雪の出迎え 寒い。
甲板へと通じる扉を開け、外気に触れた途端に身震いをして思わず後ずさった。いくら日の出から間もない時間とはいえ、三月も半ばに近いこの時期は例年なら春の訪れを感じるような頃合いじゃなかっただろうか。予め気温は確認した上で出てきたけれど、すっかり暑さに慣れた身体でこの寒波は予想よりも辛い。先輩たちのアドバイスに従って積み込んでおいた防寒具がこれほど心強く感じるとは思わなかった。逡巡ののち、意を決して一歩踏み出した。
艦は見慣れた湾の入り口に差し掛かるところで、朝靄の向こうにうっすらと見える稜線には白く雪が残っている。どうやら間に合ったらしい。ただ寒いだけではない、不思議と心地よく感じる冴え渡る空気に触れて帰ってきたんだなと感じる。ただいま、と一足早く呟いた。おかえりと返ってくるまではもう少しだけ静かに。
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