな、にを……」
    「ご馳走さん」
     どれほどの有事があったとしても、いくら生命の危機に晒されても、決して今この瞬間以上に心を乱される瞬間は訪れないだろう。
    「……わざとですか?」
    「どうした?」
    「とぼけないでください」
     こんなことをされてしまってはもう、作り直すだけの体力も気力も奪われるばかりだ。
     多忙の合間を縫って、せっかく一人で作ろうと思ったのだけれど。公私ともにお世話になっている日頃の感謝の意を伝えるためにも、火村さんの力を借りるのは憚られるとすら思っていたけれど、目の前の彼はしてやったりとばかりに目を細めるばかりだ。
    「……続きは、片付けた後だな」
     たっぷりと間を持たせた後で大きくて骨ばった手が離れる。
     布巾を探しに洗面所へ向かう後ろ姿を見送りながら、片付けた後の「続き」について考えた。私としてはチョコレート作りのリベンジをさせてもらいたいところだけれど、どうしてだか火村さんはそれだけでは済まないような気がしてならない。そう思えてしまうのは考え過ぎだろうか。

     屈んだままの視界の端で、チョコレートがまたひとしずく落ちる。
     それは粘度を増したまま気だるげに滴り、私の手元を汚していた。
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    michiru_wr110

    DONEbrmy
    弥代衣都(+皇坂+由鶴)
    捏造しかない・弥代衣都の中に眠る、過去と現在について
    image song:遠雷/Do As Infinity

    『きょう、ばいばいで。また、ママにあえるの、いつ?』
    軽やかに纏わる言霊(弥代衣都・過去捏造) 女は視線でめつけるように傘の骨をなぞり、露先から空を仰いだ。今日という日が訪れなければどれほど良かっただったろうか、と恨みがましさを込めて願ったのに。想いとは裏腹に順調に日を重ね、当たり前のような面をして今日という日を迎えてしまった。

     無機質な黒色の日傘と、切り分けられた青空。都会のように電線で空を区切ることも、抜けたように広がる空を遮るものもない。しかし前方には、隙間なく埋め尽くされた入道雲が存在感を主張している。

     女の両手は塞がっていた。
     片方の手には日傘。そしてもう片方の手には、小さな手の温もり。
     歳相応にお転婆な少女は女の腰にも満たない背丈で、時折女の手を強く引きながら田舎特有のあぜ道を元気に駆けようとする。手を離せば、一本道をためらいなく全力疾走するであろう、活発な少女。しかし女は最後の瞬間まで、この手を離すつもりはない。手を離せば最後、何もしらない無垢な少女はあっという間に目的地へとたどり着いてしまうに違いない。
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    michiru_wr110

    DONEanzr
    夏メイ(のつもり)(少し暗い)
    2023年3月20日、お彼岸の日の話。

    あの世とこの世が最も近づくというこの日にすら、青年は父の言葉を聞くことはできない。

    ※一部捏造・モブ有
    あの世とこの世の狭間に(夏メイ) 三月二十日、月曜日。日曜日と祝日の合間、申し訳程度に設けられた平日に仕事以外の予定があるのは幸運なことかもしれない。

     朝方の電車はがらんとしていて、下りの電車であることを差し引いても明らかに人が少ない。片手に真っ黒なトートバッグ、もう片手に菊の花束を携えた青年は無人の車両に一時間程度揺られた後、ある駅名に反応した青年は重い腰を上げた。目的の場所は、最寄り駅の改札を抜けて十分ほどを歩いた先にある。
     古き良き街並みに続く商店街の道。青年は年に数回ほど、決まって喪服を身にまとってこの地を訪れる。きびきびとした足取りの青年は、漆黒の装いに反した色素の薄い髪と肌の色を持ち、夜明けの空を彷彿とさせる澄んだ瞳は真っすぐ前だけを見据えていた。青年はこの日も背筋を伸ばし、やや早足で商店街のアーケードを通り抜けていく。さび付いたシャッターを開ける人々は腰を曲げながら、訳ありげな青年をひっそりと見送るのが恒例だ。商店街の老いた住民たちは誰ひとりとして青年に声をかけないが、誰もが孫を見守るかのような、温かな視線を向けている。
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    michiru_wr110

    PASTanzr 初出2023.7.
    夏メイ
    イメソンは東京j...の初期曲。

    《七夕を迎える本日、都内は局所的に激しい豪雨に見舞われますがすぐに通り過ぎ、夜は織姫と彦星との再会に相応しい星空を観測できるでしょう》
    青く冷える七夕の暮れに(夏メイ) 新宿は豪雨。あなた何処へやら――イントロなしで歌いはじめる声が脳裏に蘇ってくる。いつの日かカラオケで夏井さんが歌った、昔のヒット曲のひとつだ。元々は女性ボーカルで、かなり癖のある声色が特徴らしい原曲。操作パネルであらかじめキーを変えて、あたかも自分のために書き下ろしされたかのように歌い上げてしまう夏井さんの声は、魔法のように渇きはじめた心に沁み渡っていく。

    《七夕を迎える本日、都内は局所的に激しい豪雨に見舞われますがすぐに通り過ぎ、夜は織姫と彦星との再会に相応しい星空を観測できるでしょう》

     情緒あふれる解説が無機質なラジオの音に乗せて、飾り気のない部屋に響く。私は自室の窓から外を見やった。俄かに薄暗く、厚みのある雲が折り重なっていく空模様。日中には抜けるような青空の下、新宿御苑の片隅で夏の日差しを感じたばかりだというのに。この時期の天候はどうにも移り気で変わり身がはやい。
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