恋についてのエトセトラピッコロはナメック星人だ
ナメック星人は人間の様に雌雄で繁殖する事なく単体で繁殖する
…正確には龍族のみがだが
つまりはピッコロは恋というものを知らない、種族特性として理解出来ないと言った方が正しいか
そんなピッコロであるが何故か恋愛相談などというものに巻き込まれていた
きっかけはピッコロが目に入れても痛く無いくらい大層可愛がっている愛弟子、悟飯から相談を持ち掛けられた事だ
『ビーデルさんからデートに誘われたんですけど』
そう言って悟飯は何故か困った顔をした
デートと悟飯に言われてピッコロの脳内に神の知識がアップデートされる
デートとは一般的に年頃の男女が恋愛関係を発展させる為に行うもの…とある
成る程よく分からないと堅物の異星人は結論付けた
『恋愛…という奴なのか?よく分からんが』
『僕も定義としては分かるんですけどビーデルさんに対する感情がそれに相応しいかイマイチよく分からないんです…』
そんなのでビーデルさんに誘われるままデートするのは失礼じゃないのかと悟飯は言った
今ひとつ世間からズレているこの2人の師弟の頭の中にはお試しデートなるものが存在する事など知る由もない
ひとしきり悩んだ結果、恋愛に詳しい知り合いを呼べば良いのでは無いかと結論が下り、2人の古くからの知り合いであり、悟飯の父の大親友でもある地球人最強の男が神殿に呼び出された
『そう固っ苦しく考えないで試しにデートしてみりゃ良いんじゃないの?嫌いじゃないだろビーデルの事』
『まあそうですけど、良いんでしょうか?』
『ビーデルだって勇気を出してお前を誘ったんだぜきっと、男なら応えてやんなきゃな』
そう言ってクリリンは爽やかに笑い悟飯をバシッとひとつはたいた
クリリンにそう激励され、悟飯は2人にありがとうございます!と礼儀正しく礼をして外界へと下っていった
残されたクリリンはピッコロに笑いかける
『良かったな、悟飯が立派になってさ』
そう言って語り掛けるもピッコロは上の空で恋愛とは何だ分からんとブツブツ独り言を繰り返している
その姿にクリリンは苦笑する
『理屈じゃないんだよ、感情ってのはさ、お前だって小さい悟飯を守った時は無我夢中だったろ』
『それとこれとは違うのでは無いか?』
『そうでも無いぜ、好きだから守りたいって思うし、相手が幸せなら自分も嬉しい、恋愛感情って意外と身近なもんなんだぜ』
そう言ってクリリンはまだ思考の迷宮を彷徨う仲間を諭して愛する妻子が待つ外界へと帰って行った
その場には未だに考え込むピッコロ独りが残された
恋愛感情とは、【相手を特別に好ましく思う】【相手をもっと知りたいと思う】【相手の特別な存在になりたい】【この人に好かれたいという気持ちが優先される】【相手の愛情が自分以外の相手に向いた時に起こる妬みの感情も含まれる】etc…
あれからどうにも考え込んだピッコロは神殿の書物を読み漁り恋愛感情について調べに調べた
そして調べているうちにある事に気付いてしまった
『悟飯…』
いやいや似ているだけでそうではないだろうとその閃いた可能性を一蹴した
『これ、どうですかね?』
そう言って神殿を訪れた悟飯はピッコロのセンスを相当信頼している様で今度はビーデルとのデートの服装の相談にきた
悟飯が今着ている服は悟飯が10歳頃によく着ていた異国風の服装でピッコロの目にはそれは大層可愛らしく見えた
少年の頃ならまだしも大きくなった青年に向かってそれは少々失礼にあたるものではあるが
恋愛とは【相手を特別に好ましく思う】先日の書物の文言が脳内にリフレインする
『あ、ああ…良いんじゃないか?』
『本当?』
ピッコロの反応がイマイチ乗り切れて無かったせいか悟飯はその評価を疑ったらしく上目遣いでちょっと恨めしそうにピッコロを見つめる
その姿にもピッコロは可愛い!と反応してしまい内心、平静を保つのに必死になった
何とかいつも通りのニヒルな笑みを浮かべて嘘ではない似合っていると告げるとやっと満足したのか悟飯がニコリと笑ってトドメの一撃を言い放った
『ありがとうございます!ピッコロさん大好き』
恋愛とは【この人に好かれたいという気持ちが優先される】
『悟飯くんお待たせ〜待った?』
『ううん、今来たとこだから』
デートの待ち合わせの遊園地にてカップルのお約束のやり取りを返しにこやかに歩き出した2人を随分と離れた所から目深に帽子を被った巨体がそろりと慎重に追い掛けた
(これは悟飯とビーデルが上手く行くかどうか師匠として見届ける為だ!)
