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    ヨコカワ

    @wanwaninushizu

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    ヨコカワ

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    夏のほろ苦い思い出と、それをかき消すような甘い思い出の話
    灼熱の夏に、ぐるぐる悩む思春期の若者たちが癖です

    ワンドロ企画様に参加させていただいたものです。
    お題『夏の思い出』

    特殊な設定です、ご注意ください
    同じ高校出身の高校生rn(18)×大学生isg(19)
    パロとして、細かいことが気にならない人向けです

    メルトセンセイション――
    自身のこめかみから伝った汗が丸い粒になって、組み敷いた男の頬を弾いた。少し焼けた肌の上を滑って首筋まで落ちたそれは、元々じっとりと浮かんでいた男の汗に溶けていく。

    「だめだって」
    「何でだよ」
    「何でって……」

    男は困ったように眉根を寄せて、目を左右に少し動かしながら、まだ早い気がする、とあまりにも説得力の無い言い訳を零した。

    「な、この先は大学生になってからにしよう。別に焦ることでもないだろ」

    起き上がった潔は、ベッドの上に転がった避妊具の箱とローションを手に取って、困った表情はそのままぬるまったい笑顔を見せた。

    「それまでこれは預かっとくな」

    ジッ、ジジという耳障りな蝉の羽音が近づいてきたと思えば、窓にぶつかったのか、カツンと音を立てて一瞬だけ影を見せた。
    エアコンもつけずにベッドになだれ込んだため、部屋の中はまさに灼熱地獄だ。凛の目の前に映るのは青っぽいタオル地のシーツだけ。手のひらに滲んだ汗を吸い込んでいくサラリとした布を見ながら、めまいがした。
    17歳、最近お互いの意志の元に付き合い始めた恋人にセックスを拒否されたという思い出が、夏の匂いや音と共に強烈にこびりついた。


    ――
    あれから1年。
    糸師凛と潔世一は変わらず所謂"恋人同士"という関係だった。
    サッカーの強豪高校で知り合った2人は最初こそ喧嘩ばかりであったが、その1年後には手を繋いでキスをする関係になっていた。他の部員が聞いたら卒倒してしまうかもしれないが、兎にも角にも2人は交際を初めて2年目になる。

    「凛!よく来たな。暑かっただろ」

    潔は今年の春に高校を卒業し、プロ選手へのスタンダードな登竜門でもあるサッカーの強豪大学に入学した。都内にある部の寮(とはいえ、借り上げのアパートのようなものだ)に引っ越した潔と顔を合わせるのは久しぶりだった。
    基本的に人の出入りは自由らしく、こじんまりとした極普通のアパートは年季が入っているが小綺麗だった。靴を脱いで足を踏み入れれば、潔の実家とはまた違う匂いが漂っていた。

    「洗面台そこだから使って。麦茶でいいか?」
    「ああ」

    廊下にはミニキッチンと冷蔵庫があり、潔は左手にある脱衣場を指さした。洗面台に置かれていた無くなりかけのハンドソープは、潔の実家に置いてあったものと一緒だと何気なく思い出す。

    「マジで暑すぎてさあ。クーラー消すタイミングが分かんなくてやばい」
    「部活は」
    「今日はオフ。朝少しだけロードワーク行ったけど、7時から炎天下で参ったわ」

    ワンルームの中は、ベッドが1つ、ローテーブルとテレビ、それからデスクが1つ。物が少ない訳では無いけれど、溢れかえってもいない。
    彼の平均的な人間性が滲み出ている室内の様子を立ったまま見渡していれば、床じゃ悪いからこっち来いよ、と潔が自身の腰かけていたベッドの横を手のひらで叩いた。

    「面接対策、何か始めたんだっけ?」
    「チッ、早々にそれかよ」
    「そういう話をするためにわざわざ来てもらったんだろ」

    今日凛が潔の部屋に足を運んだ目的は、潔と同じ大学に同じスポーツ推薦で入学するための諸々の対策のため、だ。尤も凛にそんな教えを乞うつもりはなく、潔があまりにもうるさいから珍しく折れただけである。凛は、この男のこういう所が大嫌いだった。

