後に語られた「あんなの鬼だってドン引きだろ」(メイ+ハロ探)「これが……例の」
「ああ。例の」
目を丸くした風晴に対し、火村が言葉少なく肯定する。
「はは。こりゃでかいわ」
「お目汚しを、失礼しました」
問題のそれを覗き込んだ結城がいつもの調子で感想を述べたところで、メイは思わず潔く謝罪の意を述べた。
各々が注目した大皿には、重量感のある太巻きが鎮座していた。ただしそれは、ただの太巻きではない。
太巻きは酢飯の分量がかなりの割合を占めており、大判サイズの海苔が一枚では足りていないのだ。酢飯がむき出しになっていた三分の一程度は追加で海苔が補完されている。直径にして成人男性のこぶし程度にまで巨大化した、ボリューム感のある太巻き。
作ったのは他でもない、七篠メイである。
冷え込みが続きながらも穏やかな陽が差す休日の昼下がり。ハロー探偵事務所内は、節分にちなんだ手巻き寿司パーティーで賑わっている。
数刻前。料理が絡む催しで当然のように現れる火村は酢飯を拵え、華麗な手さばきで太巻きを量産する最中だった。起床した頃からすでに戦場と化していたキッチン内、メイが手伝いを申し出たまではごく自然な流れである。
ところが火村の手順に倣い酢飯を広げようとしたところ、想定より多くの酢飯が海苔の上に乗ってしまったのが運の尽き。酢飯を広げ、具を乗せ、厚みにばらつきがある気がして再び酢飯を乗せて、釣り合うように具を追加してを繰り返した末、最終的に迫力だけは満点の太巻きの完成に至った。
「逆にこの量で良く巻けたものだな」
「力には自信があったので」
「いや、そっち……?」
風晴と結城の苦笑に気づかないまま、メイは火村を仰ぎ見る。
「火村さんのように、綺麗に作れたら良かったのですが」
「んなこたねえよ。豪快で良いじゃねえか」
そんな中食事も忘れて話す声に紛れて、遅れて事務所に入ってきた二人組がいた。
「来たよー……げ」
ショップバッグを提げたまま東海林は、おぞましいものを見るような目で巨大太巻きを凝視した。
「……」
対照的にジョージは、取り繕う暇もないほどに目を輝かせながら皿に釘付けになっている。
「ええと……その」
「メイちゃんが愛情込めて巻いてくれたんだ。ジョージのために」
「そうなの? ありがとう、お腹ぺこぺこだったんだ」
提げていたショップバッグを投げ出さんばかりの勢いで、ジョージは重量級の太巻きの乗った皿を(とても良い笑顔で)受け取った。
「え、食べるの……いや食べるんだろうけど……」
「お口に合えば良いのですが」
程なくして(一部メンバーの心配を物ともせず)美しい所作で見事完食を果たしたのは言うまでもない。