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    ヨコカワ

    @wanwaninushizu

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    ヨコカワ

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    好きと気になるの境界線で揺れてる、大人になりかけの2人

    以下ご注意ください
    ・ご都合捏造設定
    ・17歳メンバーが20歳の未来軸
    ・みんな海外プロチームにいる
    ・飲酒描写あり

    ブルー アンビエンス5月下旬。
    日本はすっかり春の陽気に包み込まれ、温かな日差しが降り注ぐようになっていた。
    桜もすっかり散り、ゴールデンウィークも過ぎ去ってしまった世間は、新年度に馴染み始め、ざわつきが落ち着いているようだった。

    普段ドイツのプロチームでプレイする潔世一が母国へと帰国したのは、およそ1年振りであった。
    海外での生活も体に馴染み始めた頃、ヨーロッパはオフシーズンに入り、久々に足を運ぶことが出来た。こちらには10日間程度の滞在となるが、その中でも今日は特に楽しみにしていた予定がある。

    数年前、世界を熱狂の渦に巻き込んだ青い監獄プロジェクト。
    時には仲間として、時にはライバルとして共に切磋琢磨したメンバーたちと、久しぶりに腰を据えて会えるのが今日だった。
    3年前はゲームセンターやボーリング場で遊んでいた自分たちが、今日は新宿の居酒屋を貸し切り、飲み会をしようというのだから、自分たちも曲がりなりにも大人になったものだ、と潔は心を躍らせた。

    日本のプロチームへと進路を進めたメンバーはシーズンの関係で出席が難しいと聞いていたが、潔自身が特に親交の深かったメンバーは海外所属勢が多く、出席率が高いのも楽しみの要因だった。

    平日夜でも、新宿の街中は騒々しい。
    念の為、とキャップを深く被った潔は、するすると人混みをぬけ、少しだけ道のそれた場所にあった居酒屋に足を踏み入れる。
    潔だ!と誰かが暗い店の中から声を上げた。

    ------
    酒を飲んだことはあった。
    潔が普段過ごしているドイツでは、18歳の飲酒は合法だ。あちらに移り住んだ時には18歳を満たしていたこともあり、大嫌いなチームメイトに絡まれて何度か酒を口にしたことがある。ただ、幼い頃から刷り込まれた”酒は20歳から”、”早い頃から飲酒して身体に支障が出たら”などの思いが自然とストッパーとなり、””酔っ払う””ほどの量を飲んだことは無かった。
    潔は確かに酔っていた。人生で初めて。

    「潔ベロベロじゃん! てっきりドイツで飲み慣れてるのかと思ってた」

    広いワンフロアには、あの頃しのぎを削りあった面々が、スタンディング形式でそれぞれ昔話に花を咲かせている。
    潔はといえば、カウンター席で突っ伏し、隣で楽しそうに酒を嗜む旧友たちに微睡んだ視線を送っていた。

    「いや、飲みなれてねえし……お前らこそなんでそんな平気で……」

    そう話を繋ぐ間にも、視界がふわふわとする。
    蜂楽も千切もケロッとした顔で、潔の見たことの無いような酒を口にしているが、2人の顔色は変わっていない。

    「俺たち、大人になったよな……」
    「どうしたどうした」
    「3年前はこんな、みんなで酒なんてさあ……」
    「潔、酔うとエモくなっちゃうタイプ?」

    ぶつぶつと呟く潔の脳には、ここ数年の思い出が蘇る。色んなことがあった。この数年は確かに自分の人生のターニングポイントだった。たった数年で世界は変わった。それはきっと、これからもーー。

    「……あれ!?もしかして凛ちゃん!?」

    隣の蜂楽が突然声を張り、入口付近の人影を呼び寄せるように手招きをする。
    依然として突っ伏したまま、視線だけを緩やかに後ろに向けた潔の目に飛び込んできたのは、不機嫌そうに淀んだエメラルドグリーンの瞳だった。

    「……凛!?」
    「うるせえ」

    糸師凛だった。潔は自分の目を疑った。酔っ払った自分の夢?だって、糸師凛という男はこんな場所に来る男では無い。世界は変わると言っても、変わらないことは勿論ある。その一つで、凛がこんな場所に来るはずはないのだ。