    「俺の戦績を見て取らねえ所なんて終わってんだろ。対策なんざ必要ねえ」
    「その態度が心配なんだよ。内申点は?てかお前、まさか期末で赤点取ってないよな?」

    潔が大学に入学してからは、まだ1度しか顔を合わせていなかった。凛に悪いからと部活や授業の合間を縫って突然こちらへ帰ってきた潔の行動は、無性に癪に触ったことを覚えている。面接対策の件もそうで、この男は妙に年上ぶるきらいがあるのだ。

    「これが俺の時に聞かれたことなんだけど……」

    そう言ってプリントを見せてくる潔は、部屋着なのか薄っぺらいTシャツとハーフパンツを身につけており、見た目は1年前とひとつも変わらない。しいていえば、少しだけ体つきが良くなったかもしれない。大学にあるトレーニング機器がいいのだろうか。フィジカルトレーニングの時間を増やしたのだろうか。ぼんやりと考える。

    「おい、凛!聞いてる?」
    「そんなこと聞きに来たんじゃねえ」
    「じゃあ何しに来たんだ、お前は……」

    あまりにも通常運転な傍若無人には慣れているためか、潔の口から漏れたのは怒号ではなく呆れた笑い声だった。一切差し出された資料の方を見ない凛の表情は、完全に興味が無さそうでありながら、どこかへそを曲げた子供のようだった。こうなってしまえば、もう年上ぶりたい心を擽られた潔の敗北だ。

    「凛〜。俺がいないサッカーはつまんねえだろ」
    「は?自惚れんなヘタクソ」
    「同じ学校に入れば、強くなった俺がお前をギャフンと言わせてやるよ」
    「弱え奴ほどよく吠えるな」

    実際潔がワンオンワンで凛に勝てた試しがないが、仮にも先輩にあたる人間への失礼な物言いに、動物をしつけるかのように凛の頬が勢いよく引っ張られた。

    「言っとくけど、大学だって上下関係はあるんだからな!」
    「はなせ、クソ潔」
    「ふは、マヌケ顔」

    薄い頬を引っ張っていた手はすぐに振り払われたが、潔は大層満足そうに砕けた笑みを浮かべた。

    「……久しぶりだな、凛」

    相変わらずで良かった、と妙に大人びた表情で微笑む様子を見て、ほんの1秒だけ凛の思考が止まる。この間まで同じ高校生で、たかだか1歳違いなのに、大学に上がってからは例の悪癖が悪化の一途を辿っている。それが目の前で体現されたようだった。

    「ムカつく」
    「ひでえ」

    やられたより強く頬をつねり返せば、緩みきった目尻が凛を見つめた。その顔はたしかに昔と変わらないのに、変に開いてしまった物理的距離も、前に会った時に聞かされた大学の話も、全部不愉快だった。
    つねった指先をそのまま顎先に滑らせて、軽く持ち上げる。青い瞳は僅かに見開かれたが、二ヶ月ぶりのキスは躊躇いなく受け入れられた。

    「……」

    触れるだけのそれが終わって顔を見れば、何故か真っ赤になった潔が気まずそうに視線を提げた。

    「今更何照れてんだ」
    「いや……一人暮らしの部屋でこんなことすると、妙な気分になるなって思いまして……」

    久しぶりに会った恋人が、首筋まで赤く染めあげてそんなことを言ったこの場面で、健全な精神を持った男子高校生の理性が揺らがない訳無いのだが、伸ばそうとした凛の手は躊躇われた。ちょうど1年前に、潔のーーあの時は実家の部屋で、キスのその先を求めた結果が脳裏によぎる。

    「トイレ」
    「あ、脱衣場の横な」

    クールダウンするために、ワンルームという環境で唯一許された場所に立ち尽くす。
    あいつはサッカーのこと以外考えられない、とクラスメイトから囁かれている凛だって、何も考えずにここに来た訳では無い。ついこの間まで、二人きりの場所を探すのに苦労していた自分たちにとって、その点だけはあまりにプラスとなる大きな環境の変化だった。
    気分を切り替えるようにレバーを捻って、洗面台の方で手を洗う。手洗い石鹸のポンプを押せば、スカスカと空気だけが漏れ出した。別に深い意味は無いけど、手は石鹸できちんと洗っておこうと思ったのだ。

