雪解けマフラー悟飯は風邪をひいた。それも良い歳をこいてとても恥ずかしい理由で。
久しぶりの大雪に碌な防寒装備も無しに思わずはしゃいでしまったら身体をすっかり雪まみれにして冷やしてしまってそのままダウンだ。
勿論、師匠であるピッコロにはめちゃくちゃ怒られた。
『アホか!良い歳こいて防寒着を着る事も頭に無かったのかお前は!』
『はいおっしゃる通りです……』
カンカンになって怒る師匠にただただ平謝りするしか無かった。
外にはまだ悟飯の力作である大きなかまくらがでん!と存在を主張しており中で悟飯を反面教師にしてバッチリ防寒対策をしたパンとビーデルがそれは楽しそうにはしゃいでいる。
『パンとビーデルは俺が見ておく。お前はそれを食ったらさっさと寝ろ』
そう言って悟飯の好物のひとつである林檎を差し出してピッコロは部屋を出た。
『馬鹿な事しちゃったなあ……』
ピッコロが出て行った部屋でひとりそう呟く。
それは実に数十年ぶりの大雪だったのだ。雪が好きなのもあるがまるで両親とピッコロの四人で過ごしていた頃のワンシーンの様で思わず懐かしくなって羽目を外してしまったのだ。
確かその時もはしゃぎ過ぎて風邪を引いてしまっていた気がする。
熱を出した悟飯に普段冷静なピッコロが酷く慌てふためいていたのを思い出した。
(また心配させちゃって僕は馬鹿だなあ……)
そんな事を考えていたらいつの間にか眠りについていた。
流石サイヤ人というべきか。朝起きたらすっかり体調は戻っていた。窓の外はまだ一面雪まみれだ。
少し強めにドアを叩く音に返事を返す。
『はい。起きてますどうぞ』
『調子はどうだ?』
『おかげですっかり良くなりました。すいませんご心配おかけしました』
『全くだ。これに懲りたら今度はちゃんと着込んでいけ』
そう言ってピッコロはピッとお得意の魔術で悟飯の首に自分の道着と同じマフラーを巻き付けた。
『わっ、ピッコロさんありがとうございます!』
『忘れるなよ』
『ピッコロさんがわざわざくれたものを忘れませんよ!そうだ、ちょっと待っててくださいね』
そう言って悟飯はゴソゴソと箪笥からそれを取り出した。それは同じ色のマフラーだった。
『昔編んだやつで申し訳ないですけどどうぞ』
それは昔、ピッコロの為に編んだのは良いが何となく気恥ずかしさと断られたらどうしようと結局渡せなかったものだ。
『悟飯……』
俺は必要ない。そう言いかけてピッコロは止めた。昔のピッコロならそれをそのまま言っていただろうが今のピッコロは違う。
『ありがたく使わせてもらう』
そう言って悟飯に笑いかけると悟飯も嬉しそうに笑った。二人の心に暖かいものが広がる。
それ以来冬の日には同じ色のマフラーを付けた師弟がおり、それを見かけた仲間たちは揃って仲が良いなあ…と微笑ましげに二人を見守るのだった。