    凛は軽装だった。薄手のスウェットに細身のパンツで、ポケットに乱暴に財布とスマホが入っているようだった。機嫌悪そうに、蜂楽たちのいた方とは反対の、潔の隣の席にドン!と腰をかける。

    「凛、お前、ついにこういう所に来るようになったのか……!」
    「あ?」
    「昔はいつも一人ぼっちで、みんなの集まりとか来たこと無かったのに……!お前も、大人になったなあ……!」

    凛がみんなの集まりに来るという、あまりに前代未聞の事態に、潔のテンションも急上昇していた。嬉しかったのだ。

    凛と潔は別の国の別のチームに進んだものの、ずっとお互いを意識してプレーしていた。そこは数年経っても変わらなかった。とはいえ、こうして直接顔を合わせるのは本当に久しぶりだった。
    プロジェクトが終了した時、凛は当て逃げのように潔に連絡先を置いていったが、潔は自らメッセージをしたことはなかった。メディアを見ればお互いのことはわかったし、何気ないことを送れるような関係ではないと思っていたから。

    そんな凛に、こうしたカジュアルな場所で意図せず再会できたことも、彼がこのような場所に来るほど丸くなったことも、潔は素直に嬉しかった。
    ひとしきり思いをめぐらせ、ニコニコと機嫌を良くした潔は、目の前にあった瓶ビールを掴んで、グラスを探す。

    「凛も飲もうぜ」

    凛は、眉間のシワを深くするばかりで、先程から何も言わない。明らかに機嫌を損ねていることに、潔越しのメンバーは気づいていたが、潔は気がついていない。禍々しいオーラに、少しずつ周りの人が離れていくことも。

    「あ、でも凛って飲まないようにしてたりする? まだ19歳だよな」

    でもフランスも~と、いつも公私共に読みすぎるくらい空気を読む潔の、それこそ前代未聞の大暴走を強制停止するように、凛の手のひらがバチン!とその口を塞いだ。

    「うるせえって言ってんだろ……」

    手のひらが肌を張る音に、周りは遂に凛が手を出したかとハラハラしながら状況を盗み見るが、派手なのは音だけで、潔の口が勢いよく塞がれているだけだ。
    ヒリヒリとした痛みとともに、潔は依然として微睡む。
    この感じは久しぶりだった。凛が怒っている。青い監獄での日常が蘇る。色々な凛の表情を見た日々。走馬灯を見るような、とめどない記憶の積流が止まらないま、潔の瞼はゆるく落ちた。
    最後に聞こえたのは、蜂楽の「凛ちゃん、薬盛った?」に対する、大層ご立腹な「んなわけねえだろ」という凛の一言だった。

    ------
    降り注ぐ水の音が脳の裏側で聞こえた。サアサアというその音は絶え間ないが、決して強くはない。細い雨の糸が平らな地面にひたすら落ちていく音。雨とは少し違うそれは……シャワー?そうだ、シャワーの音だ。
    潔の思考が正解にたどり着き、そのまぶたが開いた時、頭はずっしりと重く、その身体はーー。

    「え、何?.......おわ!」

    目を覚まし、キョロキョロと辺りを見回す潔の上から、容赦なく降り注いだぬるい水流の嵐。視界を遮る煩わしいそれを拭いながら必死に周りのもの確かめると、見慣れない浴室のタイル、そしてぬるま湯でビショビショになった下着1枚の自分の身体があった。

    「え、何……?」

    もう一度、呟く。
    なぜ自分はパンツ一丁で体育座りをして、シャワーを浴びせられているのか。それも知らない風呂で。

    「頭が冷えたか、タコ」
    「凛……」

    眼前には、シャワーを片手に持って自分を見下ろす凛がいた。先程の飲み会に来た時と同じ服装で、足首と手首のあたりを濡れないように腕まくりしている。
    ”頭を冷やすため”にしては、少々手洗いことをされているとは思いつつ、凛が酔いつぶれて動けなくなった自分をどこかへ運んだという経緯は何となく想像がついた。

    「ごめん、飲みすぎたんだな、俺……ちゃんと酒飲んだの初めてで、よく分かんなくて……」

    我ながら言い訳がましくてかっこ悪いと思ったが、蜂楽や千切ほど気心が知れているわけではない相手に迷惑をかけた後ろめたさと、素直な申し訳なさに、潔は正座に座り直して頭を下げた。