    「おい、潔。石鹸」
    「切れた?洗面台の下の棚に替えがあるからーー」

    言われた通りに洗面台の下の棚を開ければ、やっぱ、待って!と大きな声と大袈裟な足音が飛んでくる。
    棚の中には、言われた通りハンドソープの替えやシャンプー類の替えがポツポツと並んでいた。その暗がりの中に異質なものが二つ。凛が昨年の夏に、わざわざ遠くのドラッグストアで購入して潔の家に持ち込んだ、避妊具とローション。

    「……」

    廊下にいる潔の方へ無言で顔を向ければ、ようやく冷めただろうに、また真っ赤に染まった顔が逆方向へと勢いよく向けられた。

    「じ、実家に置いていく訳にもいかず……」

    去年の夏と同じように、聞こえないくらいの声量で頼りない言い訳が滑り落ちていく。
    すくりと立ち上がった凛は、ハンドソープの横に並んでいた洗顔料で乱暴に手を洗う。水だけよりはいいと思った。
    潔は、まさに穴があったら入りたいとでもいうかのように手で顔を覆っていたが、目の前に落ちた凛の影にようやく顔を上げた。

    「り」

    塞がれた口からは、名前が呼ばれることはなかった。勢いに押された潔の尻がキッチンのシンクに預けられる。ん、く、と漏れ始めた吐息と声に、体温が上がるのを感じた。
    夢中で唇を貪っていれば、今まで気にしていなかった環境音が耳に入る。玄関ドアの方からは蝉の声、部屋の方からはエアコンの無機質な音。目の前では、ようやく開放された口から一筋の唾液が伝って光っていた。

    「お前、いきなり……」

    力が抜けたのか、そのまま床へと腰を落とした潔の首筋にはうっすらと汗が浮かんでいた。開けざらしにされた部屋のドアからはキンキンに冷えた空気が漏れ出していたが、廊下は息が詰まるような外気に侵食されていため仕方ない。凛自身も、背中に汗が伝い始めたのを感じていた。
    目線を合わせるようにしゃがみこみ、首筋で玉になり始めた汗を舐めとる。ひ、という情けない声と一緒に潔の身体が大きく揺れた。耳に舌を突っ込めば、さらに聞いたこともないような色のついた声音が溢れ始めた。もう潔には、この蝉の声も冷房の音も聞こえていないのだろう。

    「大学生になってからって、お前がか、俺がか」

    ぐったりと身体から力が抜けてしまったTシャツの裾から手を入れれば、熱を持った腹筋が膨らんだり凹んだりしている。
    相変わらず赤くしたままの顔で凛の方を見あげた潔は、面接対策を拒否した時とはまた違う困り顔ーーどちらかと言えば、練習で凛に1歩及ばなかった時みたいな顔をしていた。

    「後者のつもりだったけど」

    体を丸めた潔の指先が緩慢な動きで、立膝を付いた凛のふくらはぎの上を滑った。そのまま腹部の方へ上がって、やがて熱を持った下半身の上へと置かれた。

    「凛が我慢できなそうだがら、前者にしようかな」

    生理的な涙が滲んだ青は、いたずらっぽい光を含んでいた。余裕の無い吐息は、もうどちらから漏れているものなのか分からない。流れてくるエアコンの冷気では足りなかったのか、潔の身体はびっしょりと汗で濡れていた。肌にはりついたシャツに目を奪われていると、返事を催促するかのように唇を重ねられる。熱い舌が口を開けろとせがんできて、首の後ろに腕が回された。お互い雨に打たれたみたいに濡れた身体が、吸い込まれるように重なる。

    「……待たせてごめんな」

    眉間に皺を寄せて黙りこくっていた凛にそう告げた潔は、先程自分がされたように目の前の首筋の汗を舐めとって見せた。
    こういう所が、本当に嫌いなのだ。この男の全部が、この夏と、自分の熱に溶かされてどうにかなってしまえばいい。そう思いながら、凛は目の前の絶景に手を伸ばした。
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