離れ難しセルとの戦いが終わり孫悟空という大きな犠牲を払いながらも世界に平和が訪れた
悟飯は宣言通り時々神殿を訪れた
手合わせより言葉を交わす事が大半だったが子供の元来の望みを考えればそれも致し方無しとさして気にはしていなかった
母に子供が出来た、と心底嬉しそうに語る悟飯を見ながら俺も満たされていた
そうして過ぎてゆく日々の中、いつしか悟飯の様子がおかしくなっていった
『ピッコロさん僕、怖いんです…お母さんのお腹が大きくなる度に、産まれてくる子を傷付けてしまわないかって』
何かに怯える様な悟飯に理由を問えばそう悟飯は震えながら言った
世界を救った筈の悟飯のその力は悟飯自身をいつしか追い詰めていた
俺は何も言えず、ただその震える肩を抱き締めるしか出来なかった
そして俺は遂に一つの決心をした
『悟飯、お前を攫いにきた』
悟飯を攫ったのはこれで2度目だ
ただあの時と決定的に違うのは俺にとって悟飯がただの都合の良い手駒では無く、何者にも代えがたく掛けがけのない存在になった事だった
悟飯の手を取り神殿すら後にし、修業を重ねながら宛もなく大地を彷徨った
着の身着のまま互いの存在以外は何も無いそんな日々だったが悟飯の顔色は次第に良くなっていった
『ピッコロさん僕を攫ってくれてありがとう、大好きです』
そう言って朗らかに笑う悟飯に胸の奥が疼く
最初は心身を鍛えつつ、悟飯の気が落ち着くまで人里から連れ出せばそれで良いとそう思っていた
だが悟飯と共に過ごす内にその笑顔を独占したい、離れ難くなってしまった
悟飯が家に帰りたいとその一言を漏らさないのを良い事にズルズルと俺はこの子供を本来有るべき場所へ帰すのを躊躇っている
『このまま返したく無いと言ったらお前はどうする、悟飯…』
返事は無くただ落ち着いた静かな寝息のみが聞こえる
握る手の温もりがただ愛おしく離れ難かった