    「お前は、大人になったのかよ」
    「え?」

    謝ってもなお、何故か怒りのボルテージを上げていく目の前の男に、潔は焦る。大人?凛はなんの話をしている?自分が凛に何かを言ったのだとしたら、確実に飲み会の時だ。しかしずっしりとした頭の重さが、たかだか恐らく数時間前の記憶を、あいまいにぼやけさせている。
    コートの上にいる時とは人が変わったような、エゴイストの欠けらも無いオロオロとした表情にまた苛立ちを募らせた凛は、永遠と水を垂れ流すシャワーを再び眼前に浴びせた。

    「ぶっ!おい!何だよ!てかごめん、ここどこ?どんな状況?飲み会でお前と会って、お前……」

    水流の暴力に耐えながらそこまで口走って、潔は気がついた。凛が何故か飲み会に来ていて、それを大人になったな、と褒めたこと。凛が飲み会に来たのは、大分みんなが出来上がっていた終盤の頃。慌てて駆けつけたかのような軽装。真っ先に自分を見た様子。記憶の糸をたどたどしく辿って、やがて潔自身にしか見つけられないピースがカチリとハマる。

    「お前のこと、俺が、呼んだんだ……」

    凛の能面のような顔がピクリと動いて、シャワーヘッドが床を向いた。水は大理石に向かって流れ始め、あっという間に水溜まりを作っては崩れていく。

    ”凛も飲み会来いよ。久しぶりに会いたい。”

    それは連絡先を交換してから、互いに一言も発してなかったトーク画面に初めて表示された一言だった。酒が回ってきて、トイレの中で開いたメッセージアプリの友達一覧から、わざわざ名前を探して、潔は確かにその言葉を送った。送っておいて、自分は気にせず飲み会に興じていたのだ。

    ーーいやだって、凛が来ると思わないだろ。

    今回の飲み会は大規模なもので、プロジェクトの参加者全員に開催場所や時間が周知されていたことは知っていた。でもまさか、凛が来るなんて。やはりその驚きと、芋づる式に思い出された自分の女々しい行動に嫌な汗をかいてくるようだった。

    「わざわざ足を運んで、着いた途端にお前にバカにされた俺の気持ちが分かるか」
    「ご、ごめん……会いたかったのは本当で……」

    キュ、と蛇口を捻った凛が振り向きながらシャワーをホルダーに戻す。
    数年越しに突然送られてきたメッセージを見て、好きでもない飲み会に来たら、呼び出した張本人に「え?こんなとこ来るなんて大人になったな~!」なんて言われるの、想像しただけでそれなりに気分が悪いな……と潔は想像のその先で再び頭を下げた。

    凛はその丸い頭を一瞥し、スタスタと浴室を出ていく。まあ、数年ぶりに突然呼び出されておちょくられて、挙句の果てに酔っぱらいの介抱をさせられーー。怒られても仕方ない。とりあえず潔もタオルを探すべく、濡れた体をそのままに浴室から一歩踏み出し……驚愕した。

    「え!?何ここ!?」

    脱衣場がないところまでは、潔の想像の範疇だった。浴室の扉からうっすらと部屋の様子が透けている様子を見て、適当なビジネスホテルかと思っていたからだ。
    しかし、目の前に広がるのは想像以上にラグジュアリーな空間だ。薄暗い室内にはビジネスホテルにしては仰々しいカーテンやソファーが並び、部屋の中央にはキングサイズのベッドがひとつ。

    「ラブホテル……」

    潔も20歳になる。子供ではあるまいし、それくらいの知識はある。たとえ足を踏み入れたことはなくても。
    問題は、なぜ自分と凛がこの場所に二人でいるのかだ。ビジネスホテルが空いていなかったとして、よく道端に自分を捨てずにラブホテルに入ったものだ。そもそもラブホテルというものは男二人でも入れるのか……。潔にその思考をまとめるだけのピースはなかった。

    「””大人””なら慣れてるだろ」

    一方の凛は、キングベッドに腰掛けてぶすっとした声で言った。

    「お前……」

    拗ねてるーー?
    潔は、自分が深く考えすぎているのだと思考を切りかえた。もっとシンプルに思考するのが正解だ。凛は怒っていて、それはバカにされたからで、意趣返しをしている。この男がここまで手の込んだ仕返しを選ぶとは意外だったが、何せ潔は己の所属するチームにいる性格の悪い男の嫌がらせの数々に、感覚が麻痺していた頃だった。

