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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    なっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/4/10)
    お題になった頭文字はEです。地味に2ページぴったりに収めるために頑張りました

    ##web再録
    ##鋭百

    Earth さらば地球! 僕とマユミくんは火星へと旅立った。
     情報規制とは恐ろしく、僕の与り知らぬところで火星への移住計画はずいぶんと進んでいたらしい。科学の技術は日々進化しているのだ。
     しかし残念なことに日本という国はなーんにも進んでいなかった。たとえば、同性婚に関わるあれやそれ、とか。なので恋人同士である僕とマユミくんはパートナーとしての関係を結ぶに留まっている。僕は『眉見』にはなっていないので、今もマユミくんをマユミくんと呼ぶ日々だ。はじめましてから八年間変わらない呼び名は手垢がついた年月だけ味わい深くなっていったが、そろそろ新しい風が欲しい。
     そんなところに火星移住計画だ。興味本位で取り寄せたパンフレットを眺めるに、人間がいじくりまわした火星はたいそう居心地がよさそうだった。名産品になる予定の果物はおいしそうな見た目をしているし、東京までは爆速スーパージェットスペースシャトルで二時間弱。四季こそないものの気候は温暖で大きな災害もないらしい。家賃はアイドルとして上り詰めた僕たちのお給料なら無理なく払えるし、抽選要項を僕らは満たしている。なにより、火星の法律では同性婚が認められているそうだ。きっとこのパンフレットを作った人間は日本人に違いない。特定の諸外国では当たり前に認められている権利をこれ見よがしにパンフレットに、先進的なアピールとして書いてしまうなんて。
    「マユミくん、これ」
     僕、『眉見』になれちゃうかもしれない。そう告げて渡したパンフレットの文字をマユミくんの指がなぞる。子供をやめた、骨張った力強い指だ。
    「応募してみるか」
     二つ返事だった。乗り気だった僕が言うのはなんだけど、慣れ親しんだ地球への未練はないのだろうか。
    「いいの?」
    「百々人がいればどこだっていい」
     なんという殺し文句だろう。僕は感極まって彼の額にキスをする。くすぐったそうに笑って、眉見くんは呟いた。
    「二時間弱だしな」
    「それもそうなんだよね」
     今生の別れではない。ちょっと戸籍が移って愛で結ばれた二人が結婚するだけで、僕らはなにも変わらないのだ。


    「見て、見えてきたよ」
     今や新幹線で東京から北海道まで二〇分で行ける時代だけど、それにしたって火星まで二時間弱はやりすぎた。これは鈍行だから実際には四時間くらいかかっているけど、それにしたって、それにしたってだ。そういえば僕らは仕事に行くときには特急である爆速スーパージェットスペースシャトルを使う予定だけど、これって交通費は出るんだろうか。
    「ああ……きれいなところだな」
     火星は美しかった。思い描いていた宇宙人はいないけれど、ここからでも視認できるくらい大きな六つ足の化け物がいる。彼は枯れ木のような扱いでよいらしいが、ときおりテレパシーを送ってくるからそれが嫌な人はテレパシーキャンセラーがついたイヤホンをするように注意書きがされていたっけ。
     大きな大きな木が見える。あれが特産品である果物を実らせる火星のライフラインだ。あの木から生まれる酸素を僕らは享受する。僕らが学生だった時代に流行った近未来映画に出てくるような都市に成り果てたメカメカしい東京シティと比べて、ここは牧歌的で居心地がよさそうだ。
    「なんだか都合がいいね。抽選が当たってからトントン拍子だ」
    「そうだな」
     マユミくんは涼しげな顔をして窓の外を見ている。それがどうしてこんなにも胸を締めつけるのだろう。
    「……ごめんね」
    「どうした、百々人」
     遠くに、遠くに地球が見える。あそこにはどうでもいい人間が何十億人もいて、大好きなファンのみんながたくさんいて、かけがえのない僕らの仲間が何十人もいて、たった数人、マユミくんの大切な家族がいる。
    「地球、捨てさせちゃったね。僕が結婚したいってワガママを言ったから」
    「別に会いに行けない距離じゃない。そもそも仕事があるからな、週に五日は地球暮らしだ」
    「……うん」
    「……それに、俺は百々人がワガママを言うことが嬉しい。結婚したいと言われて、嬉しかった」
    「……結婚できなくても、愛してるのに?」
    「なんだ、結婚して見せつけてやりたいじゃないか」
     そう言ってマユミくんは僕にキスをする。乗客は窓を覗いていて僕らの口づけを見ている人間はひとりもいない。乗務員である火星人がこちらを見ていたけど、まぁそれはいいや。
     マユミくん。どんどん好きになって、どんどん僕のものにしたくて、どんどん特別な名前が欲しくて、ごめんね。
     それでもスペースシャトルは進む。僕らはもう一度窓の外を見る。
     考えることは多くなかった。まず、名産品の果物の名前を決める公募に応募してみるかどうか。
     それともうひとつ。僕が『眉見』になれたなら、僕はこの人をなんて呼ぼうか。
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