誰への言い訳なのかそう脳内で宣言しながら追う姿はベジータが見たらお前はバカの世界チャンピオンだとのたまうくらいにはなかなか滑稽な姿であった
まさか師匠が見守って?いるとは思ってもいない悟飯はビーデルとのデートをまずまず楽しんだ
乗り物は筋斗雲や舞空術ほどスピードが出る訳じゃないけどガタガタ揺れる様がスリルがあって楽しいし、併設されている動物コーナーではビーデルそっちのけで夢中になった為にビーデルからダメ出しを食らう羽目になったりはしたが楽しかった
楽しかった時間はあっという間に過ぎ、門限が近付いてきた
『ビーデルさん、今日はありがとうございました、そろそろ…』
『悟飯くん』
デートを切り上げようとする悟飯をビーデルの声が遮る
和やかな空気は一変し、少し緊張した空気が流れた
『好きよ、私と付き合ってくれない?』
そう言ってビーデルは真っ直ぐ悟飯を見つめて告げた
咄嗟に何を返せば良いのか分からない悟飯の泳いだ目がビーデルの目とかち合って近付いてくる
恋愛経験の無さ故に動揺して固まる悟飯に口元がゆっくり近付いて…
『待った!!』
気が付けば幼い頃から見知った師匠が2人の間を遮っていた
時は少し遡る…悟飯とビーデルのデートにこっそりと付いてきたピッコロはその様子を伺いながら考えていた
『悟飯くん、あ〜ん』
『び、ビーデルさん恥ずかしいですよ』
『ちぇっ』
傍目には仲睦まじい新米カップルに見える2人をとてもじゃないが見守る姿には見えないピッコロが睨みつけていた
恋愛とは【相手の愛情が自分以外の相手に向いた時に起こる妬みの感情も含まれる】
仲睦まじい2人の姿を見せつけられる度に脳内にやかましいくらい恋愛についての書物がリフレインする
いよいよこの堅物な恋愛感情を知らない異星人にも自分が悟飯に抱いているものが何なのかを理解しつつあった
(これはもしや恋愛感情という奴なのでは…いやいや違う、俺と悟飯はそんなものでは無い!大体悟飯にはビーデルの様な真っ当な相手と幸せになって貰いたい…)
が、保護者代表としての最後のプライドがそれを懸命に否定する
だがその悶々とした感情はビーデルのひと言で跡形もなく粉砕された
『好きよ、私と付き合ってくれない?』
恋愛とは【相手の特別な存在になりたい】
ビーデルの直球の告白は悟飯は真っ当な相手と幸せになるべきとのピッコロの固定観念をものの見事に粉砕した
世間一般的な常識なんぞ知るものか
俺は悟飯が好きだし悟飯が欲しい
そう脳内決意したピッコロは勢いよく2人の間に割り込んだ
『待った!』
『ぴ、ピッコロさん!?』
『ど、どういう事?』
『悟飯は渡さん!俺のだ!』
これは一体どういう事なんだろうか
いきなり割り込んでビーデルから悟飯をかっ攫ったピッコロの腕に抱えこまれながら悟飯は大いに混乱していた
いきなりのピッコロの奇行に悟飯の心は揺れに揺れていた
(悟飯は渡さん!俺のだ!)
直前までビーデルとデートをしていたというのに何故だか先ほどのピッコロの横恋慕も甚だしい発言が耳から離れない
混乱から復活しきれない悟飯を尻目に悟飯を抱え込んだピッコロと悟飯を奪われた形になったビーデルがバチバチと火花を飛ばし合う
『まさかこんな身近にライバルが居たなんて…でも負けないわよ!』
『悪いがこの勝負は譲らん…覚悟しておけよ』
『あの、ええと…』
そうビーデルと抱えている悟飯に言い放つピッコロに悟飯はただ、顔を真っ赤にさせて見上げる事しか出来なかった
後日宣言通り悟飯への恋心を自覚したピッコロによる熱烈なアプローチが始まった
ガンガン押しに押してくる師匠に押され、こっちも恋愛感情を自覚した悟飯がその想いに応え、母親であるチチを始めとした周囲が唖然とする中まさかのカップルが誕生した