決して離れないごほ、ごほと咳が外まで聞こえてくる。
「浮竹〜、入るよ〜」
京楽は先日、倒れた恋人の元へとやってきた。
「…京楽か?すまんな」
簾を上げながら京楽は中へと入る。気配と入ってくる音に浮竹は床から起き上がろうとするが京楽に手で制される。
「はい、すぐ起き上がろうとしないの。横になっててもいいから」
「むっ、お前が来たからお茶でもと…」
「先日倒れたお前さんがやらなくていいの。ボクが勝手にやるからね」
浮竹の側までやってくると京楽はどかっと座り、浮竹の額に手を当てる。
「うーん、熱上がってきたんじゃあないの?」
「そうか?心配しすぎじゃないか?」
京楽は唸りながら慣れた手つきで薬の用意をし始めるが浮竹はムスッとしている。
「…京楽」
「はい、これ飲んで良くなって。本当はキミと藤の花見に行こうと考えてだけど、悪化されても困るし」
「…ああ、もうそんな時期か」
浮竹はしぶしぶ京楽が差し出してきた薬を手に取り飲む。
「薬、飲めば明日か明後日には少しよくなるんじゃない?」
「…俺はお前と藤の花を見に行きたいんだが」
「今から咲き始めだからね。すぐには散らないよ?」
「…じゃあ、今日は一日いてくれ」
「いいよ?と言うより元からそのつもりだったし」
京楽はニコッと笑っている。浮竹は少し頬を赤らめてそっぽを向きながらスッと腕を出す。
「はいはい、湯たんぽにでもなりますよ」
京楽は素直のようで素直じゃない恋人のお願いを聞くために布団へと潜るのであった