勿忘草80までは若さを保つというサイヤ人の特性は地球人とのハーフである悟飯にも受け継がれ、それどころか90歳を越えても未だに青年の頃の姿のままだ
ただし脳の方には陰りが見えこの所めっきり覚えが悪くなった
『悟飯、昨日の事だが…』
『え?何でしたっけ』
『…いや、良い』
過去に過ごした記憶どころか昨日何を話したかさえ忘却の彼方になりつつある現実が只々、腹立たしかった
それが確実にこの弟子との離別が近付きつつある証であれば尚の事だ
そうして消えゆく悟飯に少しでも俺という証を残したい、そう考え記憶を漁りある事を思い付いた
『勿忘草ですか…ありがとうございますピッコロさん!』
勿忘草の花言葉は私を忘れないでだという
我ながら女々しい考えだと思ったが何かに縋れなければこの遣る瀬無さは最早やり過ごせそうに無かった
有り触れた花だ、学者である悟飯も当然意味を知っているだろう
覚えが悪くなった悟飯にこんなものを渡すのはある種の嫌味と捉えられてもおかしくは無かったが当の本人は特に気にした様では無かった
『ピッコロさんの事は僕、何があっても絶対、絶対に忘れませんからね』
そう言って鉢植えを抱き締め優しく微笑んだ姿に心惹かれ思わず抱き締めていた
耳元にありがとうと囁けば大好きですと昔と全く変わらない素直で純粋な口調で返事を返される
悟飯が俺へ向けるその言葉に宿る感情はいつしか俺が悟飯に抱く様になっていったそれとは異なるものだがそれでも俺はその瞬間確かに幸福だった
その日の事は随分時が過ぎた今でも鮮やかな記憶として刻まれている
『なあ悟飯、勿忘草の意味を他にも知っているか?』
今は亡き最愛の弟子の墓前に花を捧げながらそう告げても答えは当然返っては来ない
俺の命が尽きる時までもしも悟飯があの世で待っていてくれるのなら…あの時言えなかった、言わなかった言葉をもう1度逢えたその時には必ず告げよう
それが俺の今の生きる糧だ