    「いや、だからごめんって。本当に。呼び出したのも、呼び出しておいてこんな事になったのも申し訳ないって」

    思ってる。
    そこまで言い切る頃、潔の視界には深い赤の天井が広がっていた。重い頭が、身体が重力に負けて下に吸い込まれるようだった。腕を引かれ、ベッドに組み敷かれたことは直ぐにわかった。濡れた身体にパリパリのシーツが張り付く不快感とともに、凛の意図はまた分からなくなってしまった。

    「ぬるいって言ってんだよ」

    凛の右手は、潔の顔を潰すように掴んでいる。それは頬を圧迫するなんて生易しいものではなく、顔面を砕きそうなほど強く、顎の骨が軋むようだった。

    「舐めんじゃねえぞ」

    ジワジワと増していく痛みに、潔の両手も抵抗しようと伸びるも、左手は上に乗る男の左手に押さえつけられ、片手ではその自分より少し大きな手を剥がせそうにない。

    「わか、んなかった」

    顔を圧迫された状態で吐き出した潔の言葉は、随分と不細工な音だった。

    「ずっと、お前に、何送っていいか、わかんなかった、んだよ……」

    離せ、と鋭くなった潔の視線に、ようやく凛の手が離され、固定されていた頭がゆるやかに枕の上に落ちた。その輪郭はぼんやりとした暗闇の中で真っ赤に染まっている。

    「.......子供っぽいことしたと思ってる。ごめん」

    まるで文脈のない自分の言動に、てっきり文句のひとつやふたつが飛び出すかと思いきや、下からは相変わらず謝罪がこぼれ落ちるだけだった。
    交代するようにするりと伸びてきた右手は、凛の輪郭をなぞるように顔に添えられて、柔らかく頬を包み込んだ。

    「はは、酷い顔 」

    酒を飲んでも、酒に飲まれても、自分は子供だと、その時潔は心の底から反省していた。
    本当は、凛が自分の手元に連絡先を置いていったあの日から、自分は凛にとって特別なのだと気づいていた。コートの上の宿敵で、殺したいほど憎い相手で。別のところにまた、それ以上の感情があることに。

    一方で、凛の腹の底は再び渦巻いていた。自分の頬を掴む自分より少し小さな手のひらが柔く動くのも、コートの上でギラギラと全てを射抜くその瞳が、今は宥めるようにこちらを見つめていることも。
    お互いが、同じゴールに向かいながらも別の道を歩み出したあの日、殺したいほど憎いこの男に連絡先を渡した。人生で1番柄にもないその行動をずっと後悔していた。それ以上に、コートの外でも潔の存在がチラつくことに心底腹が立った。数年越しのメッセージに目を見張ってしまったことも、許せなかった。
    そして今リアルタイムで許せないのは、目の前で繰り広げられるその言動だ。分かったような顔をして、自分だけが悪いと謝るようで、大人ぶっているその男を壊したいと思った。

    「なあ、凛」

    凛の顔に添えられた手に、少しだけ力が入る。ぐぐ、と頬肉が押し潰され、ぼんやりと焦点を探し続けてた凛の瞳が、目の前に迫る青い瞳に吸い込まれた。

    ガチ、と不器用で小さな音が静かな部屋に消えていく。
    凛が、目の前の男に唇を重ねられたと気づくまで時間がかかった。歯がぶつかりあうような一瞬のそれはまるで子供の真似事のようで、同時に獲物に噛み付くようだった。

    「俺も、ちょっとずつ大人になるからさ」

    ーー食われる。
    糸師凛は本能的にそう思った。
    潔の真っ直ぐな瞳には、確かに青い炎が揺らいでいる。この男はいつだってそうだ。それはとても気持ちが悪く、1人歩もうとする自分を、ひどく離さない。

    「るせえ、俺がお前を殺すのが先だ……」

    自分の頬を掴んでいた手のひらを引き剥がし、もう一度潔の身体を組み敷いても、完全に覆い被さることはできなかった。今この男に心臓を重ねたら終わりだと思った。
    シーツには、潔の体から落ちきった水滴たちが、薄く広がって奥深くまで根を張っていた。
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