君が笑った日 ヘルムートはパンを題材に、それだけを描き、制作し続けた画家である。
彼は、何故パンを題材にしたか自分ではあまり覚えていない。恐らく、覚える必要が無い、あるいは記憶に残らないほど些細なことがきっかけだったのだろうと思う。
ただ、それは、パンにまつわる思い出がないということでは無い。
これは彼が覚えている話のひとつだ。
ヘルムートはその人生をほぼ戦争と共にしてきた。
というのも、第一次世界大戦の1914年に彼は生まれたからである。
なので、物資不足だとか、節約をするだとか、物がないという日々に追われることは当たり前で、そんな中で自分を産み落とした両親はよく自分を育てたものだと彼は思っている。
日々の食卓には配給制度の下で手に入れたジャガイモや穀物、僅かな肉が並び、そこに野菜を少しづつ足したような料理が並ぶ。物心着く頃には、純粋な小麦、ライ麦で作られたパンというのはあまり見かけることはなく、じゃがいもの粉を混ぜたものであったり、品質はあまり良くないものが食卓に上る事が主流だった。
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